軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談111話、影竜の報せ

クレイマンの浮遊島に接近してきたのは、影竜だった。

テリトリーにうるさい上級ドラゴンたちは、当然それに気づいたし、ソウヤもまた接近する影竜に念話で挨拶するくらいの余裕はあった。

『久しいな、影竜』

『ソウヤか。こちらの交信もずいぶんと板についたのではないか?』

『へへ、そうかい?』

褒められて悪い気はしないソウヤだが、何だかんだハーフドラゴンになって三年。念話くらい板についてなくては困る。

『それで、今日はどうしたんだ?』

『ちょっとお前の顔を見に来たのだ』

影竜の念話にからかいの色が見え隠れする。ただの暇つぶし、というには、些か緊張を感じ取れ、ソウヤは首をかしげつつ念話を返した。

『おう、待ってるぞ』

ドラゴンがおいそれと自分のテリトリーを出ることは少ない。フォルスやヴィテスのような若竜は世界を知るために積極的に出るが、影竜くらいになると大体引きこもっているのだ。

だから、何かあったと考えるのが自然だ。ちょっとしたお話なら、遠距離の念話でやりとりする手もある。直接赴くのは、それなりに用があると見る。

「どうしたの、ソウヤ?」

念話を拾っていたのだろう。ミストがやってきた。ソウヤは肩をすくめる。

「さあ。そいつは着いてからのお楽しみってやつだ。出迎えに行くぞ」

「えー、やだよ。どうしてワタシがあいつをお迎えしないといけないわけ?」

「ご自由に。フラム、お前は?」

「行くー!」

ドラゴンの成長は早い。三年たって、フラムはもう小学生くらいの年頃の少女である。まだ子供ではあるが、ドラゴンとしてはこれは一般的に早いのか遅いのか、ソウヤにはわからない。

歳がさほど変わらないはずのヴィテスは、少女であっても大人びているし、フォルスも十代半ばの若手冒険者として遜色ない活動ができるほどになっている。あと半年で、フラムもそこまで行ってしまうのか、少々心配であるソウヤである。

クレイマンの浮遊島の居住区前、広場――ドラゴンが行き来するから、ヘリポートのように広々としたスペースになっている。そこで人型でソウヤとフラムが立っていると、漆黒のドラゴンが風のように飛んできて、直前で速度を緩めると、ふわりと着地を決めた。

――鮮やかな着地。

点数をつけるなら、アプローチは完璧。立っている人間に風を当てず、間合いも言うことなし。十点満点をつけよう、と、ソウヤは心の中で呟いた。

影竜は直後に褐色肌の美女姿に変わる、ニコリと笑った。

「久しいな、ソウヤ。息災か?」

「まあまあ、ね」

「おねーさん!」

フラムが手を振ると、影竜はその手に軽く触れた。

「おうおう、フラムよ。お前はまた一段と可愛らしいな!」

「ほんと!? フラム、かーいい?」

「可愛いぞ。うちのヴィテスもお前の可憐さを見習ってほしいものだ」

「ヴィーテスねーさんは、シュっとしてかっこいい!」

面識があるフラムは、ヴィテスをそう評した。あれは大人過ぎる、とソウヤは思う。

「元気そうで何よりだ。フォルスとヴィテスは元気か?」

「元気にやっているだろうよ。私はいちいち干渉しないんだ」

若竜たちは自由にやらせている、ということだ。ドラゴンにもそれぞれ教育方針は異なるのだろう。

たとえば、かつてのファイアードラゴンとその眷属らは、まとまって教育し、若竜たちにも競争させ、鍛えていたという。

……そのファイアードラゴン系であるファイアードレイクであるフラムは、そんな一族を知らないこともあって、ソウヤやミストが甘やかしている。

「ただ、そのフォルスから念話が飛んできてな。今は大陸の東のほうにいるらしいのだがな、魔族が現れたそうだ」

「魔族。……魔王軍の残党か」

ソウヤの眉間に皺が寄った。影竜は頷く。

「おそらくな。グーファイとかいう国で、王族とすり替わっていたらしい」

「王族と入れ替わるって、ニーウ帝国でやった手だな」

「そういうことだ。グーファイの方は解決したらしいが、歩国でまだ何かやるつもりらしい」

「何か?」

「それがわからないから、フォルスから念話がきたんだ。これからナダと歩国へ行くと言っていたが……ナダって誰だ?」

「冗談だろ?」

ソウヤは、影竜の言葉に膝から力が抜けそうになる。

「銀の翼商会にいただろう? 東の国の出身の戦士の……」

一緒に仕事したり旅したり――と思ったが、そういえば影竜が、商会の人間たちと積極的に交流していたかというと、そうでもなかった。フォルスとヴィテスと絡んで、一部の人間としか影竜は接していなかった。

人間サイドとしても、ドラゴンと気安く話せるようなものではなかったから無理もない。クラウドドラゴンやアクアドラゴンとも、ソウヤやジン、レーラ辺りとは話していたが、それ以外とは、ほとんど話していなかったような気もする。

その点、ミストやフォルスは、人に対して積極的に話していたと思う。

閑話休題。

「ナダとフォルスが一緒なのか。……それに魔王軍の残党が動いているとなると、これは無視もできないなぁ」

また何かよからぬことを企んでいるのだろう。魔王軍の残党は、本当にろくなことをしない。

「人間社会に干渉しないドラゴンも、魔王軍の残党に対しては別だからな」

「そりゃあ、嫌われ者の火の一族とはいえ、ドラゴンの一種族の根絶やしを企むような愚か者どもだ。消されて当然であろう?」

影竜が言えば、フラムが眉を下げた。

「火は、きらわれ……?」

「あー、違うぞ、フラムは別だからな」

よしよし、と影竜が、肩を落とすフラムを慰めにかかる。これでも未来の火属性の未来を担う四大竜の候補である。暴れん坊火属性が、他属性に寛容で平和になるというのは、ドラゴン世界の将来にとって明るい材料となる。

そういう期待を集めるフラムが、万が一グレてしまえば、そのきっかけを作った者は、全ドラゴンを敵に回すに等しい。故に、自分中心、他のことは知らないという、典型的なドラゴンである影竜も、フラムには甘いのである。

それはともかくとして――

「残党が絡んでいるなら、オレたちも行くしかないよな」

ソウヤは、東の空へと視線を向けるのだった。