軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第328話、VS クラーケン

あまりに大きすぎて、全体のシルエットが見えない。

潜水艇オーシャン・サファイア号から見たクラーケンは、まさに島の如く巨大であり、壁のようであった。

「あ、視界を変更」

ボソッとジンが呟けば、窓からの視界が一気に真っ暗になった。途端にここが深海だと思い出すが、直後、放った魚雷が爆発し、凄まじい光を発した。

「うわ、まぶしっ!」

「魔力視点だったら、もっとひどい光だっただろうよ」

ジンはそう言った。光が消え、再び魔力視点に戻すと、海の中が窓からも見えるようになった。

壁のようだったクラーケンの姿はない。アクアドラゴンが声を張り上げた。

「やったか!?」

「やってない」

ジンは、オーシャン・サファイア号を進ませる。

「急速浮上する!」

「メインタンクブロー、だな」

「残念ながら、この潜水艇にはタンクはないんだがね」

軽口を叩きながら、潜水艇は浮かび上がっていく。船内の『重り』の重量を極力まで減らすことで、自然と海面へと浮上していく。

潜水艇とは元来、浮かぶようにできているのだ。

「クラーケンはどこだ?」

「下だよ」

ジンは答えた。

「触手を伸ばしてる」

直後、ガァンと音がして、わずかな振動がオーシャン・サファイア号を襲った。

「……今のは?」

「その触手が障壁に当たった音だ。障壁にさらに魔力を集中!」

またも振動。先ほどより強い。ソフィアが顔を上げる。

「もし障壁がなくなったら?」

「一巻の終わりだ」

ズゥーン、ズゥーンと衝撃が連続した。クラーケンの触手攻勢が強くなっているのだろう。わわっ、とフォルスが視線を彷徨わせ、イリクは神への祈りを呟く。

ソウヤはジンを見やる。

「これ、もつのか?」

「ドラゴン組が頑張ってくれているからな。だが、海面までもつかは微妙だ」

「マジか! 魚雷は効かなかったみたいだし、打つ手なしか?」

「さあ、さっきのは当たり所が悪かっただけかもしれない。何せ、あちらさんはとてつもなくデカいから……と、これはマズイ!」

「何だ!?」

「渦だ!」

ジンが操縦桿を強く握り込んだ。

「触手で捕まえられないから、渦を起こして引き込むつもりなんだろう」

ガタガタと潜水艇の揺れが大きくなった。窓から見た感じ、進んでいないように見える。むしろ――

「引っ張られてるってか!?」

「すでに力負けしている! なら、一発お見舞いしてやるしかない」

ジンは後ろの席に振り返った。

「イリク、ソフィア。魔力板に魔力を――」

「さっきからやっております!」

イリクが返した。

「何か、もっとうまいやり方がありますか?」

「手を置いて、魔力を注ぎ込むイメージで補強を。――ソウヤ、潜水艇を反転させる! そのタイミングで渦の中心に魚雷を発射だ」

渦へと頭を向けるから、そのど真ん中を撃て、ということらしい。

「簡単に言ってくれる……! だが、任された!」

「ジン殿!」

イリクの声に、老魔術師は頷いた。

「上出来だ。魚雷に魔力を装填完了。ソウヤ、船首を回す。スタンバイ……」

オーシャン・サファイア号が右へと船首を向けた。魔力補正視界によって海面のほうが微妙に明るかったのだが、窓からの景色が海底方面――そこにうずまく巨大なタコの化け物に変わった。

「でけぇ……! なんて不気味なやつだ」

タコはデビルフィッシュなんて呼ばれているらしいが、それにも納得の醜悪さだ。ソウヤは背筋が凍る思いだった。

魔力を帯びているせいか、形成されつつある渦が目視できて、さらに恐怖を煽る。

「後進一杯!」

ジンは操作して、推進用のスクリュープロペラを逆回転させた。すると船というのは後ろへと進む。

だがクラーケンの渦が力で勝っているのか、相変わらず引き込まれている。

「じっくり狙っている余裕はないぞ」

ジンは言った。渦の中心へ、潜水艇は一段とスピードが上がっていく。

「渦の壁に巻き込まれたら、操縦不能だ! 狙いをつけることもできなくなる!」

「ド真ん中に撃てばいいんだろ?」

ソウヤは照準モニターの十字線を、渦の中心、クラーケンの口とおぼしきカ所に合わせた。

「いっけぇーっ!!」

魚雷を発射。引き込まれる力も重なっているせいか、魚雷はスピードを上げる。

「ちなみに、今のが最後の魚雷だ」

「へ?」

ジンの呟きに、思わずソウヤが振り向いた時、光が瞬いた。

ゴウッと遠くから音が伝わり、衝撃波が前方からオーシャン・サファイア号にぶつかった。

「おおっ!?」

潜水艇が弾き飛ばされた。ぐるぐると小舟のように揺さぶられ、操縦どころではなくなる。

――ジェットコースターなんてめじゃねえ!

これは死ぬか? 一瞬、ソウヤの脳裏によぎる。無力に振り回された後、少しずつ動揺が収まってきた。あれだけ騒がしかったのが嘘のように静寂に包まれる。

「生きてる……?」

ソフィアの声。見れば、イリクが投げ出されかけていた席に戻る。

「ジン殿、ソウヤ殿、どうなりましたか?」

「おそらく――」

ジンが、索敵装置を軽く叩きながら言った。

「クラーケンを倒したようだ」

「本当か!?」

アクアドラゴンが聞き返した。

「本当に、クラーケンを倒したのか?」

「ああ。……反応なし。今度は効いたようだ」

やった――ソウヤは安堵し、とっさに拳を突き出せば、ジンがグータッチで応えた。

ホッとした空気が操縦席を包んだ。