作品タイトル不明
後日談103話、誘拐された理由
しばらくして、ナギが戻ってきた。
「若、どうも様子がおかしいことになっています」
開口一番がそれで、ナダは嫌な予感が的中してしまったことを嘆きたくなった。
もちろん、それを表情に出すことはしなかったが。
「王都まで行けたのか? 何があったのだ?」
「それが……リーシン姫が一時攫われそうになったという話がありまして――」
「一時?」
今もまだ帰還していないのでは?――と言葉に出かけて、ナダはナギの報告の続きを聞いた。
「しかしすぐに救出された、とのことで。噂が本当ならば、王城にリーシン姫がいらっしゃると言うことになります」
「!?」
「そんな――」
絶句するリーシン姫。魔族に襲われ、連れ去られた彼女を救い出した。もし本当に、王都に姫がいるならば、ここにいる彼女は誰なのだ、という話になる。
いや、しかし状況を考えれば、辻褄が合わないのではないか。
「そんな馬鹿な!」
姫の従者であるフォイが叫んだ。
「姫様はここにおられる! 王都におられるはずがない! それは偽者に違いない!」
あ――偽者と聞いて、ナダはピンときた。
フォルスもまた首をかたむけた。
「前にもこんなことあったよね?」
「ああ」
頷くナダ。フォイが首を横に振る。
「いえ、こんなことは前代未聞ですぞ!」
「いやいや、こちらの話よ。……実はな、フォイ殿。私やフォルスは以前、とある国で、王が魔族と入れ替わる事件と出くわしたのだ」
ニーウ帝国の皇帝が、魔王軍の手によって幽閉され、魔族が帝国をコントロールしようとしていた話。
大陸侵攻に先立ち、人類側の強国の治世を乱そうという策だった。銀の翼商会、勇者ソウヤと仲間たちは、それを阻止した。
「おそらくこうだ」
ナダは推理した。
「魔族はリーシン姫を誘拐した理由は、偽者の姫を王国に潜入させるためだ。そこで何をしようとしているかはわからぬが、本物の姫を襲った手口からみて、十中八九、国家転覆の計であろう」
グーファイを支配するために、偽者は姫の立場や王城の、重要区画にも入れるという利点を活かして、よからぬ企みを進めていくに違いない。
「何てことだ……!」
フォイが悔しさを滲ませる。リーシン姫も絶句したまま、かすかに震えていた。
自分の知らないところで、偽者が国を乗っ取る、あるいは魔族に利のある算段を進めようとしている。彼女が自身の国が好きであればあるほど、ショックも大きくなるだろう。
「すぐに、王都に行き、偽者を断罪せねば!」
フォイが断固たる調子で言った。こちらの姫が本物だと知る故の、確固たる決意。だが――
「それはちょっと待ったほうがいいよ」
フォルスは言った。フォイは眉をひそめる。
「どうしてですか、フォルス殿!?」
「ボクたちはさ、姫様が本物だって知っているけど、王都の人たちには、偽者と本物の区別がついていないんだと思う」
「なっ……」
「確かに。偽者が姫と疑われていないのであれば、魔法か何かで完璧に化けておるのであろうな」
ナダは頷いた。魔族で、しかも内側に潜り込もうとする敵だ。容易くバレる真似はするまい。
「しかしっ、向こうは所詮は偽者! こちらで話せば、他の者たちもわかって――」
「ボク、知ってるよ。悪いヤツは、まともな話をさせないって」
フォルスは淡々と指摘した。
「本物だって真面目に証明しようとしても、偽者は感情をグチャグチャにして場を引っかき回そうとするんだ。怒ったり、泣いたり、ショックを受けたり、おーばーなアクションをする――」
だってまともな話し合いをしたら、偽者は上手く化けていても、いずれどこかでボロが出るから。必死に化けている方が、そんな負ける戦いを粛々と進めるはずがない。
「姫様ってきょーだいとかいる?」
「は、はい。お兄様が二人――」
「おにーさんのこと好き?」
「す、好き!?」
途端に赤面するリーシン姫。何か勘違いしていないだろうか、とナダは思って口添えする。
「兄妹仲はよろしいのかと聞いているのです」
「あ、はい、仲良しですよ。はい!」
はにかみながらリーシン姫は答えた。ナダは、フォルスに視線をやり、続きを促した。
「たとえば、だね。姫様と偽者、どちらが本物かって話し合う場で、偽者が大好きなおにーさんに泣きついたら、どうなるかなー?」
感情で揺さぶる。正論が駄目なら見た目を活かして、仲のいい妹が兄に泣きつく。兄の方はどちらに流れるだろうか?
「あ――」
リーシン姫がこの世の終わりとばかりに青ざめている。たとえを出したフォルスは、困ってしまいナダに助けを求める。
そこでナギが口を開いた。
「よろしいでしょうか?」
「許す」
「王都での噂は、姫君が一時攫われそうになった、とありまして、敵の存在を国側は把握しています。もし偽者姫が、その敵が自分に化けようとするために襲ってきたと、周囲の者に言っていた場合――」
「! のこのこ王都に出向いたら、こちらが偽者と思われ問答無用で捕まるかもしれぬ、ということか……!」
まともな話し合いとか、本物証明とか、周囲を納得させるどころの話ではなかった。国側の人間に見られたら最後、即攻撃される恐れすらあった。
「これは……参ったな」
――どうやら、通常の手順を守っている場合ではなくなってきたぞ。