作品タイトル不明
後日談102話、グーファイ国の王都を目指して
獣道とはいえ、長い移動は慣れていない姫君には、少々辛かったようだ。
ナダたちからすれば、馬車の位置まで戻るのを遠くはあっても特に感じる距離ではなかった。
が、リーシン姫にとってはそうではなかった。
「申し訳ありません」
本当に申し訳なさそうに詫びる姫に、ナダは首を横に振った。
「仕方ありますまい。このような山道は、慣れぬ者にはきつい。無理をなされれば怪我のもと。ゆっくり休まれよ」
「ナダ様……」
感極まった様子の姫君。ナギは木々の間から覗く空を見上げる。
だいぶ日が傾いていた。まだ日没までは時間があるが、森の中は暗くなるのは早い。馬車の位置までに間に合うか、怪しい。
「しょうがないなぁ」
何を思ったかフォルスが装備をアイテムボックスに収納する。
「あ、ちょっとこれからドラゴンになるんで」
フォルスはそう宣言すると、リーシン姫と従者のフォイが返事する間もなく、その姿を小型のドラゴンのそれに変えた。
「えっ!?」
「ええっー!??」
当然の反応。困惑、そして突然のドラゴンに恐怖する二人に、ナダは落ち着き払って告げる。
「ご心配なく。この者は、かの勇者のお供をした頼もしき味方のドラゴンです」
『お友達!』
ドラゴン姿のフォルスが言った。無邪気な少年のそれと、別の生き物の姿にある種のギャップが生まれ、姫と従者の感情は恐怖よりも困惑が深まる。
「お友達じゃない。お供と言ったんだ」
『ボクはソウヤとトモダチ! 間違ってない』
「あー、そう、そうだったな」
ナダは言うと、フォルスの背を撫でた。
「それで、何故、その姿になったんだ?」
『お姫様を背中に乗せてあげようと思った。歩くのしんどそうだから』
「お前は何て優しい子なのだ」
よしよし、と撫でまわすナダである。くすぐったい、と笑うフォルスである。その姿に、リーシン姫も落ち着きを取り戻した。
フォイは不安そうであったが、姫はフォルスの背に乗ることになる。
「本当によろしいのでしょうか、ドラゴン様」
『いいよ』
フォルスは屈託のない様子を崩さない。
『本当は、一人くらいなら空を飛んで運べるんだけどね。そうすると他の人を置いていっちゃうことになるから。……ごめんネ』
「い、いいえ。これだけも充分よくしてもらっていますから!」
『あ、そう? それならよかった』
良くも悪くも子供であるフォルスである。
姫を乗せたことで、移動ペースは上がった。暗くなる前に、最初の襲撃があった馬車のある街道まで戻ってこれた。
とはいえ。
「直に日が暮れてしまうなぁ。……フォイ殿、近くに村などはありませんか?」
ナダが尋ねれば、フォイは難しい顔になった。
「街道を真っ直ぐ行けば王都なのですが、ここからだとまだ数時間くらいは掛かるでしょう。……しかし、さすがにここで野宿というのは姫様にとってもよろしくないと申しますか」
「まだ例の霧が魔族の仕業の可能性もありますからな。夜とはいえ、ここに留まるのは危険でしょう」
ナダも頷いた。
「では少々面倒ではあるが、このまま街道を行き、夜のうちに王都にまで行ってしまおう」
街道ならば夜でも歩行はしやすい。天気も悪くないから、月明かりで充分歩けるだろう。リーシン姫にはそのままフォルスに乗ってもらえれば、夜間の強行移動の影響もないはずだ。ナダ、そしてナギも夜道を歩くなど造作もない。夜行性の獣などが現れても返り討ちだ。
・ ・ ・
半月だった。一行は、静かな夜の中を王都を目指して進んだ。
警戒はしていた。ナダもフォイも辺りを窺い、フォルスは呑気に振る舞っているが、ドラゴン特有の感知能力で探りを入れる。
一人、お疲れの様子のリーシン姫は、フォルスの背中で眠ってしまったが。
「若」
ナギが、そっとナダのそばに寄ると声を潜めた。
「先行の許可をもらいたいのですが」
「斥候か?」
「先んじて王都に探りを入れて参ります」
彼女は、ナダにしか聞こえない音量で言った。おそらくフォイには聞こえていないだろう。フォルスは――もしかしたら聞き取っているかもしれない。
「何か、気になることでも?」
「もし、リーシン姫の件でざわついているならば、救出した旨を伝えたほうがよろしいかと」
魔族に姫が襲われたとあれば、当然、グーファイ国は騒然となるだろう。もう助けましたよ、と報告すれば、少なくとも王族は安堵するのではないか。しかし――
「もし、とは?」
「王都から数時間の距離ですから、すでに姫の一行が王都についていないとおかしいわけです。普通であるなら、調査、捜索隊を編成し、行動しているはずなのですが……」
「今のところ、我々は遭遇していない。……グーファイ国は、ひどくノンビリしているのかなぁ」
「こちらに向かっている途中ならばよいのです。問題はそうでなかった時です」
「わかった。皆まで言うな。ちょっと行ってきてくれ」
「承知」
ナギは素早く駆けた。平地で走れば、馬のそれに匹敵するのは恐るべきシノビの脚力。フォイは驚き、フォルスは首を巡らせナダを見た。
『どうしたの?』
「ただの斥候だ」
敵の待ち伏せを警戒して、と言えば二人とも納得した。ナダは腕を組む。
――何やら雲行きが怪しいなぁ。
このまま無事にお姫様をお家に帰して終幕、とはいかないものか。