軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談110話、グーファイ、危機一髪

城にドラゴンがやってくると、兵たちは騒然となった。

王子奪還のために集まっていた兵たちと共にいたナダは、弓を構えようとする兵に声をぶつける。

「待たれよ! ドラゴンの背にカーセン殿とリーシン姫がいらっしゃるぞ!」

その声に、さすがの弓兵らも構えを解いた。

中庭にいたナダが手を振るとドラゴン――フォルスは降りてきて、周りの兵たちは遠巻きに武器を手に囲んだ。

だが――

「待て、武器を向けるな! このドラゴンは味方だ!」

その背中に乗っていたカーセン王子が一喝するように言えば、兵たちは武器を収める。

「殿下!」

「殿下、ご無事ですか!?」

重臣らが声をかける中、カーセンはリーシンと連れ立って、フォルスの背から降りた。

「大事ない。心配をかけたな。こちらのドラゴン殿が、我々に差し迫った危機を告げるために、わざわざ駆けつけてくださったのだ。……感謝する、フォルス殿」

王子が、ドラゴンに対して頭を下げたのをみて、重臣らも慌ててそれに倣った。少なくとも、フォルスを敵と見る者は、この場にいなくなった。見守っていたナダは、ホッと息をついた。

「すまぬが、都の外に、リーシンの従者であるフォイが待っておる。誰か迎えに行ってやれ」

「承知しました」

重臣の一人が、王子に頭を下げると、手早く兵に指示を出す。何があったか聞きたがる重臣たちをよそに、カーセンは、ドラゴンが手に持っている魔族を睨んだ。

「さあ、姫に成り代わり、潜入しようとした悪しき魔族よ。貴様たちの企み、吐いてもらうぞ!」

成り代わり――その一言に、周囲は驚き、または絶句する。

姫に化けていた魔族は、ドラゴン状態のフォルスの手の中で、観念したのか口を割った。いや諦めたというよりは恨み節の混じった、かなり敵対的なものであったが。

彼女曰く、グーファイの王族に紛れ込み、そこから入れ替わり国を乗っ取るつもりだったらしい。

魔王軍の復活のための拠点として、比較的魔族との衝突をしていなかった東方の国を支配。やがては大陸全土に巻き返しを図る壮大な計画であった。

「そう上手く行くかな?」

ナダが、カーセンのそばに立って言えば、魔族は舌を覗かせた。

「ふん、勇者のいない人間など、我らが力を取り戻した暁には、あっという間に蹴散らすわ!」

自分が捕まっているにも関わらず、威勢はよかった。周りの兵たちがいきり立つが、カーセンは冷ややかな態度を崩さなかった。

「魔王のいない貴様たちに、人類が負けるとも思えないがな」

「なに……!」

「そもそも貴様たちの組織は壊滅し、この矮小な企みは、勇者のいない人間に阻まれているではないか! それが何よりの証拠だ」

ぐぬっ、と魔族は声を詰まらせる。

「この国での工作は失敗だったな、魔族よ。他にも同様の企みを進めているのではないか?」

「ふん、そんなこと私が知るわけがないだろう? 愚かだな人間」

王子に向かっての魔族の発言にいちいち目くじらを立てる兵たち。しかしカーセンは、籠の中の鳥を見るように涼しい顔である。

「知らないわけがあるまい。王族を乗っ取ろうとしたのだ。つまりは周辺国にも、何かしらの介入なりを画策していたのだろう。それがわからぬほど、人間は愚かではない。……それとも何か? 貴様は化けるしか能がない愚か者か?」

カーセンは嘲笑した。

「それでよく国を乗っ取るなどという大役を任されたな。これでは魔王軍残党の知能もたかが知れておるな。勇者のいない人類に負けるはずだ。上も馬鹿ならば、お前も馬鹿なのだな、これは傑作だ!」

王子は煽る。横にいたナダは、カーセンが今回の件で相当頭にきていたのだと、察した。

何といったか、いわゆる『ざまあ』というやつをしたくなるほど、鬱憤がたまっていたのだろう。

・ ・ ・

結末を言ってしまえば、偽者魔族は自決した。ただしその直前に。

『歩国で、何かが起こるよ……』

そう言い残して、歯の中に仕込んでいた毒を飲んで死んだ。

歩国――ナダの故郷。一体魔族は何を言いたかったのか、何を企んでいるのか、それを知る術は、残念ながら途絶えてしまった。

「ナダ殿、すまぬ。まさか奴が毒を持っていたとは」

カーセンが詫びるが、ナダは首を横に振る。

「口の中に仕込んでいたのだ。あれはわかるまいよ」

そう言いつつも、ナダは息を吸い、呼吸を整える。頭の中を冷静に保たねばならない。動揺したところで、何も変わらない。

「若」

「うむ」

ナギが駆けつけ、ナダは頷いた。

「国に戻るぞ」

歩国の第三王子であるナダだ。何か大事ともなれば、国のため民のため、駆けつけねばならない。

「ナダ殿、此度は貴殿に大変世話になった」

カーセンが頭を下げ、リーシンも恭しく頭を下げた。

「ナダ様に救われなければ、グーファイ国も危のうございました。わたくしからもお礼申し上げます」

「歩国に何かあれば、我々はそれを助けることも厭わない。何なりと貴殿の力となろうぞ」

「かたじけない。その言葉、ありがたく頂戴いたす」

ナダもまた頭を下げる。礼には礼をもって応えるが、歩国の 武士(もののふ) である。

「フォルス! ――どうしたのだ?」

西の空をぼーっと見ているドラゴンに声をかければ、くるりとその頭が動いた。

『ちょっと面倒になりそうなんでね、念話で飛ばした。たぶん、助っ人が来るんじゃないかな?』

フォルスは、何でもないように言った。助っ人とは誰なのか、と疑問に思うナダだったが、すぐに顔面蒼白になった。

「ドラゴンの団体は勘弁してくれ。国が滅んでしまう!」

まさかのアクアドラゴンやクラウドドラゴン、影竜などが現れたら……いや、いくら何でもそれはないと思いたいが、ナダは不安を拭えずにいた。