軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第620話、この世で、怒らせてはいけないもの

暗黒大陸の東北方面にある地、ツァコモス。

闇の森と呼ばれる大森林地帯を、魔王軍の飛空艇艦隊が飛ぶ。そこから小型浮遊船がその狭い甲板に兵を満載し、地上に降下する。

そこにあるのは古びた遺跡――否、次の魔王に名乗りを挙げた秘密結社の首領、オステオンの城。

魔王ドゥラーク率いる魔王軍が、反逆者を討伐すべく、次々に降り立ち、遺跡へと突入していく。

『あぁ……愚か者どもがやってきた』

東洋の導師を連想させるローブに身を包むは、魔族結社トラハダスの首魁、オステオンその人である。

頬は痩け、その肌は病的に白かった。血の気のない、というより幽霊のような魔族の男だ。

彼は水晶球を覗き込む。オステオンの命を奪おうと、魔王軍は数千の規模の軍を動かしてきた。それを見やり、オステオンはニヤリと笑った。

『やれ、ザンダー』

『御意』

その瞬間、遺跡周辺が青い光に包まれた。光のドームは拡大し、そこにいた魔族兵、魔物、生物問わず飲み込んでいく。

肉体を失い、魂となっていく者たち。その光景に、オステオンは大笑いした。

『愚かな! 我に従えば、こうはならなかったものを』

光はおおよそ一分のあいだ発生し、その効果範囲内にいる者たちを魂に変えた。

魂収集装置。

かつて、魔王軍が開発し、人間たちの国――エンネア王国で使用しようとした恐るべき装置だ。

魔法大会と、そこに集まった観客数万を魂にして、魔王復活の贄にしようとしたその計画は、生きていた勇者ソウヤとその仲間たち、そしてオステオンに仕える部下ザンダーによって阻止された。

そして破壊したことになっていた悪魔の装置は、ザンダーが巧妙にすり替えたことで、オステオン一派の手にあったのだ。

この魂収集装置を、オステオンは魔王軍に使用した。ドゥラークによる魔族統一――その邪魔となっている勢力の排除をしていた魔王軍は、トラハダスを殲滅すべくやってきて、返り討ちにあったのである。

『若造め。貴様にやられる私ではない――』

「若造とは、私のことか?」

降って湧いた声に、オステオンはギョッとした。思いがけないその声は、かつて聞いたドゥラークのもの。

壁の一角が吹き飛んだ。銀髪の青年姿の魔王ドゥラークが、その親衛隊と共に現れたのだ。

『貴様――!』

「君がよもや、アレを保有していたとは……。おかげで掛け替えのない同胞の命が消えた」

『ふん……掛け替えのない同胞の命、か』

オステオンは鼻をならす。

『ドゥラーク、貴様にそのような慈悲の心などない』

ざっ、と親衛隊兵が武器を向け、殺意を漲らせる。オステオンの部下である信者たちも武器を手に身構える。

『貴様は、空っぽなのだ、ドゥラーク……。魔族の命など、露とも思ってはおるまい』

「それは君も同じだろう、オステオン?」

ドゥラークは淡々と告げた。

「同胞の魂とさえ贄とする男だ」

『偉大なる主、闇の神を現世に復活させるために、必要な魂だ』

オステオンは言い返した。

『魔族の命は、我らが神の作りしモノ。それを主に還す、それだけのことよ』

「君はそれほど器の大きな男ではないよ。君が復活させたいのは、神ではなく、自分の体だろう?」

ドゥラークは前に出た。

「神の欠片のそのまたクズが君だ。欠片である君は、神になれない」

その手に、光輝く剣が現れる。その光にオステオンが目を剥く。

『貴様、その剣は――もしや聖剣?』

「太陽の剣……類別するならば、聖剣の類だろうな」

『何ということだ! 仮にも魔王を名乗る男が聖剣を手にするなど――』

「その考えは古いよ、オステオン。時代に取り残された遺物は、御退場願おうか」

『キィエエエエエエエェ!!』

オステオンの手から強烈な電撃が放たれた。それは親衛隊兵を貫き、焼き、蒸気へと変えた。しかし、魔王の姿はそこにはない。

「どこを見ている、オステオン?」

『ギィェエエエエエエエエエ――』

霊体であるオステオンの体を太陽の剣が貫いた。たちまち光と炎が、オステオンを焼き尽くす。

「オステオン様っ!?」

信者たちはどよめく。ドゥラークは、一言、冷たく言い放った。

「殺せ」

生きている親衛隊兵が、一斉に前進し、信者らを掃討しはじめた。後はここにいないオステオン一派の始末と、装置の回収だが――

『魔王様!』

魔力念話で、ブルハの声が飛び込んできた。ドゥラークは片方の眉をひそめる。

「どうした、ブルハ」

『可及的速やかに御報告がございます!』

「その切羽詰まりよう、人類が動き出したか?」

適当な思いつきを口にするドゥラーク。だが違った。

『いいえ、魔王様。ドラゴンです! ドラゴンの大群が暗黒大陸に襲来。現在、東方に位置する都市が壊滅し、なお内陸に侵攻中です! お早く、天空城にお戻りくださいませ――』

・ ・ ・

この日、暗黒大陸を四大古代竜がひとつ、ファイアードラゴンとその眷属が襲来した。

彼らは魔族の集落を襲い、ついで彼らドラゴンや眷属の前に現れ、『武器をとって抵抗した』人類にも牙を剥き、その強大なる暴力を持って、破壊と殺戮を開始した。

侵掠すること火の如く。

大陸をマグマが染み渡るように、ファイアードラゴン率いる炎の軍団が破壊の手を広げていった。

この世で、もっとも怒らせてはいけないもののひとつである、ファイアードラゴンの逆鱗に触れた、その報復であった。