軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第621話、ファイアードラゴン・テリトリー

時間は少し遡る。

それは灼熱の島だった。

世界の果てにある火山島である。流れ込んだ溶岩が海にふれ、凄まじい蒸気の滝を空へと昇らせている。

そこに棲む生き物は、高温灼熱の土地にも耐性がある。何より恐ろしいのは、ドラゴンの中の暴君、ファイアードラゴンのテリトリーであることだ。

この世で絶対に近づいてはいけない場所があるとすれば、この島もそのひとつに数えられるだろう。

にもかかわらず、この灼熱地獄に近づく飛空艇がひとつ。

「カリューニー様、やはり、考え直されたほうがよろしいのでは……」

「この期に及んで、怖じ気づいたか?」

悪魔系魔族、自称『魔法王』のカリューニーは、何度も撤退を進言する副官にいい加減、苛立ちをおぼえていた。

魔族を統率する次の魔王は、私だ――後継候補と名乗りを上げて、ドゥラークやその他魔王候補と戦ったカリューニーであるが、彼の一派は壊滅寸前に追い詰められていた。

「逃げたければ、貴様ひとりで逃げるがよい。我らを追撃するドゥラーク軍が見逃すとは思えんがな」

カリューニーは冷たく言い放つ。

魔族は、先代魔王の息子であるドゥラークが支配するだろう。

10年間、先代魔王の復活に取り組み、それが無理だとわかった後、勃発した魔王の座を巡る争奪戦。その戦いにも、決着がつこうとしている。

魔王の息子だったという理由だけで候補となったドゥラークが、新たな魔王となることで。

そんなことが認められるか!

カリューニーは、ドゥラークが魔王になることを快く思っていなかった。勇者によって倒された魔王を復活させる――それが一致している間は、まだ魔族はまとまっていた。

だが、その間、ドゥラークが何かしたか?

魔王の後継として相応しい活動をしてきたのか?

否、奴は積極的な行動を取らなかった。先代魔王を継ぐ者として資質に欠ける――そう、魔王軍の古株であるカリューニーは思っている。

しかし、魔王の息子というだけで、ドゥラークに従う浅はかな魔族の何と多いことか。

結果、彼と対立する自称魔王候補たちは、次々にドゥラークとそれに従う魔族軍によって、討ち滅ぼされていった。

カリューニーもまた、自分の勢力の大半を失い、追撃を受けている。

だが、このまま終われるはずもない。

討ち取られ、晒し首になどなるつもりはない。ドゥラーク軍もろとも、愚か者どもを一掃してくれる――!

かくて、カリューニーとその残党は、禁忌の島であるファイアードラゴンのテリトリーに侵入したのだ。

「カリューニー様! 前方より、レッサードラゴン種、多数!」

見張り台から、悲鳴じみた報告が響いた。カリューニーは唇の端を吊り上げる。

「来たか、有象無象ども。――後ろはどうなっておるか?」

「はっ、ドゥラーク軍の飛空艇10隻、なお本船を追尾中です!」

こちらはわずか1隻。対して追っ手は多数。

「火竜のテリトリーを前に、よくもまあ……。あの愚か者に間違った忠義を尽くすのか、はたまた、ただの馬鹿か」

自称魔法王は、呪文を唱える。前からファイアードラゴンの眷属が飛来してきている以上、ここは奴らの境界線を超えている。後ろの連中など、放っておいても眷属どもが片付けるだろう。

「転移!」

カリューニーを乗せた飛空艇が消えた。転移魔法で、一気に火山島の中央近くへ移動したのだ。

話のできないレッサードラゴンなど、相手にするだけ時間の無駄である。ここは一気にファイアードラゴンの元まで近付く。

遙か後方で、いくつもの火球が開いた。カリューニーを追ってきたドゥラーク軍の飛空艇艦隊が、レッサードラゴン集団に群がられて、破壊されたのだ。

「フフフ……」

カリューニーは嘲笑を浮かべた。愚か者に従う馬鹿どもが一掃されるのは気分がいい。

その瞬間、飛空艇に衝撃が走った。周りの空が一瞬、虹色になったのは、カリューニーが船に防御魔法をかけていた影響だ。

攻撃された!

船員たちは動揺する。さすが暴れる竜のテリトリー。問答無用で攻撃を受けたのだ。しかし、火竜の眷属たちが、話し合いより暴力が先だというのは承知している。

だから防御魔法を予め張っておいたのだ。

ここまではカリューニーの予想通りの展開だった。

さて、ファイアードラゴンはどこか――カリューニーは島を見下ろす。

火山の火口? いや、麓に神殿めいた建物がある。ファイアードラゴンのテリトリーで、建造物があるということ自体、異常。火竜の住処でもなければ……。

「よし、あの神殿に向かえ! 操舵手!」

飛空艇は、火山島に一つだけある建物へと針路を向ける。魔族副官が、カリューニーに歩み寄る。

「さすがにこれ以上は危険です……!」

「防御魔法が防いでいる。大丈夫だ」

ファイアードラゴンの眷属の攻撃が続いているからか、周りに虹色の光が幾度となく点滅した。

「所詮、トカゲの頭よ。魔法王である私の魔法を突破できるわけがないのに、無駄なことをする」

下からのファイアーブレスの類いを、防御魔法で払いのけながら、飛空艇は進む。

そして、唐突に『声』が脳を揺さぶった。

『貴様ら、ここに何をしに現れた?』

うわぁっ!――バタバタと、部下たちが倒れた。まるで頭の中を直接ぶん殴られたような衝撃だった。

カリューニーは、わずかにこめかみを押さえる。竜の威圧と念話の合わせ技を仕掛けられた。

上級ドラゴンにはすべてこちらが見えている。さらに受け手が壊れようとも関係ないとばかりに、念話をぶつけてきたのだ。

話し合いに見せての蹂躙。やはりドラゴンは、驕り高ぶる愚かな種族だ。魔法王であるカリューニーは、強引な念話を防ぐと船首へと歩を進めた。

「おお、偉大なる炎の古竜よ。私は魔法王にして、魔族を統べる者、カリューニーなり!」

声と共に念話を飛ばすカリューニー。自分が、ファイアードラゴンにも匹敵する実力者、そして魔王の後継者であることを伝える。

「偉大なるドラゴンであるファイアードラゴン、貴殿と同盟を結ぶべく参上した。私の話をどうか聞いてもらいたい……!」

沈黙が訪れる。念話は届いているはずである。しかし返事はなく、しばし無の時間が流れる。

『笑止!』

またも暴力的な念話が響き、耐えられなかった魔族兵が頭を押さえてのたうった。

『我が、ファイアードラゴンか否かもわからぬ雑魚よ。塵となれッ!』

凄まじい炎の柱が噴きあがり、防御魔法を貫通すると、飛空艇を一瞬で溶かし、カリューニーを塵も残さず消滅させた。