軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第492話、お父さん、血の繋がらない子供たち

ソウヤはヴィテスから、『お父さん』と呼ばれるようになった。

どうしてそうなったのか、いまいち分からない。ソウヤ自身、未婚で子供などいないから経験はない。場にいたレーラから『父親』のよう、と言われたが、銀の翼商会のリーダーとして、何かあったら責任を持つのスタンスだっただけで、親を意識したわけではない。

「魔王軍の連中、今夜は野営するみたいよ」

魔力眼で、敵を見張っているミストは報告した。飛空艇は廃墟の城の上空で待機。一部、魔族の部隊がテントを張っているとのことだった。

城崩壊の原因調査と、生存者の捜索だろう。こちらとしては、さっさと魔王軍の拠点に移動してもらいたいので、早々に立ち去ってくれたほうがいいのだが。

敵が動かないなら監視する以外することがないので、ソウヤはヴィテスと影竜のもとへ行き、例の話をすることにした。その間、フォルスはレーラが面倒を見てくれた。

ヴィテスが障害を持っていたが、ジンの助けで回復した事、その副作用で成竜と同等かそれ以上の知識を得た事などなど。

影竜は、ポカンとした顔でそれを聞いていた。

「ヴィテス、お前、病気だったのか?」

「うん」

「そうか……。何となく、違和感はあったのだ」

あまり話さず、静かな子という印象のヴィテスだったが、どこかおかしいのでは、と影竜も薄々感じていたようだった。

「ドラゴンの再生力云々では解決しなかった問題であろう? ならば治ってよかった。……しかし、そうなると、本当にあの魔術師は神竜なのか……?」

影竜は腕を組んで、唸りだした。

神竜――四大竜の上位種であり、ドラゴンの中でも伝説の存在である。ジン・クレイマン――銀の翼商会にいる伝説の魔術王のことを、クラウドドラゴンが神竜などと呼び出したとか何とか。

――……ジン……シン、神……?

ソウヤは首を捻る。あの偉大なる老魔術師は大抵のことをどうにかしてしまえる力を持っている。先天的なドラゴンの障害も取り除くとは、魔術王は伊達ではないということか。

「それはともかくとして、ヴィテスよ。すでに成竜に等しい力を得たとは喜ばしいことだ。ドラゴンは力だ。誇りに思うぞ、我が娘!」

影竜は好意的に解釈した。ドラゴンは至極シンプルなのだ。分かりやすい力は好意的に受け取る。

褒められたのだが、当のヴィテスは『私の力じゃないし』と微妙な顔だった。この辺り、割り切れないのは取り込んだ知識が人間ベースのせいかもしれない。自分の力だガハハ、で済めば気分も楽だろうが。

この件は、これにて一件落着した。あれだけ探し回ったことなど特に影竜は注意も叱責もなかった。ヴィテスがすでに独り立ちレベルだと感じたのかもしれない。

ドラゴンの子育てについて、ソウヤは専門家ではない故、深く口出しはできない。もちろん放逐されたりする場合は、人間の勝手な判断で拾ったりフォローしたりするつもりではいた。

影竜親子の家庭環境が崩れなかったのは、よしとすべきことである。しかし、このまま何事もなく済まないのが世の中というものである。

・ ・ ・

ミストが魔力眼で、魔王軍の監視をする一方、動きがない間は日常業務を消化していたソウヤたち他の面々だったが――

「ねーえー。どうしてヴィテスは、ソウヤーにくっついてるのー?」

フォルスが抗議の声を上げる。

いつもはドラゴン姿で、端っこにひとりでいることの多いヴィテスが、幼女姿でソウヤの膝の上に座っていた。

劇的変化である。

「お父さんに甘えているの」

臆面もなく言い放ったヴィテスは、ソウヤにもたれかかる。

「ずーるーいー!」

フォルスも少年姿になると、ソウヤの背中にタックルしてきた。

「おいおい、元気だな」

後ろから抱きしめられ、頬で背中がスリスリされる。人形態なのがせめてもの救いだ。

「まあまあ……」

レーラが、子供たちに囲まれるソウヤの姿ににこにことした笑みを向ける。かつてよく見た光景だ。聖女様は子供たちの元気な姿を女神のように見守っていた。

同じくこれを見ていたメリンダが、リアハに小さく声を掛けた。

「あれ何があったんです? 本当に親子みたいなんですけど?」

「ええ、ちょっと妬けてしまいますよね……」

「はい?」

想像とは違う答えを返されて、メリンダは困惑する。家族会議のような話し合いの場にいなかったので、ヴィテスの変貌に理解が追いつかなかった。

「完全に親子なんですけど!」

メリンダは苦虫を噛む。

「何ですか、何なんですか? 幸せ家族ですか! あー、そうですか」

ちくしょう、と言うメリンダだが、敵意や憎しみなどはなく、好意的な困惑をしていた。

「……いいですね、子供って」

「大丈夫ですか、メリンダ?」

「大丈夫ですよ。素面です」

浄化されたような顔で、メリンダは言った。

・ ・ ・

「あのさ、ヴィテス」

「なぁに、お父さん?」

「お前……一緒に風呂に入るつもりか?」

「そうよ。親子だもの」

「いや、それおかしい!」

風呂に幼女――中身は大人並――と成人男性であるソウヤが一緒なのは、さすがによろしくない。

「そーやー、はやくー!」

一方、男の子であるフォルスは、すっかり風呂をソウヤと一緒に入るようになって、それが当たり前になっている。

「フォルスはずるい」

「いやいや、お前も人間の考えやマナーが分かるなら、男女でこれはマズいって分かるだろ?」

「どうして? 親子なら問題ないでしょ? 私はまだゼロ歳児」

こんな成熟したゼロ歳児がいるか!――ソウヤは困ってしまう。

人間常識に精通し過ぎるドラゴン。都合のいい常識を利用して、距離を詰めてくる幼女。下手に知識があるから、初心な大人たちより狡猾である。

しかし、初心ながらも常識をわきまえたレーラやリアハ、ライバルに敏感なミストなどが過剰な肉薄を阻止するのであった。

ようやく安心して風呂に入るソウヤ。フォルスはチャプチャプと水遊びしている。

「なあ、フォルス……。明日はフラフラと外に出るなよ」

「うん。……まおー軍がいるからだよね」

「そうだ。あいつらがいつまでここにいるかはわかんねえけど、もし移動するなら、その後を追わなきゃいけねえ」

「ボクはここ、気に入ってるんだけどなー」

「そうだなぁ。いいよなここ。それにこういう生活も」

――まあ、ちょっと暇を持て余してもいるが。

銀の翼商会の仕事、そして魔王軍との戦い。どちらも近いうちにやってくる。

「ちょっとした休暇みたいになっちまったけど、それもいつか終わるんだよな」