軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第646話、最後(最終話)

エンネア王国エイブルの町。その冒険者ギルドのギルド長ガルモーニは、銀の翼商会のお得意様の一人だった。

「男の子が生まれたそうだな。おめでとうセイジ」

「ありがとうございます、ガルモーニさん。……参りました。こっちにも伝わっているんですね」

苦笑するセイジに、ガルモーニは笑みを浮かべた。

「そりゃ、王国の魔法大会を賑わせたディーガー・マスケと六色の魔術師の子供だぞ。今頃、王国中に知れ渡っているだろうよ」

「勘弁してください」

覆面を被って大会に出たのは、セイジ的にはちょっとした黒歴史になっていたりする。

「3年前まで、非力なポーターだった少年が、まさかSランク冒険者になるなんてな……」

「誰も想像していなかったでしょうね」

セイジは自嘲する。

自分でも諦めていた格好よくて強い冒険者の道。だがソウヤとミストに会って、拾われて、銀の翼商会の一員として色々な人に出会って、気づけば、幼い頃に思い描いた強い冒険者になっていた。

――いや、一人だけ、将来が楽しみだって言ってくれた人がいたっけ。

エイブルの町を拠点に活動しているベテラン冒険者のドレイク。ダンジョンスタンピードが発生し、戦力外として撤退させられたあの日。悔しがるセイジに、『一人前に悔しがれるなら、お前は強くなれるだろうよ』と、熟練冒険者のドレイクは言ったのだ。

その言葉通り、今では誰もが認めるSランク冒険者となったセイジである。……本当に、誰が想像しただろう。

「私が何かしたわけではないし、君もこの町のことは嫌いかもしれないが、こちらとしては、君のような冒険者がいたというのは誇らしいよ」

「いえ……。何だかんだ、ここにはお世話になっていますから」

ポーターとしての生活も、楽ではなかったが、冒険者ギルドがなければ、当の昔に死んでいただろう。冒険者は憧れではあったし、ソウヤたちと出会えたのも、このギルドがあればこそだ。

セイジは感謝こそすれ、恨んではいない。

だが、その気持ちでいられるのも、ソウヤやミスト、ジンやガル、カリュプスのメンバーたちのおかげでもある。

「今日は行くのか、ダンジョンへ?」

「ええ。丸焼き亭さんの依頼もありますからね」

銀の翼商会と最初に契約した料理店でもある。アニータ店長とも、商会と親しくさせてもらっているので、お店で使う魔獣肉の仕入れに、ダンジョンへ行くのである。

「ああ、そうだ。……タルボット印の新作ショウユの試供品があるんですけど、如何です?」

セイジがアイテムボックスから、醤油瓶と共に取り出すと、ガルモーニは相好を崩した。

「これが新作のショーユか? いいのか?」

「ええ。試供品ですし。少しですけど」

醤油メーカーとして、すっかり王国では有名となったタルボット商会。海外からの注文もあるようで、その設備は拡大の一途を辿っている。

家族揃って事業に取り組んでいるそうだが、マーク・タルボットはなお新作の開発に余念がない。

「もし気にいったら、たまには丸焼き亭に顔を出してください。ギルドにこもりっぱなしはよくないですよ?」

「ああ、そうする。ありがとう」

いいえ、とセイジは、働き過ぎなギルマスと別れ、冒険者ギルドを後にする。

広がる青空を見上げて、ふと思う。

――ガルさんたちは、元気にやっているだろうか……?

