軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談198話、研ぎ澄まされる思考

ミストは劣勢であった。

はじめは互角に立ち回っていたのは間違いない。しかしサラの振るう炎の槍は、ミストに致命傷を与えずとも、霧を構成する水分を大いに消耗させた。

ドラゴンといえど、想定以上に体力を消耗している。たとえるなら脱水症状のようなものかもしれない。

これにはさすがのソウヤも、機会を窺うなどと悠長なことを言っていられなくなった。

「ミスト、下がれ!」

熟練者相手の二対一がかえって足を引っ張るのなら、最初から一対一で挑めばいい。

戦闘狂な面もあるミストが、文句一つ言わずに下がった。それは彼女も苦しい戦いだったことを暗に物語る。もっと早く介入すべきだった、とソウヤは後悔した。

斬鉄を振りかぶるソウヤ。サラはそれを冷徹なまでに無表情で見据え、迷うことなく突きを繰り出した。

リーチ差を考えれば、至極当然の動きだった。剣は振りかぶっても届かない位置から、槍ならば突きで届くのだ。

戦場でのメインウエポンが、刀剣ではなく槍であることは、このリーチ差が証明している。ポールウエポンの長さ、敵の間合いの外から攻撃できることは絶対的な有利であるのだ。

もちろん熟練者は多少のリーチ差を補う手段を持ってはいる。しかしそれでも不利は変わらず、相手もまた熟練者ともなると、その差を埋めるのはまた至難の業であった。

ソウヤは足先に魔力を込め、距離を詰めるべく踏み込んだ瞬間、それを地面に流した。次の瞬間、岩の突起――アーススパイクが地面から飛び出した。

どうして剣だけが武器と言えるだろうか。槍以上のリーチを持つ巨大な岩の突起がサラを襲い、その胴体を貫いた。

否、消えた。

「やはり、誘いだったか」

サラの声。

「あまりに見え透いていたからな。お前が大地属性使いであることは、すでに見ている」

ゆらりと別方向に炎の守護者はいた。

「蜃気楼……。いつからそれが本物だと思っていた?」

サラは踏み込み、ソウヤに槍を突き立てる。しかしソウヤは自ら作り出した岩の巨大突起を足場に、まるで橋を渡るかのように一気に駆け上がった。炎の守護者の突きは空振った。

「逃がすか」

炎の槍の穂先をソウヤの背中に向ける。

「飛び道具はこちらにもある」

先端に魔力を集中。そしてファイアーブレス。槍が火炎の柱を吐き出した。その瞬間、ソウヤは斬鉄を投げた。

回転しながら真っ直ぐ飛ぶバァ金属の大剣は炎の柱を切り裂きながら、サラに迫った。

「!?」

初めて彼女の表情が強ばった。

あらゆるものを燃やし溶かすと自負する槍の炎が切られた。さらに言えば炎の槍からのファイアーブレス時、サラの動きが止まる。

一度見た技に合わせてきたソウヤに驚きつつ、サラはかろうじて槍先を持ち上げることで投擲された斬鉄による胴体真っ二つを避けた。

「あっ――!」

直撃は避けた。だが豪腕勇者の投げた斬鉄の重さ、打撃力は凄まじく、サラの手から槍が弾かれた。

斬鉄、そして炎の槍が、それぞれ持ち主の手から離れる。

「私に得物を手放させるとは、やるな。だが残念」

サラの右手、そして左手に炎の短槍が具現化する。

「私の槍は実質無限だ」

炎の守護者は、右、そして左と炎の短槍を投擲した。ビュンと真っ直ぐに飛んだそれは、距離をつめようとしていたソウヤの胴に直撃するかに見えた。

だが、ソウヤの手が、炎の短槍を消した。

「? 何をした?」

とっさにサラは目した光景が理解できなかった。ソウヤは二本の槍を手で消したまま、さらに向かってくる。彼の手には拳大の岩があった。

「岩で、受け止めたのか? 私の炎か?」

信じられなかった。サラは槍を具現化させて、さらに投げつける。ソウヤは手にした岩を先回りさせ、全て弾く。

そしてその手の岩を、ソウヤは投げた。サラめがけて飛び道具で投げ返したのだ。

槍投げにも等しい鋭い 投擲(とうてき) 。これにはサラも回避を強いられる。ソウヤの手には、先ほどより小さな石が現れ、しかし次には銃弾もかくやの速さで投げつける。

たかが石と侮ることなかれ。古来より、取得に手軽で、弓矢がなくとも遠距離から敵を殺傷してきた飛び道具。それが石である。

投石とは、人類史において最初期の武器にして、現代でも通用する凶器であった。

・ ・ ・

「ええっと、お爺ちゃん?」

下がったミストが、ソウヤとサラの戦いを見つめ、傍らのジンに言った。

「これ、どういうこと?」

「ソウヤの精神集中の結果だろう」

老魔術師は腕を組む。

「大地竜の力を受け継いでから、たびたびトリップするくらい精神を集中するようになったからな、彼は。今もその極限の状態なのだろう」

無から石や岩を作り出し、それを操る。深淵に触れ、ソウヤはそれを身につけつつある。

「集中の結果、炎の守護者以上に無口になっているだろう?」

「そういえば、さっきから守護者の方ばかり喋っていたような」

ミストも思い至る。ソウヤは遠隔で岩を動かし、転がっていた斬鉄を自分のもとに飛ばした。それをキャッチし、守護者に斬りかかる。

サラは槍を構え、防御の構え。勝った――とミストは思った。ソウヤの豪腕は、その程度の構えを破壊し、そのまま切り裂く。大型の魔獣ですら一刀両断の力。それを受け止められるものなど、いるわけがない。

が、サラはうまく槍を当て、斬鉄の軌道を滑らせ、必殺の斬撃を躱した。

「フン、見事だと褒めてやろう」

サラは口元を笑みの形に歪める。

「両手でなければ受け流せなかった。誇っていい。片手だったなら、カウンターでお前は死んでいた」

さあ、続けよう――炎の守護者の戦意は衰えなかった。