軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第623話、荒廃した暗黒大陸

「何てこった……」

ソウヤは、プラタナム号の甲板から、焼け落ち廃墟と化した町を見下ろす。黒炭となった建物の残骸、瓦礫となった建築物の成れの果て。

そこに動くものの姿はない。住んでいただろう人々はどうなったのか?

「プラタナム、本当に生命反応はないんだな?」

『何度質問されても、答えは変わりません、勇者ソウヤ。生命反応はありません』

プラタナムの声が空しく響く。

同じく甲板に出ているレーラは先ほどから祈りを続けていて、リアハは口を閉じ、睨むように廃墟の町を見ている。

ミストが難しい顔をする。

「ドラゴンのニオイはするけど、ここにはいないわ。でもやったのは間違いなくドラゴンよ」

「ファイアードラゴンの眷属だ」

影竜がやってきた。

「島から出てくることなど基本ないはずの彼らが、暗黒大陸に襲来した。何かあったのは間違いなさそうだな」

ダークエルフ魔術師であるポエスの言っていた、ファイアードラゴンのテリトリーに手を出して、ドラゴンたちを暴れさせるという手を、魔王軍は本当に使ったのかもしれない。

「これは、本当に暗黒大陸の町や村は全滅したのかもしれない……」

行く先々にあるのは廃墟ばかり。時々見つかる生存者を保護しては、アイテムボックス内に作った居住区に収容するばかりである。

銀の翼商会として商売し、魔王軍や魔族の情報を集める――どころではなくなっている。もっとも、情報収集は、カマルを中心に生存者から聞き取りを行っているが。

「ヴィテス、どうだ?」

「駄目……」

影竜の娘であるヴィテスは、目を開けた。

「魔力眼でも見つからない。この辺りにはいないかも」

「ボクも見えないー!」

フォルスが手を挙げた。ここ最近で魔力眼の使い方を覚えたらしく、襲撃者探しを手伝ってくれていたが、ヴィテス共々、見つけられないようだった。

そんな影竜親子をよそに、ミストはため息をついた。

「暗黒大陸は駄目かもね」

「……」

「何でファイアードラゴンが暴れ回ったのかはわからないけれど……。暗黒大陸だけに収まってくれればマシというところ」

キレたドラゴンのことは、ドラゴンのみぞ知る。薄情な言い方だが、ミストのいう通り、暗黒大陸を蹂躙しつくしたファイアードラゴンが、それで満足しなければ、他の大陸、島など危険に晒される。

「もしファイアードラゴンたちがこれ以上破壊を広げるなら……」

ソウヤは舌の先のざらつきを感じながら言った。

「倒さなくてはならない」

「あなたは勇者だものね」

ミストは手すりにもたれた。

「人類に仇となる存在は倒すのが使命。魔族や魔王だけではないわ」

「当然だな」

影竜も頷いた。フォルスがコクコクと首を動かす。

「悪いドラゴンはやっつけなきゃ!」

「お前たちは、それでいいのか?」

ソウヤは覚悟して言ったつもりだが、ミストも影竜も嫌な顔ひとつせず、受け入れたようで、少し驚いている。

「ドラゴンは基本単位が自分なの。他のドラゴンが何をしようが、どこの誰だろうが、関係ないもの。……言わなかったっけ?」

孤立主義。ドラゴンは自分のテリトリーに敏感だが、そこから外に出ることはほとんどない。引きこもりである。当然、自分がトップなのだから、余所は余所、なのだ。

「そもそも、だ」

影竜は腕を組んだ。

「ファイアードラゴンと眷属は、気に入らない相手にはドラゴンだって容赦なく噛みつく。そんな奴らに、我々が同情するとでも?」

火の一族が大変凶暴なのは、彼女たちも前々から言っていた。

「むしろ、こちらを見ても平然と向かってくるだろうな」

「向こうが仕掛けてくるなら、ぶん殴るまで」

ミストは微笑した。

「向こうがドラゴンなら、こちらだってドラゴン。手を出すなら報復するまで。……それが伝説の四大竜、古竜だろうがね」

それはつまり、ソウヤがファイアードラゴンとその眷属と矛を交える場合でも、ミストたちは、ソウヤや人類側についてくれるということだ。

「いいんだな?」

「言ったでしょう? ドラゴンはテリトリーに敏感なのよ」

「テリトリーを侵犯してくる奴は、敵なのだ」

ミストも影竜も言った。それはそうだろうが――ソウヤは首を傾げてしまう。

「お前たちの言うテリトリーとは?」

ミストは霧の谷か? しかしあそこは、大陸が違うからファイアードラゴンと眷属も来ていないが。

「当然、ここよ」

ミストがニヤリとすれば、影竜も皮肉げに眉を吊り上げた。

「我のテリトリーは、ソウヤ、お前のアイテムボックス内だからな」

「あなたの周りはワタシのテリトリー。あなたが戦うところはワタシのテリトリー。何の問題もないわ」

美少女、美女の皮を被ったドラゴンたちは力強く言い切った。ソウヤが、状況によってはファイアードラゴンと戦うことになるかもしれないとわかっても、止めることなく受け入れた。

頼もしき仲間たち。ソウヤが相好を崩すと、レーラが顔を上げた。

「私も、ソウヤ様に、どこまでもお供致します。勇者と共に行くのも聖女の務めですから」

「わたしも!」

リアハが背筋を伸ばした。

「ソウヤさんは、私の恩人。この命、あなたのために――どこまでも」

「ありがとな。……でも、命は大事にな」

凶暴なファイアードラゴンと眷属の群れ。心の底で魔王と戦う前のように、死を覚悟した。恐怖を感じなかったといえば嘘になる。しかしそれでも、共に戦うことを、真っ直ぐ言ってくれた仲間たちに、ソウヤは励まされ、同時に愛しく思った。

だから、死なせない。絶対に、こいつらを生かしてやる――ソウヤは心の底で固く誓った。

そのために、魔王と魔王軍、そしてファイアードラゴンとその眷属と戦いになった時、精一杯、力を使おう。

――オレは勇者だからな。