軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第644話、新しい命

元聖騎士カーシュは、エルフのアガタと結婚した。

かつて彼が愛したエルフ――の姿をした人工エルフであるアガタは、以前愛した本人とは違う存在だ。

だが情が移ったのか、はたまたエルフたちの人工エルフに対する態度に煮え切らないものを感じたのか、カーシュは、人工エルフの保護活動を行い、暗黒大陸にて彼らの集落を開拓した。

日々、人らしく成長していく人工エルフたちと接していくうちに、愛情を得たアガタから求婚され、カーシュは結婚を決めたという。

その人工エルフの開拓団に同行した、エルフのダル曰く。

『カーシュも、色々思うところはありました。姿がかつての恋人だったこともあって、死んだアガタを裏切っているのではないか、とか。でも、一人の女性として感情を育て、愛情を知った今のアガタを傷つけることもできなかった』

それを見守ったダルは、カーシュらと行動を共にしている。集落の治癒術師として、人工エルフを見守っている。

なお、人工エルフを作った元魔王軍のダークエルフ錬金術師、ポエスも一緒にいる。

『彼らを作ったのは私だ。最後まで面倒はみるさ。……もう魔王軍もないし』

元々、忠誠心があるのかわからない妙なダークエルフではあったが、カーシュもダルも、ポエスを見逃し、共存を選んだ。

人工エルフについて、一番詳しいのは彼で間違いないのだから。関係者たちの間で、決まったことのようなので、この件についてセイジは何も口出しはしなかった。

ただし、カーシュとアガタの結婚式の際は大いに祝った。

・ ・ ・

エンネア王国王都、グラスニカ邸にセイジは駆け込んだ。

「おお、セイジ、戻ったか!」

「お義兄さん!」

ソフィアの兄であるサジーが出迎えた。

「ソフィアは? もう……」

言いかけた時、突然、扉の奥から赤ん坊の元気な泣き声が響いてきた。

「どうやら、たった今生まれたようだ」

義兄であるサジーの言葉に、セイジは駆け出し――その前に義父であるイリクが先に部屋に飛び込んだ。

彼は、ずっと娘の出産が無事に終わるように、扉の前でずっと祈っていたのだ。

「ソフィア!」

セイジが駆け込むと、産婆に抱かれた赤ん坊がちょうど、ソフィアの顔の近くに運ばれたところだった。

生まれたばかりの我が子に慈愛の目を向けつつホッとしたソフィアだったが、夫であるセイジが現れたことで、満面の笑みを浮かべた。

「あなた! 生まれたわ!」

イリクと共にセイジは、そばに駆け寄り新たな生命の誕生に歓喜する。

「うむうむ、元気な子だ」

「よく頑張ったね、ソフィア」

セイジが労うと、ソフィアはそっと涙をこぼした。泣いている赤ん坊を抱き上げて、ソフィアは祈りの言葉を捧げる。

「で、どちらなのだ?」

「父上」

サジーが、前のめりなイリクをたしなめるような顔になる。産婆は言った。

「男の子ですよ」

「おおっ!」

お爺ちゃんとなったイリクは喜んだ。セイジにとっては男の子でも女の子でもどちらでも構わない。等しく我が子。愛するソフィアとの間に生まれた子供だ。

「あなた、抱いてみる?」

ソフィアが聞いた。頷いたセイジは赤ん坊を受け取る。

なんて小さいんだ、と思った。力を込めたら壊れてしまいそうで緊張する。サジーが無骨な顔に穏やかな笑みを浮かべた。

「もう名前は決めているんだっけか?」

「ええ。男の子だったら、『ソウヤ』って」

この世界を二度も救った勇者の名前。彼のように、人に優しく、強い子に育ってほしいという願いを込めて。

なお、無粋なことをいえば、ここ数年、男の子にソウヤの名前をつける親が多かったりする。それはエンネア王国の他、複数の国にまたがっているのが、いかに勇者が愛されたかを表していた。

「ちなみに、女の子だったら……?」

イリクが聞いてきたので、ソフィアがはにかむ。

「それはもう、『ミスト』よ」

勇者ソウヤと魔王との戦いの場にいて、おそらく最後の爆発に巻き込まれて消滅した霧竜。アクアドラゴンも影竜でさえ、その行方を知らないのだから、本当に消えてしまったと言われている彼女。

ソウヤの一番最初の仲間として銀の翼商会立ち上げメンバー。セイジは、ミストに魔法など教わり、ソフィアにとっても最初の師匠だった。

できれば、あの人にも、子供のことを報告したかった……。

・ ・ ・

「社長、おめでとう」

「おめでとうございます」

銀の翼商会の面々は、セイジとソフィアの子の誕生を祝った。

「社長、おめっとさん」

銀の翼商会の料理番であるナールが、小悪党じみた顔に皮肉げな笑みを浮かべた。元盗賊だが、外見で損をしているだけで、実は義理堅い。

「そんなわけでケーキを用意した。これは社員一同から、日頃のクソ真面目な社長に感謝を込めて」

「ありがとう、ナール。それに皆も」

カエデやティス、その他メンバーたちも拍手で応える。

「それにしても――」

ナールは懐かしむような顔になった。

「新参だったオレらが古参になって、はや3年か」

「思えば付き合いは、今のメンバーのほうが長いかもしれない」

セイジは頷いた。ナールは壁に飾られた画を見やる。かつての銀の翼商会の面々が描かれたものだ。なお、描いたのはカエデである。これがまた素晴らしく上手かったりする。

「ヴィオレットは王都の魔法学校の教師。ロイとシェーラは有名料理店。ナダは……あいつはどうしたっけ?」

「故郷に帰ったと聞いた。もう修行はいいってさ」

東方出身の刀使い。武者修行の途中で、己を高めるために銀の翼商会に加わった男。そんな彼も、自分の故郷に戻った。

「こうやってみると、懐かしいなァ」

「君が、ここに残っているのは意外だった、ナール」

「あぁ、銀の翼商会は居心地がいいんでね。オレみたいな家なしは、帰るところもねえからな。……その点、オレは社長に感謝してるんだぜ」

ナールはニヤリとした。

「銀の翼商会を残してくれて、おかげでチンケなオレにも居場所ってもんがあるんだからさ」