作品タイトル不明
第581話、勇者遺産、飛翔す
グレースランド王国は、アダマース号という異世界飛空艇を手に入れ、ソウヤたちは『プラタナム』という勇者飛空艇を手に入れた。
アダマース号は霧の海世界から流されてきた船ということで、専門知識のあるジンがグレースランド王国の人間にレクチャーをした。
「国王陛下に大変感謝されたよ」
プラタナム号へやってきた老魔術師は肩をすくめる。
「クルー候補たちにもレクチャーしたし、うちから人員を補助に回すと言ったら喜ばれた。……そうそう、陛下はジーガル島攻略戦にもグレースランド王国として参加したいと言っていたよ」
「それは朗報……かなぁ」
グレースランド王国は飛空艇の数が少ない。先日購入したばかりのトルドア船も、まだ戦力化が不十分だとソウヤは聞いていた。
「アダマースが船の管理しているからね。正直、指揮する人間さえいれば、あとは彼女がやってくれるよ」
管理精霊による自動操縦というやつである。その点なら、勇者飛空艇であるプラタナムもまた同じである。
ジンは言った。
「これで銀の翼商会は、契約関係のサフィロ号を含めて、6隻の飛空艇を保有することになるな」
「6隻か……」
ゴールデンウィング二世号1隻で飛び回っていたのが、懐かしく感じる。船が増えて、まだそれほど時は経っていないのだが。
「プラタナムが勇者専用船ということは、商会旗艦はゴールデンウィング号から、プラタナムへ移るのかな?」
「……うーん」
ソウヤは腕を組む。二世号は拾いもので、初代ではないものの、銀の翼商会の初期からコツコツ手を加えて、甦らせた船でもある。
言ってみれば、商会にとって家みたいなものだった。
「商会長である、オレはプラタナムがメインにはなるだろうけど、商会としては、依然としてゴールデンウィング二世号がメインになると思う」
プラタナム号は、魔王軍との戦いでの活躍が主な出番となるだろう。だが商業活動においては、戦闘方面特化のプラタナム号よりゴールデンウィング二世号のほうがいいのではないかと思っている。
「薄々思っていたけど、ゴールデンウィング号って汎用船であって、戦闘では特に優れているわけじゃない」
テーブルマウンテンの木材ダンジョンで、魔王軍の空中部隊と戦った時も、ソウヤはゴールデンウィング二世号が沈まないか不安だった。家として愛着がある分、戦闘には出したくないという思いもある。
「ジーガル島攻略作戦がどんな形になるかはわからないけど、前線に出すには性能的に心許ないなって思うんだ。プラタナム号も加わったから、ゴールデンウィング号とゴルド・フリューゲル号は後方支援。戦闘には、それ以外の船をあてようと思う」
「それでいいんじゃないかな」
ジンは顎髭を撫でた。
「ゴールデンウィング号は、これまでこの商会の顔だったわけだし、戦闘グループと後方支援・行商グループで分けるのはいい考えだと思うよ」
全部を戦闘に出して、どれも修理が必要で使えませんとなるよりは、あまり戦闘力の高くない船は前線に出さない方がいい。
「と、言うことで、早速プラタナム号を試運転させようと思う」
ソウヤが言うと、ジンは眉をひそめた。
「動かすのかね? クルーは?」
「プラタナムの話では、彼単独で全部動かせるらしい。なあ?」
『はい、勇者ソウヤ。もちろん、クルーでも動かせますが、いなくても私が制御できます』
プラタナムが答えた。老魔術師は渋い顔になりながらも頷く。
「なるほど、アダマースと同じか」
「どうした? 気に入らないことでも?」
「いや、アダマース号もだが、プラタナム号の優秀さを知れば、サフィロ号の魔女が何か言ってこないか気になってね」
「……あぁ、リムか」
霧の海世界のラスボスこと、霧の魔女リム。
「そういえば、ディアマンテを返せ、とか言っていたっけ?」
「そう、ディアマンテ号は私の船なのだがね。アダマース号はあれの同型艦だからね。また騒ぎ立てるんじゃないかと思って」
「オレはディアマンテ号とかって言われてもわからねえから、悪いが爺さんのほうでそっちは何とかしてくれよ」
個人の問題である。状況もわからない部外者が首を突っ込むものではない。
「プラタナム、行けるか?」
『問題ありません。転移ゲートの作動も確認しました。浮上可能です』
「この船は転移もできるのかね?」
ジンが問うた。プラタナムは答える。
『施設側設備で可能です。残念ながら、本艦に転移機能はありません』
一応、この勇者遺跡は地下にある。大掛かりな開閉ギミックがないのなら、バラして運び込むか転移でもしないと、このドックに収まらないだろう。当然、出る時も。
「さあ、歴代勇者を乗せて世界を駆けた性能ってやつを見せてくれ」
『お任せください』
プラタナムは、艦内に出航のアナウンスをする。甲板上にいる人間に降りるか中に入るように指示。
すると艦橋に、ライヤーとフィーアが現れた。艦内見学をすると言っていたが。
「動かすのか? こいつを」
「そういうこった」
「見学しても?」
「どうぞ、お好きに」
ソウヤはプラタナムに合図をする。発進シークエンスに入り、転移のカウントダウンが開始される。やはり艦内を見ていたミストがやってきた瞬間、カウントがゼロになった。
『プラタナム、転移』
一瞬のことだった。艦橋の窓から見える外の景色が、謎金属の壁から、両側を崖で挟まれたスフェール渓谷に変わった。
『号令をどうぞ、勇者ソウヤ』
「その言い方、ムズがゆいな」
ソウヤは苦笑する。
「プラタナム、発進!」
「針路はどうしましょうか?」
かっこよく決めたつもりが、恥ずかしい突っ込みを受けた。――笑わないでくれよ、爺さん。
「とりあえず、まっすぐ。高度は……適当」
『了解』
その瞬間、プラタナム号は加速した。魔力ジェットのゴールデンウィング二世号よりもさらに速く、かすかにGを感じた。
窓の景色もあっという間に峡谷を過ぎ、空へと飛び上がる。雲を突き抜けるのもすぐだった。
「こいつが勇者遺産か……!」