軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第498話、野営地の捜索

捕虜をアイテムボックス内に収納したソウヤは、魔王軍の野営地へと足を踏み入れた。

先手を打って使用された影竜のポイズンブレスは、すでに風に流されている。しかしここに死の大気が漂っていた残滓は残っていた。

「……」

毒にやられた魔族兵の死体が至る所に転がっている。もがき苦しんだ敵兵。種族ごとの表情について、いまいち判別がつきにくいが、いずれも苦しんだのだろうと、ソウヤは思った。

――ドラゴンの毒ってのは、やっぱ恐ろしいな……。

味方でよかった。もし敵だったら、倒れていたのは人間のほうだ。

勇者時代の記憶が蘇る。魔王軍との戦いの中で、砦ひとつが猛毒ガスにやられて、守備隊が全滅していた時のことを。

「……あまり気持ちのいいものではありませんね」

レーラが神妙な調子で言った。おそらく、ソウヤと同じことを思い出したのだろう。彼女もその時、まだ生存者がいないかと同行し、あの地獄のような光景を目の当たりにしている。

「魔族は苦しむべきです」

リアハが敵の死体へ冷めた目を向けた。

「エルフの人たちや、魔族たちによって殺された人々の無念を思えば……」

「……」

魔族への憎悪を隠そうとしない妹に、レーラは複雑な表情を浮かべる。

影竜はフォルスを連れて、野営地内を見て回っている。子供にこういう光景を見せるのはどうかと思わないでもない。とはいえ、こちらでもガンガン魔族兵を倒しているから、今更ではある。

天幕に入って物色する。魔王討伐の旅では、敵の城や拠点の探索はしたが、こういう野営地はやったことがなかった。

大半は休めればいい程度の作りになっており、個人携帯用の荷物とラグじみた敷物があるだけだった。

「へえ、こいつは魔族の寝床かな。やっぱ地面にじか寝はしんどいもんな」

くせぇ――臭いに顔をしかめつつ、捜索を続ける。一般兵の装具は、魔王軍の情報という面では見るべきものがなかった。そもそも支給品なんて武器や防具中心で、それ以外はほとんどなかった。

レーラが苦笑した。

「何だか泥棒さんになった気分です」

「可愛い泥棒もいたもんだ」

思わず皮肉が出てしまった。ソウヤは、あまりに荷物がなくて首を振る。

「さすがに故郷への手紙とか筆記用具とか、そういうのもないな」

魔族が手紙なんて書くのか、と言ったら偏見か。しかし古い時代なら、あまり荷物を持ち運ばないから、こんなものかもしれない。

「指揮官の天幕くらいかな。あるとすれば」

そんなわけで、立派そうな天幕を探す。この手の野営地では、偉い人がどこにいるかわかりやすいように、見た目から格付けされている。

大きめの天幕から影竜親子が出てきた。

「そっちは何だった?」

「倉庫と、調理場だな。ニオイがしたから食べ物かと思ったが、ちょっとな」

「真四角の肉があったー」

フォルスが報告した。

「でも、変な汁ついてて、臭かったから食べなかったよ」

「それがいい。何の肉かもわからないしな」

変な汁とは何だろうか。体に悪い着色料か、はたまた保存用の液体だったりするかもしれない。

リアハはといえば魔断剣を手に、倒れている魔族兵に警戒しながら突いていた。

死体蹴りではなく、生きているかの確認だ。戦場には往々にして、死んだフリをしている奴が潜んでいることがある。

手を出してチェックしようとして、実は生きていたそれに逆襲に遭う可能性もあるから、足や手にしている武器で反応を確かめるのだ。決して、魔族憎しの気持ちで死体を蹴っているわけではない。

「レーラ」

「ええ、わかってます」

聖女は、妹の行動を見守る。

「あれも大事なことですから」

ソウヤは頷くと、捜索に戻る。他に比べて刺繍が多いのは指揮官用の天幕だ。中に入れば、簡素な折りたたみ机と椅子があり、粗末ながらベッドがあった。やはり指揮官ともなると、待遇が上がる。

地面に空になった小さな筒が落ちている。薬品っぽいニオイがしたから、おそらく毒消しか何か魔法薬が入っていたのだろう。――これを飲んで毒から生き延びたんだな。

あの青い肌の魔族だろうか。

荷物入れと思われる箱がある。南京錠にも似た鍵が掛かっていた。

「個人用の荷物入れか、それとも軍関係の代物か」

ソウヤは斬鉄で鍵を破壊する。レーラが見守る中、ソウヤは箱を開けて中身を見た。

「個人の持ち物か……」

ナイフ、獣の牙で作られたアクセサリー、いやお守りか。これが近代だったら、家族の写真とかもあったりするかもしれない。

「特に魔王軍の情報になりそうなものはないな」

期待した成果は、ここにはなかった。

「残念ですね」

「まあ、おそらくやられた城の見張りとか、生存者探しに残された連中だからな。大した情報とか品物とかは元から期待はできなかったろうね」

ソウヤとレーラは天幕を後にした。リアハと影竜親子と合流。強いて価値があるものといえば、魔族兵の使っていた武器や防具か。

「ソウヤ、例の痺れ玉があったぞ」

影竜が食らったという、ドラゴンさえ痺れる敵の兵器を鹵獲した。ジンたちと合流したら調べてもらおうとソウヤは思った。

「じゃあ、隠れ家に戻るか」

「ここはどうします? 焼き払いますか?」

リアハが聞いてきた。ざっと野営地を眺め、ソウヤは首を横に振る。

「このままでいいや。自然に任せよう」

ここはダンジョンだ。ある程度時間が経てば、死体は処分してくれるだろう。

かくて、ソウヤたちは野営地を後にした。あまり収穫はなかったが、まだ捕虜にした魔族指揮官がいる。

ミストが魔王軍の飛空艇を追跡している間、まだ幾何かの時間があるだろう。その間に、取り調べくらいはできるかもしれない。