軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第582話、破格のスピード

プラタナム号は速かった。試し乗りのつもりだったが、あっという間にグレースランド王国を抜け、ニーウ帝国を横断し、海上に出た。

「やべーくらい速いわ」

ライヤーが率直な感想を言えば、ミストは唇の端をつり上げた。

「まるで風みたいね。これ、ドラゴンとどっちが速いかしら?」

「競争するかい?」

ソウヤは冗談のつもりで言えば。

『私はまだ本気を出していません。ドラゴンがこの程度の速度ならば、余裕で私の勝ちでしょう』

プラタナムは事実を告げるように、ドストレートな物言いだった。ミストの形よい眉がピクリと動いたのを、ソウヤは見逃さなかった。

「ほほう、ドラゴンよりも速いとおっしゃるわけね」

ドラゴン族は、自分たちこそ地上最強の生き物であるという自負がある。それを上回るという言葉は、彼女たちには宣戦布告にも等しいかもしれない。

「ミスト……」

「心配しないで、ソウヤ。ワタシは大人なの」

腕を組むミスト。その豊かな胸が少し持ち上げられるようなポジションである。

「速度に関しては、まあ少しは認めるわ。ワタシも速いけど、トップレベルというわけではないし。……ただね、プラタナム」

『何でしょうか、ミスト嬢?』

「発言には気をつけることね。風を司るクラウドドラゴンが聞いたら、あなた、捻り潰されるわよ?」

『クラウドドラゴン? あー、彼女は存命ですか?』

プラタナムが聞き返してきた。ソウヤは怪訝な顔になる。まるで知っているような調子だったからだ。

「生きてるも何も、ワタシたちと行動を共にしているわ」

『そうでしたか。ならば、問題ありません。私は以前、彼女と速さ比べをしましたから』

「何ですって?」

ミストは目を丸くした。ライヤーが『へぇぇ……』と驚きの声を上げた。

「プラタナムは、クラウドドラゴンと勝負したの?」

『はい。先代勇者時代に』

「どっちが勝った?」

『結論から申せば、引き分けです、ええ。彼女は速かった』

懐かしむような声音でプラタナムは言った。先代勇者時代とは400年から500年前だと聞いている。あの頃のクラウドドラゴンと面識があるとか、ビックリである。

「風を司るクラウドドラゴンと互角とか、凄ぇな、お前」

素直に驚くソウヤである。ミストは顔を上げた。

「よく壊されなかったわね、あなた……」

『ええ、またいつか勝負しましょう、と言われました。ドラゴンの寿命がどれくらいかは知りませんが、次に会ったら私が勝ちますよ、と言っておきました』

――何て命知らずな……。

プライドの高いドラゴンを相手に怖いもの知らず過ぎる。

「ところで」

ライヤーが前の席から振り返った。隣の席にいるフィーアから、コンソールパネルの見方や操作を教わっていた彼は言った。

「ずっと気になっているんだけど、この船の手動の操船ってどうやるの?」

『後ろにあるシートで』

「このバイクみたいなやつか」

ソウヤは「乗っても?」と確認すると、プラタナムは『どうぞ』と答えた。

「バイクに似ているが、バイクとは違うな」

『コントロールを手動に切り替えます』

バイク型ハンドルを押したり引いたり上げたり下げたりで艦首の向きが変わる。方向転換。

「足は、加速と――」

グイッと速度が上がり――

「こっちはブレーキか」

グッと前のめりになりそうな急制動。ジンは踏ん張り、ライヤーはシートにしがみついた。

「おいおい、ボス。もっと優しく頼むぜ!」

「最初なんだから、加減がわかるわけないでしょうが!」

正面にモニターがあり、カメラの切り替えで視点まで変えられる。テレビゲームみたいだとソウヤは思った。

『お楽しみのところ申し訳ありませんが、勇者ソウヤ』

プラタナムが諭すような口調になった。

『索敵装置が、正面より移動する飛行物体を捕捉しました』

「敵か!?」

『わかりません。該当データなし』

「調べます」

フィーアがコンソールを操作した。彼女の手元の投影機から、プラタナム号が発見した物体がホログラムで表示される。横で見ていたライヤーが目を剥いた。

「すっげ……」

「形状からして、魔王軍の飛空艇のようです。数は1隻のみ」

フィーアが報告した。ジンが視線を鋭くさせた。

「ニーウ帝国から、ドゥラークへ伝令に向かった船が戻ってきたのでは?」

「となると、魔王の息子からの命令を運んでいるってことか」

ソウヤは顎に手を当て考える。

「伝言があるなら、知りたいところだが……」

「乗り込んじゃう?」

ミストが声を弾ませた。しかしライヤーは反対した。

「今回は、エイタ船長たち海賊もいないし、こっちは人数いないぜ?」

「私もライヤーに同意する」

ジンが顎髭を撫でた。

「ここは次善の策として、この船を撃沈するべきだと思う。仮にドゥラークからの返事があったとして、それがきちんと大陸侵攻軍残党に届いたか、魔王軍にわからないようにするべきだ」

「……プラタナム。この船の武装は?」

『艦首、艦尾にサンダーキャノン・ターレットをそれぞれ1門。艦側舷に4連装サンダーキャノン4基が搭載されています』

「要するに電撃砲な。……それだけあれば充分だろう。よし、魔王軍の飛空艇を攻撃するぞ!」

ソウヤは決断した。少なくともゴールデンウィング二世号の2倍以上の武装があるのはわかった。

プラタナムが戦闘配置の警報を艦内に鳴らす。

『まあ、他に乗員はいないのですが』

「サポートは任せるぞ、プラタナム」

『お任せを』

ソウヤは操縦席につき、プラタナム号を、魔王軍飛空艇へと一直線に向かわせた。シートの正面モニターに、双方の位置がマップに表示される。あっという間に、敵船との距離が縮まった。

バイクっぽい形のせいか、単車で敵陣に乗り込むような感覚になるソウヤである。

「プラタナム、やれるか?」

『攻撃範囲に入り次第、砲撃します』

その瞬間、プラタナム号の艦首から電撃砲の光が放たれた。雷の一撃は、すれ違いざまに魔王軍飛空艇に命中し、その側面の翼を吹き飛ばし、マストを燃え上がらせた。

「速い速い!」

瞬く間に通り過ぎてしまい、ミストが声を発した。ソウヤはプラタナム号を反転させる。バイクのように素早く、滑るように。艦が傾き、遠心力で体が引っ張られる。

「もう一撃!」

プラタナム号は、炎上する魔王軍の船に追いすがり、さらなる斉射を浴びせた。