軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第457話、自分の気持ち、他人の気持ち

恋愛については、忙しさにかまけて考えてこなかった。

「オレはどう考えている……?」

ソウヤは自問する。

好きという感情で言えば、色々浮かぶが恋人としてのラインで考えると、真っ先に浮かんだのはレーラだった。

勇者時代からの仲間であり、復活した今でもソウヤの世話を焼く。それは日々の癒しであり、それがずっと続くことを望んでいる。

では、リアハはどうか?

彼女からの好意を感じることはあった。だが恋愛を意識させるような素振りはなく、尊敬する先輩として見られている感じだ。なまじ、十年前の幼かった頃を知っているから、どうしても妹を見るような目になってしまう。

ソフィアのようにわかりやすい言動があれば、話は変わっていたかもしれない。だが、リアハはまったく甘えを見せなかった。

むしろ、レーラがいる分、自分から距離をとっているようにさえ感じる。……もっとも、今日のような極端な避けられ方はされていなかったが。

リアハはソウヤに好意を抱いていた、と周囲が言っても、リアハ本人には悪いが、そこまで心が揺さぶられる物はなかった。

最後に浮かんだのはミストだが……彼女は一番スキンシップが激しい。しかしドラゴンであり、相棒という言葉がピッタリだった。恋人というより戦友である。

客観的に見た場合、ソウヤの中ではレーラが頭ひとつ抜けている。彼女が聖女でなかったなら、もっと積極的に好意を出していたのはないか、とさえ思える。

「聖女でなかったら……」

二の足を踏んでいるのは、レーラが聖女であるということが関係しているとソウヤは思っている。

世界の救いであり、教会の崇める聖女は、清らかな存在であり、そうでなければならない。

それを穢すのは大罪だ――それが世界の反応であり、当人たちではどうにもならない大きな障害だった。

「世界を敵に回しても……か」

「おや、穏やかではござらんなぁ、ソウヤ殿」

「おう、フラッド」

緑色の肌のリザードマンの戦士がやってきた。

「ソウヤ殿が黄昏れていると聞いて、参上仕った」

ゴールデンウィング二世号の船首である。手すりに体を預けていたソウヤの隣にフラッドは立ち止まった。

「考え事をしていた」

「知っているでござる。とうとう、世界征服に乗り出すでござるか?」

「は?」

ソウヤは思いがけない言葉に面食らった。

「だって、世界を敵に、などと申したではござらんか」

「あー、違う違う。そいつは誤解ってもんだ」

「ハッハッハッ、もちろん、そうでござろう。ソウヤ殿は世界征服などに興味はござらん」

フラッドは船首から見える景色――ドワーフの町ルガードークを眺める。

「それで、どうでござった?」

「何が?」

「ミスト殿……ドラゴンと致したでござろう? どうでござったか?」

「っ!?」

思わず咽せた。これは酷い。

「噂にぶん回されたか、フラッド」

「噂? 何のことでござるか?」

リザードマンの戦士は舌をチロチロと覗かせた。

「某は、いつもの如くアクアドラゴン様を崇める儀式をしていたところ、クラウドドラゴン様とアクアドラゴン様の会話を耳にしたでござる」

アクアドラゴンを崇める儀式とは……? リザードマンは水の守り神として、アクアドラゴンを崇拝している。

それはともかく、ミストが人間の夜の営みを教わった。その流れはドラゴンたちの耳にも入った。というより、クラウドドラゴンが察知した。

「クラウドドラゴン様は人間の性的行為について関心を示されたが、我らがアクアドラゴン様は興味ないと一蹴された」

人間が高貴なるドラゴンとする意味がわからない、とあまりよろしくない目だったという。

「いやまあ、ドラゴンの視点からしたら、むしろアクアドラゴンの意見が一般的だろうな」

ソウヤは頷いた。フラッドは顔を近づけた。

「しかし、人化したドラゴンと人間が致したと聞けば、リザードマンとしても好奇心がうずくわけでござる」

――お前も好奇心か。

「ドラゴンと人の特徴を併せ持ったドラゴニュートという種族がいるのでござるが、まさか、その誕生の秘密はコレでは、と思った次第」

ドラゴンと人間が交わったから、とでも言うのだろうか。呆れるソウヤに構わず、フラッドはまくし立てた。

「いや、純粋にドラゴンと致すという行為自体が非常に気になるのでござるぅ! 我らリザードマンの上級種族たるドラゴンと致すとはいったいどういうものでござるかーっ!」

「致してねえよ! 誤解すんな!」

テンションが高いフラッドに、怒鳴るような勢いで否定するソウヤである。あまりの声に、おそらく甲板にいた人間全員に聞こえたと思い見渡せば――

ニヤリとしているエルフの治癒魔術師と視線が合った。――この野郎も聞いてやがるな。

ソウヤは、指を立ててチョイチョイとこっちへ来いというジェスチャーをする。エルフの治癒魔術師ダルは首を傾げつつやってきた。

フラッドを交えて、ソウヤは誤解とわからせるために説明をした。ついでに、メンタル先生であるダルに恋愛相談をした。

・ ・ ・

「――つまり、ソウヤはレーラ様のことが好きで、結婚するなら彼女、と」

「結婚までは言ってねえよ」

ソウヤは、やんわり修正する。ダルは首を傾げる。

「そしてリアハ姫には、恋愛感情は抱いていないということですか。なるほどなるほど」

「何がなるほどでござるか?」

フラッドの問いに、ダルは涼しい顔を向けた。

「彼の中では、もう答えが出ているということですよ。なら、そのように行動すべきです。ソウヤ、リアハ姫のことは彼女がアプローチをかけるまで放置で問題ありません」

「放置?」

「正式に付き合っているわけでもなく、リアハ姫のほうが避けているのです。ここで深入りするのは、ぶっちゃけ自分がモテていると自惚れるくらいイタいのでやめましょう」

「お、おう……」

リアハ本人がソウヤに対して言ってもいないのに、それについて話しかけるのはとんだ勘違い野郎と思われる可能性もあると、ダルは指摘した。

「リアハ姫が、ソウヤに好意を抱いている、いや抱いていたのは間違いないでしょうけどね……」

ダルは遠い目になった。

「ただ、おそらく姉であるレーラ様のお気持ちを汲んで、身を引こうとしているのだと思います。ですが、本音の部分では未練があって、それが彼女にあのような態度を取らせてしまったのでしょう。いじらしいですねぇ」

「……オレにできることは?」

「彼女から声を掛けられない限り何もするな、が正解です。お節介はあなたの十八番ですが、これは彼女の心の問題なのです」

エルフの治癒魔術師はきっぱりと言い放つのだった。闇雲に突っ込むことが正しいとは限らないのだ。