軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第289話、浮遊島、移動

「島が移動なんて、ナンセンスだわ」

そう言ったのは、ソフィアだった。リアハは「そうですね」と同意した。

「普通なら動かないものですから、あり得ないって笑われてしまいます」

「一般じゃそうなんだろうけどな」

ソウヤは口を開いた。

「島とか大陸ってのは、一年に数センチくらい動いているって話だぞ。数十万、数百万のサイクルで見ると、元は繋がっていたとか、逆に離れていたのにくっつくなんてことがあるらしい」

「うっそだー」

ソフィアは冗談と思ったようだった。リアハは真面目にソウヤを見た。

「そうなのですか?」

「オレのいた世界じゃ、そう言われていた。巨大なひとつの大陸が分離して、複数の大陸になったってな」

異世界召喚された勇者である。銀の翼商会の面々はそれを承知しているので、異世界の話と言っても一笑に付すことはなかった。

ここはクレイマンの城、その展望台だ。浮遊島自体は、制御室とやらに行ったジンと機械人形たちによって、すでに移動を開始していた。

ゴールデンウィング二世号にいた面々も、すでにこちらに移動してきていて、浮遊島という滅多に見ることがない場所を堪能していた。

「他の皆は何やってるの?」

ソフィアがキョロキョロとする。セイジかガルを探しているのだろうか。リアハは答えた。

「オダシューさんたちは、近くを見て回ってますよ」

カリュプスメンバーは近場の探検をしている。

「影竜と子供たちを見ましたね。ね、ソウヤさん?」

「ああ、散歩するんだってさ」

「ライヤーさん、ダルさん、セイジ君は、機械やら遺産やらの調査をしています」

「ふーん。ま、珍しいんだろうけどさ」

ソフィアは広がる青い空を眺める。ソウヤは言った。

「これからクラウドドラゴンのもとへ向かうんだ。場合によっちゃあ、一戦交えるかもしれない。そうなると、島の建物や景観が破壊されるかもしれない。だから無事なうちに見ておこうということなんだろう」

変に緊張するよりは、肩の力が抜けていいのではないか――ソウヤは思った。

問題になるとすれば、やはり嵐と、クラウドドラゴンだろう。戦うことなく、交渉でケリがつくのが一番いい。

古竜でもある伝説級の存在だ。かなりの年配らしいが、腐ってもドラゴン。戦闘となればその力は絶大だろう。

――オレは死ぬつもりはねえけど、対応ひとつで仲間の命も危ないかもしれねえんだよなぁ。

ここ最近は、幸いなことに誰も死んでいない。だがそれがこのまま続く保証はない。

ソウヤは展望台から見える景色を眺める。自然と手が汗ばむ。緊張しているのだ。こんな緊張は、魔王城に乗り込んで以来か。

これまでだって神経が高ぶり、命を張るような状況もあったが、ここまでの不安は久しぶりだった。

――オレもずいぶんと弱くなったもんだ。

自嘲したくなったその時、ソウヤの腕をリアハがつかんだ。

「わかりますか……?」

神妙な調子のリアハである。

「私、震えています」

「……」

いつの間にか、ソフィアがいなくなっていた。考え事に没頭し過ぎて気づかなかった。

「これからクラウドドラゴンと戦わなくていけないかもしれないって思うと……」

手の震えが止まらないらしい。

「以前、アースドラゴンの島に行った時、私は船で待っているだけでした。レーラ姉さんもそばにいたし、何かあっても何とかなるんじゃないかって……甘えてました」

リアハがソウヤの肩に額を押しつけた。

「でも、今回は……何とかなる、じゃなくて、何とかするほうに回らないといけない」

「怖い?」

言ってみて、ずいぶんと間抜けな問いだとソウヤは思った。怖いから震えているのに。

「私は、民のため国のため、守らなければいけないもののために戦えるよう努力してきました。魔族と戦うことも、怖くはあってもそれをねじ伏せることはできました。……おかしいですよね、それでドラゴンを前にしたら、震えが止まらないなんて……」

「別におかしくないさ」

ソウヤはリアハの頭を撫でた。

「君は姫で、オレは勇者。皆の前じゃ、いいカッコしないといけない。でもオレだって怖いものは怖い」

「ソウヤさんが……?」

「当たり前のことなんだけどな。オレもさっきまでクラウドドラゴンと戦闘になったら、って考えてた。誰かが死んだらって思って、な」

ソウヤは恥ずかしくなって笑った。励ますつもりで言ったが、こういうのは得意ではない。

「オレのことはいいけど、仲間が傷つくのは嫌だからな。これまで何人、それで助けられなかったか……」

とりあえず、アイテムボックスに収容して命をつないで、後で復活させる――それで助かった場合もあれば、間に合わなかった時もあった。

そして失われた命は、当然、戻ることはない。

「よくないです」

ボソリと、リアハは言った。

「ソウヤさんに何かあったら困ります!」

「あ、そうだな。オレがいないとアイテムボックスの中のもの出せなくなるし、レーラも――」

「そうじゃなくて!」

リアハが声を張り上げた。戦う時以外に大声を出す、という感覚が彼女になくて、ソウヤはびっくりした。そしてそれは彼女も同じだったようで。

「ごめんなさい。大声を出すつもりはなかったんです。本当、ごめんなさい……」

「いや……」

「自分のことを大事にしてください。大切な人が命を落としたなんて話、二度と聞きたくないですから」

十年前の魔王討伐の戦い。世間では勇者は死んだことになっていて、リアハの姉、聖女レーラもまた消息不明となった。残された者たち、当時、何も知らない、知らされなかったリアハにとって、それはどれだけ辛かっただろうか。

「そうだな。悪い」

ソウヤは視線を水平線へと向けた。

「オレは死ぬつもりはねえし、仲間だって死なせねえ。約束だ」

水平線にどす黒い巨大なる雲。そして嵐――見えてきた。大精霊のいる島。

そして嵐の中には、クラウドドラゴンがいる。