かつて共に働き、技を教わり、共に戦った暗殺者の友人たちのことが脳裏によぎった。

・ ・ ・

「追い詰めたぞ……ブルハ!」

魔王軍地底城。天空城を手に入れるまで、魔王の拠点だった地中を進む城。だがここは、暗殺組織カリュプス残党に襲撃を受け、魔王軍残存軍は壊滅しつつあった。

「しつこいんだよ、ガル・ペルスコット!」

魔王軍幹部だったサキュバス・クィーン、ブルハ。彼女は満身創痍だった。それを追い詰めたのは、暗殺者のガル。

「魔王様を……ドゥラーク様を――うぐっ!」

ガルの持つ刃がブルハの体を突き刺す。血が飛び散り、返り血がガルの顔を赤く染める。

「ま、待て! アタシは、魔王様を蘇――まってぇ――ま――」

刃は止まらない。美しきサキュバスの体は血と肉の塊へとなっていく。

ドゥラークが、ファイアードラゴンとの眷属との決戦を前に、天空城を喪失するような事態になった場合の緊急避難先として待機していた地底城。

しかし魔王が倒れ、ブルハは軍の再興とドゥラーク復活に心血を注いできた。だが彼女を、仲間の仇と付け狙うガルとカリュプスメンバーたちは決して逃さなかった。

恐るべき執念で、地底城を突き止め、強襲をかけた結果、生き残りの魔王軍兵士は討ち取られ、そして仇であるブルハもまた、ガルの手によって最期を迎えた。

「……オヤジ殿、皆……やっと」

ガルは手にしていたミスリルの剣から手を放した。ポタポタと血が滴る。返り血ではない。ガル自身の傷だ。最後まで抵抗したブルハによって、ガルもまた致命傷を受けたのだ。

「レーラ様、お許しください。あなたとの約束、果たせそうに……ない」

必ず無事に帰ってくること――守ると誓い、しかし組織の復讐を諦めきれなかったカリュプスの暗殺者たち。

絶命したブルハ。――こいつの側で死ぬのは、ご免だが。

膝が折れた。もはや立っていられない。ガルは自らの死を悟る。

オダシュー、アフマル、アズマ、ハノ、グリード、ニェーポ、スナーブ、トゥリパ――地底城を突き止め、そして突入したカリュプスの残党たち。魔族兵と戦い、倒れていった仲間たち。

ガルはおそらく最後の一人であり、そして今ここで、カリュプスは全滅する。

血を失い過ぎた。体が震える。寒い……。

「だが、これでいい……。仇は、討てた……おれ、は――満足、だ」

すっと魂が抜けたように、ガルだったものはその場に崩れた。動く者はなく、静寂だけが地底城を包む。

否、カンカンと金属が床に当たる音がする。踊るように、軽やかなリズムで。

「あらぁ、もう一人はっけーん!」

女の声は、がらんどうな空間に反響する。

「あらあら、ガルじゃない。もう、無茶して――」

声の主は、ひょい、とガルの死体を担ぎ上げる。

「これで全員よね……。えーと、オダシューにトゥリパに、グリード――」

女はカリュプスメンバーを回収すると、地底城を後にした。

・ ・ ・

エンネア王国ロッシュヴァーグ工房。

親方であるロッシュヴァーグは、自分が寝落ちしていたことに気づいた。もう工房は火を落としている。

弟子たちも帰り、ひとりだった。酒を飲んでそのまま眠ってしまったらしい。

「……わしも帰ろう」

すっと正面の壁を見つめる。そこには、ロッシュヴァーグが精魂込めて復活させた大剣『斬鉄』。

もう二度と振るわれることがない名剣。あと何十年生きられるかわからないが、おそらく墓の中まで持っていく一品になるのだろうな、とボンヤリ思う。

そこでふと気配を感じた。誰かいる――?

「よう、おっさん、こんなところに一人で夜更かしなんかしたら、風邪ひくぜ?」

「……!?」

振り向き、ロッシュヴァーグはギョッとした。そんな、馬鹿な――

「お主――」

ロッシュヴァーグは言葉に詰まる。その男は言った。

「なあ、ロッシュ。ちょいと、9人ほど友人を復活させるために、世界の果てにある火山島の時空回廊ってとこに行くんだけどさ……。オレがぶん回しても壊れない頑丈な武器、ない?」

《終わり》