軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第290話、嵐の中へ突入

浮遊島は、これまで見たことがないほどの黒雲が空を覆っている島へと接近した。

その高度はかなり低く、海上からでも巨大な浮遊島をつぶさに見ることができるだろう。

ソウヤは、浮遊島の制御室にいた。無数のコンピューターじみた端末やモニターがあり、かつてクレイマンを名乗っていたジンが、その司令官席で言った。

「さあ、いよいよ嵐の中に突入だ」

ジンはメイド姿の機械人形たちに指示を出す。彼女たちはそれに従い、浮遊島を目的地へと移動させた。

ライヤー、そしてダルが、興味深げにメイドたちと機械の操作を見守る。ミスト、ソフィア、リアハは緊張の面持ちで、モニターを見つめている。

ソウヤは聞いた。

「嵐のどこに突入するんだ?」

「真っ直ぐこのままだ」

ジンは端末を操作して、モニターのひとつを切り替えた。嵐の状況を上空から観測した映像だ。

「中央に台風の目のような場所があるだろう? あれが中心だ。クラウドドラゴンもあそこにいるはずだ」

「いつ見ても不気味だぜ」

巨大なる渦を巻く雲。大自然の驚異。人間の手に余る気象を操るドラゴン。否が応にも緊張が高まる。

――まったく、魔王城に乗り込む直前みたいだ。

「間もなく、先端部が風の壁に接触します」

緑髪のメイド――ヴェルデが報告した。

真っ黒な壁のように見える嵐。その境界が見えるというのは、気味の悪さを加速させる。はたしてこの島は大丈夫か。

「……」

「…………」

沈黙。浮遊島の先端が嵐に突入するのを、皆が固唾を呑む。だが――

「……なあ、入ったんだよな?」

ライヤーは首をかしげた。答えたのはヴェルデだった。

「浮遊島は、暴風圏内に入っています。島内もその影響圏が広がりつつあります」

「針路異常なし」

黄髪のメイド、アマレロが口を開いた。

「地表の構造物に影響が出つつあります。しかし航行に支障はありません」

「まあ、しょせん島を押しとどめるほどの風ではないということだ」

ジンは顎髭を撫でた。

「暴風で建物が吹き飛んだという話はあっても、島が吹き飛ぶなんて聞いたことはないからな」

「そりゃそうだ」

ソウヤは苦笑する。

「このまま島の中央へ行けそうかな」

「先端部だけなら、もう数分と掛からず、嵐の目に到達するだろう」

このクレイマン浮遊島もかなりの大きさだ。すでに大精霊のいる島の三分の一程度に、被さるような格好だ。

と、外部を映していたモニターのいくつかが光を捉えた。まばゆいばかりの閃光。

「これは……!」

「雷!」

ソフィアが叫んだ。

嵐の中、無数の紫電が走り、それが浮遊島に落ちた。岩が砕け、土が跳ねる。遠くで雷の音が連続して、リアハが思わず身震いした。

「ここでこれでは、上だと凄まじいことになってるでしょうね」

「耳がやられるかもね」

ミストが言えば、ソフィアも寒気がしたように震えた。ダルは天井を見上げ、落ちているだろう雷を想像する。

「やはり、これもクラウドドラゴンの仕業でしょうか?」

「でしょうね」

ミストは口元を歪めた。

「雷は、あれの十八番よ」

「城に雷が直撃。西壁が破損、火災発生!」

アマレロが報告した。しかし、ジンは揺るがない。

「構わない。あんなのは飾りだ」

「気象に変化あり」

ヴェルデが計測機器を注視しながら言った。

「嵐、急激に弱まる」

「地形が変わった影響だろう」

雨や風は、その地形に少なからず影響する。大気状態が変化したことで、風向きや嵐を構成するドラゴンの魔力の向き、力加減が変わったのだ。

「いや、あるいはクラウドドラゴンが、嵐を解除したのかもしれないな」

「どうしてですか?」

リアハは目を見開いた。

「こちらを阻もうとするなら、むしろもっと強く――」

「無駄だと察したんでしょうよ」

ミストが腕を組んだまま、意地の悪い顔になった。

「いかにドラゴンといえど、地表は吹き飛ばせても、島は破壊できないわ」

そう言うとドラゴン娘は、制御室の出口へと歩き出した。

「さ、外に出ましょう。クラウドドラゴンと対面しないとね」

「おう」

ソウヤも続いた。いよいよクラウドドラゴンと接触だ。戦闘は避けたいが、向こうは侵入してきた島に雷を打ち込んできたりと、かなりのやる気かもしれない。

・ ・ ・

地表に出た。改めて、嵐の凄まじさを目の当たりにする。

立っていた木は折れ曲がり、落ち葉が至る所に散らばっていた。落ちた雷で黒ずんだ壁。クレイマンの城にも雷が直撃した跡が見てとれる。

「廃墟度、二割増し」

「悲しいことを言ってくれるな」

ジンが拗ねたように言うので、ソウヤは皮肉げに唇を歪めた。

「あんなのは飾りじゃなかったのかい?」

「それはそれ、これはこれだ」

老魔術師は目を細める。

「よく晴れてるな」

「嵐が過ぎ去った後ってのは、こうも清々しいものなんだな」

しかしソウヤは笑みを引っ込める。背中でチリチリした気配を感じる。

隠しても隠しきれないプレッシャーのようなもの。

――いるな、クラウドドラゴン。

「ミスト」

呼びかけると、彼女はすでに竜爪槍を出して構えていた。交渉の前からすでに臨戦態勢である。嫌な予感しかしない。

「ふうん、人間と、ドラゴンねぇ……」

背後から、聞いたことがない女の声が聞こえた。綺麗な声だった。同時に、どこか気だるさを感じさせた。