軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第456話、素直になれない人たち

ドラゴンは遠慮しない種族である。

元より好奇心の赴くまま、つかみどころのないクラウドドラゴンである。ミストが人間との夜の営みについて学んだ結果、クラウドドラゴンも関心を寄せたらしい。

ミストに教えた通りに、クラウドドラゴンに教えればいいのか。

本番にならないように自重と回避努力をしたソウヤだったが、クラウドドラゴンのそれを回避できるか少々自信がなかった。

見学でもいいという話だが……。人前でするようなことでもない。ソウヤ的には却下である。

かと言って、他の人のを見たら、というのも気が引ける。その気になれば、上級ドラゴンは千里眼やら魔眼で覗くこともできそうだが、それを推奨するわけにもいかない。

覗き、ダメ。絶対!

同時に、レーラに今晩教えるなどとは間違っても口にできない。格好の覗きポイントを提供するつもりはない。何より、レーラが受けるだろうダメージが大きすぎるのだ。

本気で悩むソウヤをよそに、カマルは『巻き込むな』と口にした割に部屋に居座っている。成り行きを見守っているといえば聞こえはいいが、野次馬だろう。

これが普通に人間の男だったなら、カマルが『よし、夜の店に連れていってやる!』と音頭をとってくれるのだが……。

さすがにそういう店に、変化しているとはいえドラゴンを連れて行くのは何かあった時が怖い。

「おや、お揃いだね」

老魔術師がひょっこり現れた。

「ドラゴンたちまできて、何の相談かね?」

ジンが聞けば、ソウヤが口を開く前に、ミストがクラウドドラゴンの要望を告げた。ふむふむ、と頷いていたジンは、ソウヤを見た。

「それで、解決策は見いだせたかね?」

「……」

お手上げというポーズで返せば、老魔術師は自身の顎髭を撫でた。

「なら、この件は私が預かろう。クラウドドラゴンの知的好奇心を満たす方法にいくつか心当たりがある」

「大丈夫なのか?」

ソウヤが聞けば、ジンはウインクを返した。

「伊達に歳はとっておらんよ」

おお、偉大なるクレイマン王――何と頼もしいお言葉である。

そんなわけで、ジンはクラウドドラゴンとミストを連れて退出した。残されたソウヤとカマルは顔を見合わせる。

「何だったんだろうな?」

「あの御仁が、ドラゴンの要望をどう解決するか興味があるね」

「行ってこいよ。あとでレポートを書いてくれ」

本気とも冗談とも取れる口調で、ソウヤはカマルを送り出した。

何だかドッと疲れてしまった。クラウドドラゴンはジンに任せてしまうとして、ソウヤはレーラと、あと噂の出所であるリアハともお話しなくてはならないと思った。

・ ・ ・

リアハが話をさせてくれなかった。

ソウヤが声を掛ければ、何かと理由をつけて避ける。

「話、いい?」

「すみません、先約がありますので――」

理由を聞こうとすると、すでに距離をとっている。追いかけては、何かあったのかと周囲の目を引くので強行できず。

では、リアハと仲のよいソフィアを押さえて、そこから話のきっかけをつかもうと思った。何せ話し込んでいた相手でもあるから、その詳細も把握できるだろう。

「……」

「……」

「……」

「……っ。何か言いなさいよ!」

「別に……」

ソフィアは、セイジと何やら微妙な空気の中にいた。お互いに頬を赤くしながら、不明瞭なやりとりの真っ最中。

声を掛けていいものか、ソウヤは困ってしまう。会話の最中なのか、何か言おうとするたびに 躊躇(ためら) っては押し黙る。お互いにそれを繰り返すものだから、割って入るのが悪いように思える。

どうしたものか、と一歩を踏み出すのを躊躇っていたソウヤの背後に、ふっと気配が現れる。

「ソウヤ殿」

「うわっ!」

闇魔術師ヴィオレットだった。紫色のフード付きローブをまとう彼女は、その素顔を含め、謎が多い人物である。魔法大会後の志願組だが、このように中々接触の機会がなかった。

「びっくりさせて申し訳ありません、ソウヤ殿。つい人を驚かせたくて、黙ってそばに寄ってしまうのです」

「わざとか」

「何故か人に比べて察知されにくい体質なのです。なので、どこで気づくか試していたら、こんなことになっておりました」

小さく笑うヴィオレット。その頭が、ソフィアとセイジへと向く。

「あの二人、ずっとああなのです。仲直りしたいし、できれば一夜を共にすることに関して振り出しに戻したいと思っているのですが――」

お互いに顔を正視できず、そっぽを向いたような格好がしばらく続いているという。

「やはり、自分から言うのは勇気がいるといいますか、プライドが邪魔をしている様子」

「プライドか。ソフィアらしい」

「セイジ殿もです。あれで頼られる殿方になりたいと努力している故」

エッチぃことしましょ、と口にするには恥ずかしいお年頃なのだ。

「ソフィアに話を聞こうと思ったんだが……それどころじゃなさそうだな」

じれったい。イチャイチャしやがって――である。

「何か彼女に用でしたか?」

ヴィオレットが問うた。

「まあ、リアハのことなんだけどさ。オレを避けているようで、何でかなーって思ったのさ」

「ああ、朝の噂ですね。ソウヤ殿が女子を部屋に連れ込んだとかいう」

「……」

彼女も知っていた。ソウヤはゲンナリした。

「仕方ないですよ。リアハ姫は、ソウヤ殿に好意を抱いていますから」

好意ね――ソウヤは真顔になる。親密な空気になったことはあるが、最近の彼女を見るとあまり自信がない。

「ソウヤ殿は、リアハ姫のことをどう思っているのですか?」

ヴィオレットの言葉に、ソウヤは考え込む。

どう思っているのか。いい子だと思う。だが恋愛絡みで見たことはあまりない。むしろ、手を出すなどと考えたことはなかった。

その時、唐突に彼女たちの父グレースランド王の言葉がよぎった。

『もし相手が決まっていないのなら、考えておいてくれたまえ。……君なら、娘を預けられる』