軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談205話、最深部へ

白い巨獣が向かってきた。ここで守護者として存在するティラノサウルスを連想させる白いドラゴンもどき。

ソウヤは斬鉄を構える。入り口からしばらく進んだところで見た同族は、遠巻きに見守るばかりで攻撃してこなかったが、今回は向こうからやってきた。

「殺意を感じるな」

「話し合いって雰囲気ではないわね」

ミストがチラリと舌を覗かせた。

「より純粋な獣っぽくもある」

「ある意味、その姿らしいというべきか」

ジンは腕を組んだ。

「これまでが利口過ぎたのかもしれない」

「本来の形かどうかはわからねえが――」

ソウヤは踏み込む。

「殺意を丸出しで向かってくるのなら、叩き潰すまで!」

「ソウヤ」

老魔術師は、元勇者の背中に言った。

「それ、できるだけ殺さないようにしたほうがいいと思う」

「え?」

すでに牙を剥き出し突っ込んできている守護者。野獣の咆哮。それを前にして殺さないように、とは。

「手加減はできるか、ソウヤ?」

「……やってみる!」

噛みつきを回避し、ドラゴンもどきの側頭部に斬鉄の腹をぶつける。刃で斬らないようにしてやったぞ――ただ鈍器で殴打しているのと変わらない打撃が入っているので、それで死んでしまったなら仕方がないが。

「爺さんが、そう言うんだ。何かあるんだろう……!」

正直、納得はしていないが、年長者の意見は無視してろくなことはない。ソウヤの強打を受けて、ドラゴンもどきが頭を振る。さすがに脳を揺さぶられて、足がふらついているようだった。

人間が殴った程度で怯むような巨体ではないが、豪腕のソウヤの打撃はさすがの守護者にも効いたようだった。

が、それでは倒せない。倒さないように加減して刃をたてなかっただけだから、当然といえば当然かもしれない。

「で、ここからどうするんだ? 殺さないように殴り続ければいいのか?」

それで死んでしまったらどうなるんだ、と思いつつ、ソウヤは挑んでくるドラゴンもどきの噛みつきのたびに側頭部を叩き続けた。

――何だか、頭の悪い躾をやっているみたいだ。

暴力で動物を躾けているというか、悪いやり方をしている。そんな気分になる。

ミストはジンに尋ねた。

「何でやっつけてしまわないの?」

「確信はないが、ちょっとした思いつきだ」

ジンは首をかしげる。

「人を蘇らせようとやってきた者が、他の生き物を殺す件について。生命の扱いの矛盾について問われたら、どうなんだろうと思った」

「冗談よね?」

「冗談で、命懸けの状況で言うと思うかね?」

老魔術師は肩をすくめた。ミストは眉をひそめる。

「向こうが攻めてきたのよ?」

「ここの守護者だからな。あのドラゴンもどきは、そうするようになっている。テリトリーを侵犯しているのはこちらのほうだ」

「黙って殺されろと?」

「いいや。あれだけひっぱたかれて、なお向かってくるんだ。返り討ちにあっても言い訳は立つだろう。我らがソウヤ君は、生命にまつわる質問に対して、少し敏感になっているからね」

光の守護者から投げかけられた言葉で、後ろめたさを感じたソウヤである。ミストは胸を張れとソウヤには言ったのだが。

「言い訳作りで、殺さないように?」

「悪い言い方をすればそうなる。向こうがしつこく攻撃してくるから反撃した。それで後に続く奴から、生命の矛盾を衝かれた時に彼が悩むことがないように」

「考え過ぎじゃない?」

「私もそう思う。たぶん取り越し苦労なのだろうが、可能であるなら死は少ないほうがいい」

ジンは天を仰いだ。

「ここの守護者たちが、よそに出て行って殺戮するような者ならここで倒しても全然問題ないかもしれないが、あれはここと神竜を守っているだけだからね」

彼の視線は、洞窟の奥へと向く。そこにはドラゴンもどき――守護者の集団がいて、じっとこちらを観察していた。一体がソウヤと戦っているが、その様子を観察しているようだった。

「お爺ちゃんのそれ、まんざら的外れでもない気がしてきたわ」

ミストは眉間にしわを寄せた。

「仲間がやられているのに、いやに冷静に観察しているじゃないの」

その間に、とうとうソウヤが守護者を一体倒した。しかし殺してはいない、気を失ったのだ。

「これでいいのか、爺さん……っと」

ソウヤも、さらに奥に守護者のドラゴンもどきが複数控えているのに気づいた。こいつらも向かってくるのか――そう思った矢先、ドラゴンもどきはすっと離れていった。拍子抜けするソウヤ。

「何だって言うんだ……」

「通っていい、ということなんだろう」

ジンはソウヤに追いつくと、肩を叩いた。

「お疲れさま。それで、感じるか?」

「ああ。神竜の魔力、気配だな」

少し先から、あの神聖なドラゴンの雰囲気を感じる。冷ややかなのに、厳かな、清流に身を清めているような気分にさせられる。

凄い、とミストは呟いた。

一本道を進む。

そして、ついに到着した。ソウヤがかつて出会った神聖なる巨大なドラゴン、神竜が。

『やあ、ここに人が来るとは、久しぶり……でもないか。ご友人……そうだ。確か、ソウヤだったね』

「覚えていただけたとは、光栄です、神竜様」

ソウヤは背筋を伸ばした。ミストは初めて見る神竜に呆然としている。神竜はからかうように言った。

『今度は正面からきたんだね。守護者たちと戦って』

「極力殺さないようにしました」

『そのようだね。知っている』

神竜は目を細めた。守護者たちに対して何も感じていないように、そっけないものだったが。

『世間話をしにきたわけではあるまい。……我としてはそれでも歓迎するがね。ご友人がここにきたということは……人の復活かな?』