軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談112話、ナダ、帰郷する

歩国で何かが起こる。

魔族の女はそう告げて果てた。ナダは故国の危機の可能性を考え、従者のナギと、ドラゴンであるフォルスと共に国へ急いだ。

急いだのだが――

「今のところ、何も起きておらんなぁ」

国境の関所で、話を聞いても特に異変の報せを受けたということもなく、それではと都を目指して通りかかる村々で聞き込めば、やはり何もなし。

「まだ起きてなくてよかった、というべきなんでしょうかね」

ナギが気休めを言ったが、それでナダの不安は晴れない。

「まだ、というだけなのだ」

決して安心できるわけではない。しかし――

「そもそも、何が起こるんでしょうね?」

ナギは、根本的な疑問を口にした。

「本当に、何か起こるのでしょうか? 単なる出任せ。こちらに嫌がらせをするために嘘を言った可能性もありませんか?」

「その可能性は無きにしも非ず、なんだがな――」

ナダは頷いた。

「しかし、それであの時点で関与が不確かな歩国の名を出す意味は? グーファイ人に、歩国で何か起こると言ったところで、果たして効果があるのか?」

姫に化けていた偽者には、ナダは正体を明かしていないし、知るよしもないだろう。だから、歩国の人間があの場にいたから、という理由で明かしたわけではないはずだ。

推測ですが、とナギは前置きした。

「歩国で、グーファイで起きた王族身代わり事件が起きていて、それが元で両国の関係を悪化させると、深読みさせるため、とか……」

「それはつまり、歩国には何も起こらず、グーファイが勝手に勘違いして不審の種を芽吹かせようという策、ということか」

国家間の不審を煽り、対立させる。それで魔族が得をするのか――と言われれば、付け込む隙にはなるだろう。

戦乱ともなれば、どさくさに紛れて色々悪事を働くことも容易い。

「考えれば、どんな可能性も出てきてしまうなぁ」

せめて、何が起こるかわかれば、あるいは起きないのか確定すれば、やきもきしなくても済むのだが。

捕虜を自決させてしまったのが悔やまれる。

ナダは顔を上げる。話に加わっていないフォルスは、東方の国の建物や風景が珍しいのか、キョロキョロしている。

あれでまだ幼子のようなもの、と聞いているが、若い冒険者に見えてまだ子供であるというのはなるほどと思う。

「とりあえず、都を目指そう。城に戻れば、わかるやもしれぬ」

もしかしたら表向きには知らせられない状況になっている可能性も捨てきれない。城、とはすなわちナダにとっては実家である。

できれば、今のような不安が何もない状態で戻りたかったというのが本音であった。家族の誰かが魔族と入れ替わっているかもしれない、などとは思いたくもない。

「情報がないと、こんなものか」

聞き込みはしても、漠然とし過ぎてわからない。そもそも何か異変に気づいても、それが魔族の言ったそれかどうかもわからないというのでは話にならない。

だが何かが起こる。そう言われてしまえば、何もしないわけにはいかないのだ。起きてからでは遅いということもあるが……。

――起きてくれんとわからんやつかな、これは。

・ ・ ・

いざ都についた時、何か起きていないことを願う気持ちと、何か起きていてほしいという相反する感情があった。そんなナダだったが、平穏無事な城下に、ひとまず安堵した。

「何も安心できる状況ではないかもしれませんよ、若」

「まだ最悪の状況でないだけでも救いというものだ」

だがこれから、その最悪が発生するかもしれないと思うと、やはり穏やかな気持ちにはなれない。

何気ない日常の中の都。人々が行き交い、活力に満ちた光景は、ナダをしてとても懐かしい気持ちにさせた。帰ってきたという気持ちと、大好きな景色が胸一杯に広がる。

「さてさて、このまま城に戻るか、少し見回りをして異変がないか探るか……」

ナダが辺りを見回した時、住人に混じって、旅人と思われる集団が目についた。皆、お揃いの奇妙な編み笠を目深に被っている。

皿をひっくり返したような、その形状は、歩国では見ない。しかしふと、奇妙な懐かしさのようなものをナダは感じた。

何だろうという違和感に、腕を組んで考えると、その奇妙な編み笠の男が近づいてきた。

「やあやあ、東の国のお方、何かお困りかな?」

気さくに声をかけてきた御仁。だがその声に、ナダは吃驚してしまう。聞き覚えのある声、それは――

「ソウヤ殿……?」

「久しぶりだな、ナダ」

編み笠の端を持ち上げ、素顔をさらしたその男は、かつて勇者として名を馳せたソウヤであった。

「私はお化けでも見ているのか? ソウヤ殿は三年前――」

「そうそう、あれからもう三年かー。世間では死んだことになっているからな」

ソウヤはニヤリとした。

「言いたいこともあるだろうし、つもる話もあるだろうが――」

「ソウヤー、このダンゴ、美味しいわよ」

ミストがソウヤの後ろから声をかけ、ナダは目を見開く。奇妙な編み笠――三度笠の集団は、アクアドラゴンやクラウドドラゴン、影竜といった人化したドラゴンたちであり、さらに異世界に消えたとされる魔術師のジンもその一団にいた。

このソウヤは、偽者ではないか、と一瞬でも疑ったナダだったが、顔馴染みのドラゴンたちを見て、その可能性は捨てた。さすがに魔族も人化したドラゴンたちの姿を全員模倣できるとは思えない。

「色々言いたいことはあるが……」

ナダは苦笑した。

「まずは、つもる話とやらをしましょうか」

再会の感動で胸が震える。しかしやることはやらねばならない。