作品タイトル不明
第493話、飛空艇、動く
ダンジョンに魔王軍の飛空艇がやってきて、その日は何事もなく終わった。
もちろん、それはソウヤたちにとってであり、魔族たちにとっては、自分たちの拠点が破壊された原因の究明と、敵性存在の確認と生存者の捜索で忙しかった。
ミストの魔力眼の偵察も、影竜、ヴィテスの3人で交代でやることになり、遠く安全地帯より監視するに留めた。
そして翌日、魔王軍の飛空艇に動きがあった。
「飛空艇はダンジョンの外へ移動するようよ」
その朝の時間、監視していたのはミストだった。
「あと、野営地は残してる。30人くらいかしら。兵隊を置いていっているわね。飛空艇はここから撤退するみたい」
「動いたか」
どこかに寄り道するのでなければ、この飛空艇は自分たちの母港である拠点へ戻るはずだ。
「ようし、そのまま見張ってくれ、ミスト。絶対に逃がすな」
「当たり前でしょ? 任せなさい」
ソウヤはレーラとリアハへと視線を向けた。
「数日粘った甲斐があったってもんだ」
こちらも浮遊ボートがあるから距離を取りつつ追跡しようかと考える。リアハが口を開いた。
「ソウヤさん、残っている魔族兵はどうします? 片付けますか」
「生存者の捜索活動だろうが……。残しておくのも不安だよな」
ここはダンジョン。モンスターもいるから外敵には襲い掛かるだろうが、魔王軍はここに拠点を作っていた。
ダンジョンを行き来している連中のことだから、周辺の環境の情報など、ある程度持っているはずだ。そう考えるならダンジョンモンスターにやられると期待するのは難しいかもしれない。
「30人くらいか」
ソウヤは片目を瞑る。それくらいの人数がいれば大丈夫と連中は考えているのだ。
「ここは爺さんの弟子さんのダンジョンだ。万が一にもダンジョンの制御室とか見つけられたら面倒だしな。片付けるか」
「はい!」
リアハは頷いた。
そこへ影竜が欠伸をしながらやってきた。
「魔王軍退治か。どれ肩ならしに軽く捻ってやるとするか」
「珍しくやる気だな」
「言うな。我もやる時はやるぞ」
不満そうに鼻をならす影竜。しかし不満と言えば、もう一人。
「何でよ! ワタシだって戦いたいのにぃー!」
ミストが声を張り上げた。――ここに戦闘狂がいたなー。
「フフン、今はお前が見張る番だ。大人しく空飛ぶ船でも見張っておれ」
ここぞとばかりに影竜は言った。相変わらずである。
「さて、どう片付けるかだが……」
「そんなもの、我が飛んでいって、野営地ごと焼き払えばよかろう」
影竜が胸を張れば、レーラが苦笑した。
「ドラゴンさんらしいですね」
いきなりやってきて、ブレスで薙ぎ払うとか、まさしく生物界の頂点を自負するドラゴンである。らしいと言えばらしいのだが。
「できれば野営地は残して、魔族だけやっつけたいんだよな」
「理由を聞いても?」
リアハが問うた。ソウヤは頭を傾ける。
「魔王軍のことで、何か資料なり連中を知る手掛かりがあったら、と思ってさ」
生存者探しに機密書類もないだろうが、情報のネタになるようなものがあれば、もしかしたら今後の役に立つものがあるかもしれない。
「ついでに指揮官を捕虜にできたら、とも思うが、それは難しいかな」
「やってみる価値はあるかもしれません」
「ありがとう、リアハ。だがここにいるメンツの安全優先だ。無理はしない」
「万が一にも我らが負けるとでも思っているのか?」
影竜が皮肉る。
「たかが30人程度だろう?」
「そうは言っても、こんなダンジョンに残った連中だぞ? まったく戦闘力がないわけがない」
とはいえ、ドラゴンや、魔王を討伐した元勇者が負けるかと言われれば、それはないだろうと思ってしまう。
――いやいや……そういう油断が命取りじゃないか。今まで何をやってきた? 油断して散々痛い目に遭ってきたじゃないか。
勇者時代の教訓を活かすべく、現在の銀の翼商会では、油断しないとソウヤは常に心掛けてきた。だから負傷者は出ても、死者は出していない。それはこれからも同じだ。
「対大型モンスター用の魔法武器とか持っているかもしれない。油断すると、怪我どころじゃ済まないかもしれない」
ソウヤが言えば、レーラは特に強く『うんうん』と頷いた。影竜は腕を組んだ。
「分からんでもないが、我はドラゴンだ。か弱い人間と違い、ちょっとやそっとの傷ならすぐに再生する」
「まあ、そうなんだけどさ……」
ソウヤは視線を転じる。リビングの端で、シャドーボクシングじみた動きをしている子供ドラゴンがいた。
「教育方針にあまり強く口出しするつもりはないが、あいつも連れてくつもりなら、特に気をつけろ」
ドラゴンが子供をいつから戦闘に参加させるかは知らない。野生の生き物は、何事も人間などと違い、やらせるのが早い。
もちろん、ソウヤとて、もしフォルスが戦場に出るなら注意はするつもりでいる。特に今回は、敵も比較的少人数。分散しているところで仕掛けるなら、よい実戦が詰める。
経験のない者を大規模な戦場にいきなり放り出すよりは、よっぽどマシではあるが、これが油断でなければいいのだが。
「ソウヤ様」
レーラがニコリとして言った。
「本当にお父さんみたいですね」
「は?」
思いがけない言葉に、ソウヤは目を丸くした。
「いきなり何だ?」
「だって、影竜様やフォルス君のことを心配したんですよね?」
ちなみに、やる気のフォルスを余所に、ヴィテスはお休み中。夜の間、魔力眼で敵野営地と飛空艇を監視していたので、ようやく寝ているのである。
「それって、やっぱりお父さんなんですよ」
はー……。ソウヤは思わず溜息が漏れた。何だかんだで、ここ最近やたら親子を強調しているようだが、ソウヤと影竜は、そういう関係は一切ない。ましてフォルスとヴィテスには、ソウヤの血はまったく流れていない。赤の他人である。
「おい、影竜。そこでまんざらでもない顔をすんな」
「ん? 何の事かな?」
視線を逸らして、何やら得意げな顔をする影竜である。
レーラもレーラだが、最近やたら家族だのを意識させてくるのは、自分もそうなりたいという一種の圧力だろうかと勘ぐってしまう。
ソウヤは気を引き締めるべく手を叩いた。
「さあ、仕事に取り掛かるぞ」