軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第645話、かつての勇者の仲間たち

元勇者パーティーのメンバーたちも、それぞれの道を歩んでいる。

魔獣使いであるコレルは、リザードマンのフラッドとまだ見ぬ魔獣を探して旅に出た。コレルは完全に魔獣狙いだが、付き合うフラッドは、世界を見て回るのだという。見聞を広めるため、ではあるが、なにぶんリザードマンであるため、人間から誤解されて攻撃されないためにも、魔獣使いという相棒と行動を共にしているという。

『これもひとつの賢さでござるよ』

リザードマンの表情は、相変わらずわかりにくいが、そこらの人間よりよっぽど人格者であった。

エンネア王国でお仕事をするうちに、セイジはコーメ村を訪れる機会があった。

そこで、かつて勇者パーティーの一員だったベルタ・ランドールと会った。魔王軍との戦いで瀕死となり、十年の月日をアイテムボックスで過ごすことになった戦士。セイジは彼が聖石の力で復活するのを目撃しているから、まんざら知らない仲でもなかった。

「まさか、あの時見かけた君が、銀の翼商会の社長になるとはなぁ」

好青年、いや、いいお兄さん風のランドールは、故郷の村に受け入れられていた。十年間のブランクを気にしていた彼も、故郷は温かく迎え入れてくれたのだ。

「改めて時の流れというものを感じるな」

「あの頃は、僕は下っ端でしたし、他はソウヤさんとミストさんしかいませんでしたから」

「時は止まってくれないからな」

ランドールは、しみじみと言った。小さく頷いたセイジだったが、仕事に戻った。

「それじゃあ、注文のあったプトーコス雑貨店の家具、見ます?」

アイテムボックスから、取引先の家具のサンプルを出すセイジ。銀の翼商会は平常運転である。

・ ・ ・

ランカン子爵領は、随分と発展していた。

ここの領主アンドルフ・ランカン子爵は、かつて勇者ソウヤと共に戦った英雄のひとりである。

アンドルフの妻クレアもまた、勇者パーティーで時の魔王と戦った。

「銀の翼商会の話は聞いていたわ」

青い長い髪の美しいランカン夫人であるクレアは、仕事できたセイジを迎え、お茶を振る舞った。

「ソウヤが商会を大きくして、大活躍してるって話は聞いた時は、昔の仲間とはいえ鼻が高かったわ」

「そうですか。商会の中にいた人間なので、当時の評判についてはあまり自覚がなかったのですが……」

「今は? どうかしら?」

「色々なところで、銀の翼商会の名前を聞きます。ソウヤさんはいないけど、遠い異国でも名前が出ると、ああやっぱりソウヤさんは凄かったんだなって、思います」

「彼が生きて、銀の翼商会にいたら、どこまで大きくなっていたかしらね」

「ええ……そう思います」

できれば、まだ一緒に仕事をしていたかったとというのが、セイジの本音だった。アンドルフ子爵もやってきた。

「あの日、彼を見送ったのが最後となってしまったのは残念だ」

「ええ。……また元気に顔を見せてくれる日を、楽しみにしていたのにね」

クレアの目に、うっすらと涙が溜まる。セイジは、前の勇者パーティーのことはほとんど知らないが、この人たちもソウヤを信頼し、愛していたのだと感じて、もらい泣きしそうになった。

アンドルフは言った。

「せっかく来てもらって、時間をとらせて悪かったね。例のもの、見せてもらえるかな?」

「そうでした。バッサンの町で作られた浮遊バイク。勇者モデルです」

今や王国内外での注文が殺到し続けて、1年待ちという品である。

去年、そのバッサンの町で開かれた勇者杯という名の浮遊バイクレースが開催された。言い出しっぺがソウヤだったこともあり、彼の貢献を讃えての勇者杯だったが、レースは大好評で、それはそれは好景気に沸いているそうな。

「おお! これが……。恥ずかしながら、ソウヤと旅をしていた頃、浮遊バイクには一度乗ってみたいと思っていたのだ」

アンドルフは顔を綻ばせた。当時は騎士として、周囲の目を気にして言い出せなかったのだという。あの時、勇気を出して言っていれば、とは彼の抱えていた後悔のひとつだった。

クレアは、軽く眉をひそめる。

「でも、お高いのでしょう?」

「いい値はしますよ」

答えるセイジだが、金額自体は、アンドルフ子爵に知らせてある。

「だが、それを私のポケットマネーで買えるだけの余裕はある」

それもこれも、ソウヤが別れ際に渡した、勇者パーティー時代の戦利品の分配分があればこそだった。

正当な報酬ということで、アンドルフとクレアは、自分たちの分を活用し、領の経営を安定させることができた。

なお、勇者パーティーにいた他のメンバー分は、アンドルフが責任をもって配った。だからカマルもメリンダも、ランドールもロッシュヴァーグもカーシュたち全員が受け取っている。

「ソウヤのおかげね」

今も昔も、そしてこれからも。

・ ・ ・

「まあ、ここのところは落ち着いたがな。今でもたまに、勇者モデルの剣を作ってほしいって、たわけた依頼はくる」

エンネア王国王都ポレリアにある職人街。そこで鍛冶工房を営んでいるドワーフのロッシュヴァーグは、セイジの肩を叩いた。

「相変わらず、ほそっこいのぅ、お主」

「親方が太いんですよ」

「ハハッ、小僧め!」

ドワーフの名工であるロッシュヴァーグは、銀の翼商会の古参であるセイジを知っている。商会を立ち上げて日が浅い頃、まだ下っ端だったセイジを見ているのだ。

なお現在でも、銀の翼商会とロッシュヴァーグの工房の付き合いは続いている。この工房の武具の優秀さは遠き土地でも轟いており、それを銀の翼商会が行商として運んでいるのだ。

そして顔を合わせれば、昔を懐かしんだり、雑談を交わしている。

「ようやく完成したんじゃ」

ロッシュヴァーグが見せたのは、ソウヤが愛用していた武器、斬鉄。魔王ドゥラークとの戦いで破壊されたらしいが、その残骸は、あの爆発の中でも残っていたというから驚きである。

「またアイツが、自由にぶん回せる武器が欲しいって現れたら、渡そうと思っているんだがな」

そう言ったロッシュヴァーグの目には、それは叶わないだろうという悲しみがあった。だが直さずには、いや作り直さずにはいられなかったのだろう。大親友のために。

「なにせ、あやつは、並大抵の武器じゃすぐに……壊れてしまうからな……」

俯き、セイジから顔を逸らすロッシュヴァーグ。

彼が勇者のためにこしらえた最高傑作。それは誰にも譲るつもりはない。その持ち主が現れるまで。