軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第580話、プラタナム

勇者遺跡の遺物、謎の飛空艇。口をあんぐり開けていたライヤーが真顔になる。

「それで……この船、動くのか?」

「フィーア?」

ソウヤは機械人形の少女を見た。彼女はブリッジ内の窓近くのコンソールらしきものの近くに座った。

「たぶん、動力さえ稼働すれば、動くと思いますが……」

ボタンを押すが、反応しない。

「起動キーが必要です。おそらくこの大きな鍵穴に」

コンソールに、何やら隙間がある。ライヤーが覗き込んだ。

「でけぇ鍵穴。つーか、これ、剣くらいあるんじゃね?」

「そんな大きな鍵あるぅ?」

ミストが懐疑的な声を出した。だが――

「たぶん、それ正解だぞ、ライヤー」

ソウヤはコンソールに歩み寄り、神聖剣を取り出した。

「ここが勇者遺跡で、こいつが大昔の勇者の遺産っていうなら、こいつが鍵だと思うぜ」

「本当か?」

「忘れたのか? この遺跡に入る時、神聖剣が封印を解いたんだぜ?」

ソウヤはコンソールの起動キーのスロットルに神聖剣をゆっくり差し込んだ。すると、ただの背景も同然だったブリッジ内に光が点りはじめる。

「動き出したようです」

フィーアがコンソールパネルを操作する。

「神聖剣からの魔力供給により、モーターが作動。船内各部スキャンを開始――」

「フィーア……お前」

ライヤーが、相棒だと思っていた機械人形少女の想像外の行動に面食らっている。

ソウヤとしても、ここにきて勇者の遺物とフィーアが関係しているとは思っていなかった。だから驚きが強くなる。

この世界の古代文明――いつのかはソウヤも知らない。だが現在よりも優れた技術を持っていた文明は存在していて、この飛空艇とフィーアは同じ文明に作られたものと思うと、感慨深いものがある。

「制御システム、起動を確認」

フィーアがそう告げた途端、ブリッジに声が降りかかった。

『ディバインブレードの接続を確認。――お帰りなさい、勇者様』

突然の声に周囲は騒然となった。ライヤーが取り乱す。

「な、なんだ、いきなり声が!?」

「落ち着け。この船の制御システム――管理精霊だろ」

先ほどアダマース号で同じようなパターンに遭遇している分、ソウヤは冷静だった。しかしアダマースと違って、女神様っぽい銀髪美女が出てこなかったし、声も男性声だった。

「管理精霊?」

「さっき、アダマース号で――」

と現場にいたレーラが、ライヤーたちに説明する。サフィロ号のサフィーみたいなもの、と言えば、ミストやサジーは頷いた。

ソウヤは天井を見上げた。

「えーと、あんたは、この船の管理システム?」

『はい。私のことはご存じない?』

「……あいにくと」

ずいぶん人間らしい返事である。ソウヤは首を振る。

「オレはソウヤ。勇者として異世界から召喚された。少なくとも、この時代では勇者という認識で間違いないと思う」

『貴方がディバインブレードの所有者ですね。登録しました。はじめまして、勇者ソウヤ。私は『プラタナム』。歴代勇者様の所有物にして、世界の危機の際は勇者様の足として世界を駆け回る者です』

歴代勇者。世界の危機――このプラタナムと名乗った船は、歴代勇者と共にあったらしい。

「歴代勇者……?」

小首をかしげるミスト。ソウヤも肩をすくめた。

そもそも歴代勇者と言われても、過去の話や、勇者と呼ばれた人たちのことをあまり聞いたことがなかったのだ。

「オレもよく知らない。知っていることと言えば、世界の危機の際、異世界から勇者が召喚されるってことくらいだな」

エンネア王国に召喚された際に聞いた話だ。伝説になるくらい、古い時代から幾度もあったことらしい。この時代ではソウヤが最初で最後らしく、召喚した術者やエンネア王国の王族も、他の勇者のことは過去の伝承程度しか知らなかった。

『先代の勇者様から、聞いていないのですか?』

プラタナムが聞いてきた。

「残念ながら、オレたちは、ここに勇者遺跡があったから来ただけで、プラタナム、あんたのことは何も知らなかった」

『なるほど、前の勇者様が伝言を残さなかったのか、あるいは残したものの伝わっていないのか……』

そこで情報交換。この世界の歴史について専門家であるライヤーがいてくれたことで、先代勇者というのが、およそ400年から500年前の人物だということがわかった。

そしてプラタナムは1万年以上前、現在より遥かに発展した文明に作られたものだとわかった。

そう、アダマース号と違い、異世界ではなく、きちんとこの世界で建造された船だということだ。

さらに、フィーアのことについても、少しだけわかった。彼女は、プラタナムと同じ時代に作られたもので間違いないそうだ。

『解析します』

プラタナムのスキャンによれば、その文明における軍用の特殊オートマトンらしい。

「軍用? それにしては少女体型過ぎないか?」

外見が十代前半なのは、どうなのかとソウヤは思った。これに対するプラタナムの答えは。

『構造などから推測になりますが、諜報――特殊任務仕様でしょう。残念ながら、私では彼女の機密プログラムにアクセスできませんので、それ以上の断言はできませんが』

戦闘能力のほか、プラタナムの機械に対する知識もプログラムされている点など、一般家庭用オートマトンとは違うそうだった。

「お前って凄いんだな、フィーア」

持ち主であるライヤーも感心の声を上げた。わからなかったのか、と聞けば、ライヤーも、フィーアを遺跡から発掘したが、周りの機械類は壊れて動かない鉄屑だったから、さっぱり理解できなかったという。

「まあ、これで謎は解けたよな」

それはそれとして、プラタナムはソウヤたちの持ち船となった。

「オレらは行商だが、同時に魔王軍にも対処する。あんたの力、借りるぞ、プラタナム」

『私は勇者様の所有物です。世界の危機とあれば、存分にお使いください』

歴代勇者たちが、世界の危機に対処してきたように。