軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第622話、火竜の襲来

ファイアードラゴンの領域に侵入した不埒な飛空艇は消滅した。

火山島の時空回廊神殿の前に陣取る翼を持つドラゴン、ファイアードレイクは、侵入者を焼き払い、鼻をならす。

何とも他愛ない。吹けば吹き飛ぶ程度の羽虫。ファイアードラゴンの手を煩わせるほどではない。

しかし、手遅れだった。

『何事だ。オレの眠りを妨げた不届き者は?』

脳髄を揺さぶるような念話が、ファイアードレイクに直撃した。怒ったわけではない。それでも、心の臓から込み上げてくる震えはいったい何なのか、ファイアードレイクにはわからない。

侵入者の船を阻み、あれだけ騒がしかった眷属たちも、ピタリと口を閉じ、島へと舞い降りる。

『魔族が、主のテリトリーに侵入しました』

『では殺せ』

ファイアードラゴンは被せるように言った。ファイアードレイクは、頭を下げる。

『はい、すでに塵も残さず、焼き尽くしました』

『オレのテリトリーに入るヤツは、すべて敵だ』

ファイアードラゴンは淡々と、しかしきっぱりと告げた。

たとえドラゴンでも、ファイアードラゴンの下僕でなければ入ることはかなわず。それでも入るならば死――それがファイアードラゴンが定めた法である。

『しかし、よもや魔族もこの島のことを知らぬわけではあるまい……』

呟くようにファイアードラゴンに言った。

『それにもかかわらず、我がテリトリーに入ってくるとは、これは愚かな者どもにわからせてやる必要があるか。……なあ、ドレイクよ?』

『はっ!』

ファイアードラゴンの眷属ルールその一。主が呼びかけ、ないし指名しない限り、彼が話している間は発言するな。

『ドラゴンのテリトリーに足を踏み入れることが、どれほどの罪か、忘れてしまった愚かな魔族どもに、しかと刻んでやるとしよう』

ちりちりと、ファイアードレイクは背中が焼けるような威圧を感じた。炎の眷属であり、火には耐性があるファイアードレイクや眷属たちだが、ファイアードラゴンの言葉、気配には自然と熱を感じ、圧力を受ける。

『奴らの巣は暗黒大陸だったな。ドレイク、眷属どもを連れて、暗黒大陸を蹂躙せよ。……ゆけ』

『ははっ!』

命令は下った。質問はなし。ファイアードラゴンより与えられた命令を、速やかに実行するのみ。

かくて、ファイアードラゴンの眷属たちは島を飛び出し、暗黒大陸へと攻め込んだ。

圧倒的な破壊。魔族はもちろん、大陸に進出していた人類の町や集落も、ドラゴンによる無差別攻撃を受けた。

さらに先陣を務めたファイアードレイクに続き、ファイアードラゴン自ら率いる集団も、暗黒大陸に飛来。目の前に現れるものに破壊と殺戮を実行した。

『下等な生き物ども。ドラゴンに手を出したら、どうなるか。思い知るがよい』

ファイアードラゴンの破壊は、瞬く間に大陸全土に及んだ。空を飛ぶことができるドラゴンとその眷属の行動は迅速であり、その攻撃力の高さと相まって、恐るべき進撃速度を発揮した。

結果、魔族の隠れ集落、拠点はもちろん、魔王軍の正規軍にも被害が出ることになる……。

・ ・ ・

魔王軍にとって、ドラゴンの襲来は、魔族間対立の終焉をもたらした。

つまり、人類との戦争再開に向けた条件のひとつ、敵対勢力が壊滅したことで、魔王軍の一本化が果たされたことを意味する。

後は、当初予定されていた戦力が揃えば、人類への攻勢を始められる。……だが、この点は、魔王軍の想定外の状況にあった。

テーブルマウンテンダンジョン、ジーガル島といった造船拠点の壊滅。人類との戦いに備えて派遣していた大陸侵攻軍の壊滅。

そして今回の暗黒大陸へのドラゴン侵攻。魔王軍が人類との戦争までに配備を予定していた飛空艇は、当初の想定の半分しかなかった。

何より厄介なのは、ファイアードラゴンの魔王軍に対する攻勢は続いているということ。このままドラゴン勢の攻撃が進めば、人類との戦争どころではなく、魔王軍の壊滅すら、最悪の展開として考えられた。

魔王軍の移動要塞となっている天空城。魔王ドゥラークは、ブルハら幹部らと会議を開いた。

「暗黒大陸より、軍は撤退しました」

ブルハは報告する。

「しかし、まだ多く魔族が大陸におり、このままではファイアードラゴンとその眷属により、多くが犠牲になりましょう」

「捨て置け」

一言、魔王の発した言葉に、ブルハはもちろん、魔族幹部らの表情が凍った。

「……何と?」

「放っておけ」

「しかし――」

上級獣人の将軍の毛が逆立つ。

「同胞をお見捨てになられると申されるか……?」

「行って、どれだけの魔族を救えるというのだ?」

ドゥラークは冷淡だった。

「人類との戦争のため、血を流すことも躊躇わずに忠義を尽くす諸君らと、血を流さず隠れ住む臆病者の命……。どちらを取るかなど、自明であろう」

幹部たちは言葉も出ず、同僚たちを見回す。

「魔族の鉄則。力無き者は、死あるのみ。……そうだったな、ブルハ?」

「はっ、陛下」

先代魔王、いや歴代魔王たちも度々口にしてきたその言葉。本来、自己を磨き、部下を叱咤するのに使われるものであり、この手の場で使われる言葉ではなかったりする。

「それよりも問題とすべきは、ドラゴンどもへの対処であろう。力無き他人を気にかける暇など、お前たちにあるのか?」

ファイアードラゴンとその眷属は、魔王軍にも牙を剥いている。いずれ、集結した魔王軍のもとにも襲来してくる可能性は極めて高かった。

押し黙る幹部たち。強力なドラゴンとその眷属を前にしたら、軍用飛空艇といえどひとたまりもない。こちらの主力火器である電撃砲を上回る炎のブレスで、おそらく一撃で粉砕されてしまうだろう。

ドゥラークは、薄く笑った。

「では、私からひとつ提案しよう。この状況を利用する手だ――」