軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談197話、揺らめく炎

運動をすれば、より腹は減る。代謝がいいのだろう。武器を手にしながら、炎の守護者は空腹であると口にしたのだ。

「私は面倒が嫌いだ」

サラはすっと片手を上に挙げた。

「タスラム!」

青とも紫とも形容しがたい球体が現れる。所々に赤々としたものが見え隠れし、異様な熱を放つ。

「燃えろ」

球体を、サラは振り下ろして飛ばした。ソウヤたちのもとへ飛んでくるそれは、周りの空間を熱で歪めているように揺らめかせていた。

決して速いように見えないのに、静かに、すっと懐に入り込むように素早く向かってくる。

声を上げる間もなかった。それが攻撃であると認識するのが遅れた。何かが飛んでくると見れば、それが何なのか判別つかずとも回避行動を取ろうとするものだ。

だが危険と認識するのが遅れた。あまりに自然に、空気のように入り込んできたのだ。

しまっ――

ソウヤが身構えた時、フッと球体は消えた。聞こえてきたのは老魔術師の声。

「それは危ないから、消してしまおうね」

ジンが、向けていた手を下ろした。ミストは動けなかった自分に驚きつつ、視線を向けた。

「お爺ちゃん?」

「今のは太陽の武器でね。狙われたら必ず当たるえげつない武器だよ」

ジンは涼しい顔で解説した。

「だからまあ、別次元に飛ばした。そうでなかったらあれに当たって、瞬時に燃え尽きただろうからね」

「回避不能……」

ソウヤは冷や汗を流す。体が反応しなかったのは、もしかして回避できないことを本能が察してしまったからかもしれない。

「初見殺し過ぎるな」

「伊達に守護者ではないということだよ」

ジンは言った。

「まあ、彼女の武器の中で厄介な一つを封じたんだ。もうあの攻撃については心配しなくていい」

「そうなのか?」

「魔法ではなく、武器だからね」

「――その武器はきちんと返却してくれるのだろうな、ご老人」

サラが睨みつける。ジンは肩をすくめた。

「まあ、この戦いに決着がついたら、返却しよう」

どういう結末になるかはわからないが――と、老魔術師はそっけなく言った。サラは薄く笑った。

「よかろう。では、かかってくるといい」

サラは槍を軽く振り回し、そして構えた。その所作は淀みなくスムーズ、かつ体の一部のようであり、彼女が如何に槍術に長けているかを物語っていた。

じり、とミストが一歩動いた。

「それなら、一番槍、もらうわよッ!」

ミストが飛び込んだ。槍対槍。その長さはどちらもほぼ同じ。リーチ差は若干、背の高いサラがあるようだが、その程度はほぼ誤差である。

ミストの突きに、サラは合わせて反撃。前へ踏み出し、寸でのところでサラの槍が先にミストへ届く。相討ちの突き――!

「ミスト!」

ソウヤは叫ぶ。両者を貫いたように見えた槍。だがミストもサラも、ゆらっと揺れたように見えて。

「なるほど。そういうことができるのか」

「アナタもね」

ミストは体を霧化することで突きを避けた。サラもまた火のように体をゆらめかせて、攻撃をすり抜けさせた。

ソウヤはジンを見る。

「炎の守護者は物理攻撃が効かない……?」

「いや、一応効く」

老魔術師は自身の顎髭を撫でた。

「ただ、恐ろしく当てづらいというか、回避が上手い。彼女が割と攻撃的選択を取りがちなのも、相手の攻撃を躱すことに長けているという自負がある故だろう」

「それは難しいな」

「なに、ちょっとした小技を使えば、当てやすくなる。ソウヤ、斬鉄を」

ジンが促したのでソウヤは剣を出す。老魔術師はその剣身に触れて魔力を流す。

「言い方はあれだが、幽霊を切るようなものだ。アストラル体に対する攻撃の魔法。まあ、彼女はゴーストではないから、これでより当てやすくなる」

「特に変わった様子はないが……?」

「雲泥の差だよ。やってみればわかる」

ソウヤは視線を戻す。ミストとサラは互いに槍を振るい、躱し、地面を穂先がかすめた時は細かな砂が舞った。

「せっかく魔法を付与してくれたけど……オレの出番あるかな?」

ミストはいい戦いをしているように見える。動きにキレがあって、突きも払いも鋭い。

「あるんじゃないか。双方、有効打を与えられていない。これでは埒が明かない」

ジンは事務的に告げた。善戦はしている。だがそこまでだ。

ミストはドラゴンであり、常人離れした力、そしてスピードを持っている。対するサラも独特の回避術でミストの攻撃を躱し、凌いでいるが、繰り出される槍の技も的確で無駄がない。

「あの槍、穂先が燃えていないか……?」

ソウヤは指摘する。サラの振るう槍がトーチのように炎の色になっている。ジンは眉間に皺を寄せた。

「やはり相性がよくないのかな。ミスト……名前の時点でネタバレもないが、霧は所詮、水分だからな。炎であるサラとは、あまりよくない。……助けるかね? 二対一」

「熟練者が相手だと、人数の差はかえって不利になるからな」

ソウヤは腕を組んだ。

「ミストは一人でやりたがる性格だが……もっと連携して動けるように練習しておくべきだったかも」

それならばここでソウヤが加勢してサラ相手に二対一もできたかもしれない。だが仲間の動きに合わせられないのであれば、人数が多い方がかえって不利になることもある。炎の守護者サラは、それだけの武芸の強者であった。