軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第322話、オーシャン・サファイア

潜水艇に乗り込み、その操縦室へ。正面は透明なガラスのようなもので覆われていて視界が確保されている。まだ海面なので波があって、それに合わせて潜水艇も揺れている。

座席は六つあり、操縦席にはジンが座った。

「色々装置はあるが、君たちは座っているだけでいい。近くの計器やらが警告音でも発したら教えてくれ」

「装置とかあるけど、オレたちは何もしなくていいのかい?」

ソウヤは、ジンの隣の席に座った。最前列である。席は並列が三セットになっていて、前の席にソウヤとジン。中列にフォルスとクラウドドラゴン。一番後ろに、イリクとソフィアが座った。

「問題ない。この潜水艇は、ひとりでも動かせるように出来ている。それぞれの席に魔力を流し込む端末があるが、そこに手を置いてくれるだけでいいかな」

老魔術師の言葉にソウヤは頷くと、後ろの席を見る。

フォルスはソウヤの後ろにいて、シートの上でソワソワしている。目を輝かせている様は、まさに子供そのもので見ていて微笑ましい。

クラウドドラゴンはいつもの無表情だが、辺りの計器やら装置をみてキョロキョロしているあたり好奇心が疼いているように見えた。

そして好奇心といえば、イリクも同じで、装置に触れたい衝動を何とか抑えていた。手を出したり、引っ込めたりしているイリク。隣のソフィアのほうがむしろ落ち着いているように見える。

――いや、あれはただ緊張しているだけか。

「それでは、海底への旅と行こう」

ジンが皆にひと声をかけると、手元のパネルに触れた。すると、潜水艇はゆっくりと沈み始めた。

正面の視界が海の中となり、フォルスが「わぁあ」と声を弾ませた。

ソウヤは、ずいぶんと静かだと思った。

「メインタンクブロー、とか、バラスト何とか、とか言わないのか?」

「これから潜行しようとしているのに、浮上してどうする?」

ジンは操縦桿を手に小さく笑った。

「浮上って意味なのか?」

「メインタンクブロー、とは、そういうことだ。……まあ、少し潜水艦の話をしようか」

老魔術師は言った。

「水の中を潜る乗り物。それすなわち潜水艦ないし潜水艇だ。この潜水艇にしろ、潜水艦にしろ、基本的には浮くようにできている」

「沈むのにか?」

「沈むのは重くすれば、何もしなくても沈めるが、浮く力、つまり浮力がなくては、浮かべない」

後ろで、フォルスとイリクが聞いている。老魔術師は正面を見たまま続けた。

「基本、浮くように出来ているから、そのままでは沈まない。ではどうするか? ソウヤ君?」

「重くすれば、沈むんだろ。海水を取り込む」

「そう。それで浮力よりも重さが勝てば、沈んでいくわけだ。ちなみに、水を取り込むはいいが、ちゃんと排出できないと、やっぱり浮かんでこられない」

タンクに水を抱えて重くしたはいいが、それを外に出せないと軽くならず、結果、沈没という結果になる。

「もっとも、船内のタンクに水を入れる方法以外にも沈む方法はある。さっきも言ったが、重くすればいいわけで、バラスト、つまり重りを積めばいい。この方法なら、注排水装置がなくても潜れるし、使い捨てのバラストなら切り離せば、船は勝手に浮上する」

「何故なら、船は浮かぶようにできているから、ですな」

イリクが顎に手を当てて頷いた。

「なるほど、その方式なら、潜水艇とやらを作ることができそうですな」

「使い捨てバラストは、一度外したら、新しいものを取り付けない限り沈めない。だから一回浮上したら使えないがね」

一度きりの潜行と浮上。元の世界の深海探査船などでも使われている。目的海域までは別の船に運んでもらい、現地についたらそこから潜る。使い捨てバラストを捨てて浮上したら、来た時と同じく船に回収されて帰る。

俗にいう潜水艦として脳裏に浮かぶのは、軍隊で使用されている注排水装置でタンクに水を出し入れすることで潜るタイプだろう。何度も浮上したり潜ったりする用途で使われる場合は、使い捨てバラストは効率が悪い。

「このオーシャン・サファイア号は、どちらなのですかな?」

イリクが聞いた。いわゆるタンクを用いた潜行か、使い捨てバラストタイプか。

「どちらでもない」

ジンは答えた。

「繰り返すが、要は船体の重量を浮力より大きくすれば潜れるわけだ。だから魔力操作式、というべき方法を採用している」

「魔力操作式……ですと?」

「それはどういう仕組みなんだ?」

ソウヤもわからないから問うた。

「この潜水艇には、重りが積んであるんだが、これに魔力を流しこんで重量を操作する。浮上したい時は、重量を軽減。潜行したい時は逆に重くする」

ジンは微笑した。

「この方法のいいところは、複雑な注排水装置を作らなくてもいいところと、機構がシンプルな分、故障しにくいところだ。欠点は、魔力が必要だから魔術師相当の人間が必要なことくらいか」

「素晴らしい!」

イリクが顔をほころばせた。

「魔術師さえいれば、海に潜れる船が作れるとは……!」

「初期の潜水艇では、人力でスクリュープロペラを回していたという話だから、そうおかしな話でもない」

「マジかよ、爺さん。人力って、自転車でもこいだのか?」

ソウヤは苦笑するが、ジンは真面目な顔で言った。

「ボートやカヌーをオールで漕ぐだろう? あんな感じで複数人で回したらしい」

「ひぇー。大変そう」

「ねえねえ、すくりゅーぷろぺらってなぁに?」

フォルスが聞いてきた。

「推進装置だ。空を飛ぶ飛空艇の後ろに、クルクル回る部分があるだろう? あれだよ」

ジンが答えたあと、イリクが驚いた。

「なんと、飛空艇と同じ部品が使われているのですか!?」

「まったく同じではないが、プロペラを回転させることで水をかき回して、前へと進んでいるんだ。さっきは浮上と潜行の話だったが、それとは別にこの潜水艇を前に進ませるのに使われている」

そう、先ほどまでの話は浮き沈みであって、推進力についてはまた別の話となるのだ。

「もっとも、この潜水艇に乗せているエンジンは、魔力式で、これまたさほど複雑なものではない。魔力を注げばスクリュープロペラが回転するようになっている。言ってみれば、回転する魔道具を使っていると思えばいい」

「なるほど……」

感心しきりのイリク。ソウヤは苦笑した。

「それでやたらと人選に魔力持ちを選んだのか」

「魔法がある世界なんだから、それを利用しない手はない」

老魔術師は鼻歌を歌うように言った。

「実際のところ、出せる馬力には限界があるが、簡単なものでいいなら魔法でやったほうが楽だよ」

潜水艇オーシャン・サファイア号は、さらに海深くへ潜っていく。