軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第497話、陸戦隊、壊滅

ラカトン陸戦隊野営地は、傍目からは何の変化もない。

しかし、そこには無色透明の猛毒があって魔族兵を殺戮した。

指揮官ズィトンと4人のオーク兵は、毒の範囲外に退避し、野営地を眺めていた。

「もう、よろしいのですか?」

「だいぶ、楽になった」

ズィトンは自分の足で立ち上がる。毒消しを早めに使ったのが功を奏した。近くに薬があったからよかったものの、それがなかった兵たちは対処できずに倒れていった。

「何だったんでしょうか? 猛毒が流れ込んでくるとは」

「ガバル城の壊滅原因……ではないな」

更地同然の魔王軍拠点を見やる。

「猛毒では兵は殺せても城は破壊できない」

「未確認のモンスターでしょうか?」

「可能性はあるな。ただ、何故、今までそのモンスターと遭遇しなかったのか、疑問もあるがね」

ダンジョンの中に拠点を作るとなって、周辺の調査は徹底的にされた。築城してはや数年経つが、その間に一度もこのような事件はなかったと聞いている。

「どうしますか?」

「捜索に出ている分隊が戻ってきたら、どこか違う場所に移動したほうがいいな。毒は直に流れるだろうが、いつ毒が発生するかもしれない場所に野営はできん」

装備も回収しなくてはならない。ダンジョンに残されて、一日と経たず、部隊が壊滅とは洒落にならない。

「そもそも毒がどうして流れてきたかもわからん」

モンスターなのか、自然現象なのか。おそらく前者だと思うが、姿を現さない以上、確実とは言い切れない。

「まったく……」

警戒しつつ、しばらく待つ。ズィトンは、あれこれ推測を重ねるが、確かなことはほとんどわからなかった。

「……遅いですな」

オーク副官は腕を組んだ。

「偵察の連中が戻ってきませんな」

「やられたかな」

ズィトンは淡々と言った。

「野営地がやられた毒と接触したら、まず助からないだろう」

「……」

「それでなくても、ここはダンジョンだからな。野生のモンスターと出くわしているかもしれない」

サンダーボールを持たせたのだが。

「指揮官殿!」

オーク兵のひとりが、一点を指さしていた。その先にいるのは――

「ドラゴン?」

「子供のようですな」

小型のドラゴンが、ズィトンらの視界によぎった。遠巻きに散歩するように。

黒い鱗。翼はあるようだが、体格からすると、標準的魔族兵が騎乗するくらいがちょうどいい。

「このダンジョンにドラゴンがいたとは……」

「もしや、先ほどの毒は、このドラゴンのブレスでは?」

「可能性はあるな」

「捕獲しますか?」

オーク副官は、サンダーボールを握った。直撃させれば、子供ドラゴンを捕まえることができるだろう。

「どうかな。近づくのは危険じゃないか?」

透明の毒を吐くかもしれない。近づいたら、逆に毒の餌食となるか。

「しかし、もし毒の主なら、放置しておくほうが危険では?」

「そうだな。やるか」

「はい!」

ズィトンとオーク兵たちは動いた。子供ドラゴンもそれに気づいたようで、唐突に口を開いた。

ブレスか!――身構えるオーク兵たち。ドラゴンはブレスを吐いた。

目に見える、濛々たる黒煙のようなブレスを。ブンブンと首を振り、たちまち周囲に飛散する煙。煙幕が視界からドラゴンの姿を隠す。

「なっ!?」

「気をつけろ! ポイズンブレスかもしれない!」

目に見える煙とはいえ、あまりに毒々しい黒い煙は警戒心を生んだ。それ自体が毒のブレスかもしれないが、あるいは煙に気をとられている隙をついて、無色の毒を潜ませているかもしれない。

ズィトンとオークたちは様子を見守る。この煙幕を利用して急に飛び出してくる可能性もあった。サンダーボールを握り、奇襲に備えるオーク兵。

スッ、とズィトンは背筋に冷たいものを感じた。

思わず振り返ったその時、鼓膜を破らんばかりのドラゴンの咆哮が突き抜けた。視界を巨大な黒竜が飛び抜け、さらに人影がよぎり、飛び掛かってきた。

・ ・ ・

「どぉおりゃあぁぁっ!」

ソウヤは斬鉄を手に影竜の背から飛び降りた。斬鉄の一撃が、オークの頭を吹き飛ばす。

同じくリアハが魔断剣ソラス・ナ・ガリーを手に魔族兵に斬りかかった。

完全な奇襲だった。

フォルスが魔族兵たちの近くをウロウロすることで注目を集めている間に、影竜が空から急速接近。その背に乗ってソウヤとリアハが敵兵に肉薄し攻撃する。

完全に囮になったフォルスだが、遠くにいる子供ドラゴンなら、魔族もいきなり攻撃せず様子を見るだろうと判断した結果だ。近づいてきたら、煙幕ブレスで煙に巻けと言っておいたら、きちんとフォルスは役割を果たしたのだった。

ソウヤは返す一撃でもう一体のオーク兵を粉砕。残るはふたり。……と、リアハが最後のオーク兵を両断した。

最後に残ったのは指揮官らしい青い肌の魔族。ソウヤを見やり、腰から短剣を抜いたが、そんなもので相手をできるとは思えない。

――さあて、リアハ。殺すなよ……!

影竜の背中に乗っている時も、『ひとりは残せ』とソウヤは言い聞かせた。もちろん、可能なら、ではあるが。

「残りはお前だけだ。降伏しろ!」

『!?』

かすかに反応があったが、青肌の魔族はあまり表情が動かなかった。

――これ、通じているのかな?

人間の言葉が分からないというオチの可能性。ソウヤの経験上、魔王軍の指揮官クラスだと、割と人間の言葉を解していたが。

青肌の指揮官の後ろにリアハが迫ると、有無を言わせず魔断剣を叩き込んだ。

「やったか?」

「峰打ちです。……たぶん、気絶したかと」

倒れた魔族指揮官は、リアハの言うとおり意識を失っている。ちなみにリアハは峰打ちと言ったが、正確には刃のない部分で力一杯ぶん殴ったというのが正しい。

ソウヤはアイテムボックスから手枷を出して、魔族指揮官を拘束した。

「捕虜確保。何か情報が掴めればいいが……」

例えば魔王軍の拠点とか、連中の企みとか。