軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第323話、意外と魔法寄りの潜水艇

「お外、まっくらー」

フォルスが正面の海を見る。潜行し始めた頃は、太陽の光が届いて明るかったのだが、すっかり夜のように暗くなっている。

照明はつけたが、外はそれでも暗い。

「このガラス、大丈夫だろうな?」

ソウヤが言えば、後ろの席のイリクが口を開いた。

「大丈夫、とは?」

「海の中は潜れば潜るほど水圧が掛かってくるんですよ」

その圧力は絶えず船体にのし掛かっている。深度が深くなれば、その力も大きくなる。

「そうなると……どうなるんです?」

「圧壊。潰れて壊れます。当然、そうなったら乗っているオレたちも全滅でしょうね」

ごくり、とイリクが喉を鳴らした。フォルスは不安そうにキョロキョロしている。

ジンは言った。

「深海まで潜ろうと思ったら、船体の強度も不可欠。貧弱な材質では深くは潜れない。この窓が大丈夫かという質問について答えれば、問題ない。表面に水スライムの皮膜も使っているから、水の中でいえば下手な材質より頑丈だよ」

物理的攻撃に対して強いと定評のあるスライム、その素材がどれほどのものか、ソウヤは知らないが、潜水艇の製作者がそう言うのだからそうなのだろう。

「船体の強度についても、水属性の魔法金属を使用している。深海の水圧にもある程度は耐えられる」

「ある程度?」

ソフィアが不安げな声を出した。老魔術師は肩をすくめる。

「どこまで潜るかによる。限界深度を超えれば、いくら頑丈に作った潜水艇でも潰れるさ」

「海の中がそこまで恐ろしい環境とは……」

イリクが唸るように首をひねった。

「危険なのは海の魔物ばかりではなかったか」

「潜水艇を作るなら、水圧にも耐える強度が必要だ」

ジンは、視線を正面に戻す。

「同時に、きちんと密閉して、水が漏れてこないように作らなくてはいけない」

「気密性がないとヤバイ」

ソウヤの表情は引きつった。ジンも頷いた。

「ああ、それがないと、潜水艇の中で溺れてしまう」

水漏れで沈没、中が水没などゾッとする。海の中の潜水艇など、密閉空間に他ならない。

「……気密性で思い出したけど爺さん。これ空気ってどうなってるの?」

外から空気を取り入れるのは、潜っている間は不可能なはずである。となると、船内の酸素は減り続けて、なくなってしまえば待っているのは乗組員の死。

「魔力式の酸素変換装置を載せているから、心配ない」

ジンは平然と答えた。

「魔力式か。……それって、元の世界にはない装置だろうけど、そっちの潜水艦の空気ってどうなってたんだ?」

「原子力潜水艦なら水を電気分解すれば酸素を取り出せる。それ以外なら、浮上中に酸素を貯めておく、浅い深度ならシュノーケルで取り入れるという方法があるな」

答えとしては、酸欠になる前に浮上しろ、が正解である。

「それにしても、本当に外が見えないな」

ソウヤは正面、窓から外を睨む。

「夜ってわけじゃないだろうに……。不気味だぜ」

「少し明るくしてみよう」

ジンが手元の装置を操作した。すると窓の外がうっすらと明るくなった。

「はぁわ……」

フォルスが感嘆の声を上げた。ソフィアも前のシートから乗り出して、窓を見る。

「明るくなったわ。……これも魔法ですか、師匠」

「照明を海中の魔力に反応させるよう調整した。昼間のように、とはいかないが、これでかなり明るくなったはずだ」

「そんなこともできるのですか……。このような術があるとは」

イリクは感心した。ソウヤは首をかしげた。

「潜水艦とか、周りが見えないから音を頼りに進むって聞いたことがあるけど、これなら、目でも見えるな」

「軍用の潜水艦は窓がないからね。真っ暗な深海では、目視できる距離なんてあってないようなものだから、音で位置や地形を探るんだ」

答えたジンは、振り返った。

「クラウドドラゴン、アクアドラゴンの位置は掴めないかね?」

「水天の宝玉からは、何の反応もない」

先ほどから沈黙していたクラウドドラゴンが答えた。

「ただ、この下から、かすかに気配を感じる」

「つまり、アクアドラゴンがいるのは間違いないか」

ソウヤは頷いた。しかし、クラウドドラゴンは眉をひそめる。

「返事がないのが気になるけれど」

「ドラゴンはテリトリーにうるさい」

ジンはモニターを操作する。

「アクアドラゴンが近くにいて、こちらにアプローチをかけてこないというのは妙だ」

「弱ってる?」

「魔族が何か仕掛けたとか?」

ソフィア、イリクが言った。

「どうなんだ、クラウドドラゴン?」

「何かあったのかもね。ここまでワタシが近づいて、呼びかけているのに返事しないのも普通では考えにくい」

「実際に確認するしかないか。クラウドドラゴン、誘導してくれ」

ジンはさらに潜水艇を潜らせる。

「大丈夫でしょうか? アクアドラゴンに襲われるということは……」

イリクが危惧する。クラウドドラゴンは平然とした調子で言った。

「それは、アクアドラゴンの機嫌次第ね」

「爺さん、この潜水艇には、海のモンスターに襲われた時の対策はあるのかい?」

「魔法障壁。それと魚雷のような武器を搭載している」

「魚雷の、ような……?」

爆発物の積んだ弾頭、エンジンにスクリューを組み合わせた水中を航行する武器、それが魚雷だ。

主に潜水艦が水上船を攻撃したり、逆に水上船が潜水艦を攻撃するために使われる……というのが、召喚される前の世界での知識である。

「魚雷じゃない?」

「まあ、例によって魔法の一種だよ」

ジンは操縦桿を操り、潜水艇の向きを変える。視界を明るくしてから、比較的近くに、孤島から海底へと伸びる岩壁が見えていて、それが潜水艇の近くに接近しつつあったので、距離をとるようだ。

「他には、音響爆弾を積んでいる。海の魔物をびっくりさせることはできるだろうが……」

老魔術師は、そこで顔をしかめた。

「ただ怒らせるだけかもしれない……。使いどころは難しいし、ドラゴン相手には頼りないな」

その言葉に、イリクが瞑目した。

「アクアドラゴンの機嫌がいいことを祈ります」

「同感」

ソウヤも同意した。