軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第283話、主の帰還

ジンが現れた。

当然、ゴールデンウィング二世号にいるはずの老魔術師の登場に、ソウヤは驚いた。

それに何と言ったか? アマレロ、ヴェルデ? 聞いたことがない名前のようなものが聞こえたが。

「双方、武器を下ろせ。戦いは無用だ」

ジンはゆったりと歩み寄る。

「ふたりは私の友人だ」

「友人……?」

そう聞いては、さすがに戦闘を続けるわけにもいかない。

黄髪メイドと緑髪メイドが、その場に膝をついた。

「「お帰りなさいませ、ご主人様」」

「やあ、アマレロ、ヴェルデ。ふたりも元気そうで何よりだ。よく、ここを守ってくれた」

「もったいなきお言葉」

「またこうしてお戻りいただけて、我々も大変うれしく思います」

――君ら、機械だよね、一応。

まるで人間そのものの言動をとる二体のメイドに、ソウヤは呆気にとられる。ミストが槍を収め、口を開いた。

「ジン、説明してもらっていいかしら? 何故、あなたがここに?」

「そっちへ行く、とソウヤの転送ボックスに送ったんだがね」

ジンはそう言うと、ソウヤたちの前を通り過ぎ、メイドたちの間に立った。

「とりあえず、挨拶しておこう。私はしがない放浪者であり、この世界では、かつて『クレイマン』と名乗ったことがある」

「クレイマン、だと……!?」

この浮遊島の主。かつて栄えた天空人の国の王、クレイマン――

「何の冗談だ、爺さん」

いやいや、まさか、とソウヤは首を横に振る。

「あんたがいくら人生の大先輩だとしても、クレイマンってのは、かつての文明が遺跡になっているほど大昔の人物だぞ?」

「そう、私がかつていたのは今より何千年も前だ。……そうだな、アマレロ?」

「5505年ほど前です、ご主人様」

黄髪メイドがうやうやしく答えた。ジンは顎髭を撫でる。

「百年ほど異世界をさまよっていたが、こちらでは5500年ほども経っていたのか。気分は浦島太郎だな」

情報量が多すぎて、ちょっと処理が追いつかなかった。百年ほど異世界、と?

「ええっ、と爺さん。もう少しわかるように説明してくれるか?」

「ああ、いいとも。よければ、歩きながら話そう。懐かしき我が家を案内しよう。アマレロ、ヴェルデ。客人にお茶の用意を。あと、他にも数人きている友人たちを丁重にお迎えしてくれ」

「「かしこまりました、ご主人様」」

「では、行こうか。クレイマンだった頃の話をする前に、私のことも話しておかないといけない――」

老魔術師は奥への通路へと誘った。

・ ・ ・

ジンは日本人だ。ある日、とある異世界に召喚された。剣と魔法のロマン漂う世界で、魔術師となり相棒と共に、英雄へと上り詰めた。

「英雄なんて言われると、これがまたモテてね。さまざまな女性とお付き合いをしたものさ」

「あー、それはわかるわ」

ソウヤは、勇者時代、旅先でよく女性に声をかけられた。勇者とお近づきになりたいという人間は多かった。

「ただ、運悪く、私は不老不死の呪いを受けてしまった」

「不老、不死……!」

老いることもなく、死ぬこともない。権力者や力を求める者が、喉から手が出るほど欲しがる能力だ。

だが、それをジンは『呪い』と称した。

「恋もしたし、最愛の妻も得た。子供もいた。多くの友を得た。だが、私は死なず、老いもしない。そして私の愛した者たちは、私を置いて旅立ってしまう……」

ジンは穏やかに笑った。

「どれだけ老いたように顔や姿を変えても、周りの者たちの寿命は限られている。自分の子供が老いて、自分より先に天に召されるのを見るというのはどういうものか、君たちに想像できるかな?」

「……」

押し黙るソウヤ。子が親より先に死ぬ――生き物として、それは自然なこととは言えない。

「人間の寿命は短い」

そう言ったのはミストだった。ジンは頷く。

「まさに。人間しかいない世界だったなら、私は絶望し世捨て人になるか、あるいは気が狂ったかもしれない」

「だが、あんたは、まともに見える」

「考え方の違いだな。幸いにして、不老不死ではないが、極めて長寿の友人を得たことが、私をひとりにはしなかった」

ジンは懐かしむように目を細めた。

「長寿の種族、エルフやドラゴンと友になり、共に過ごすことで、人生に対して広い考え方を持つことができたのだ。言ってみれば長生きの秘訣だな。人間のわずか100年に満たない人生に囚われていたら、こうはならなかっただろう」

数百年、あるいは四桁を生きることもあるエルフとの付き合いは、大いに助けになったと、ジンは言った。

「具体的には?」

「先立つ者を見送ることができるようになった」

それは死ではなく、違う世界に旅立つのだ、と、ジンは言った。二度と会うことはできないが、友は違う世界でこれからも暮らすのだと。

「私は魔法を突き詰めて、世界を飛び越える跳躍魔法を習得した」

――何気にとんでもないことを言っているぞ、この人……。

内心、どう反応していいか困るソウヤだが、ジンは構わず言った。

「放浪者としての旅の始まりだな。それから私は、色々な異世界を巡ったよ。風の向くまま、跳躍のおもむくまま」

どこに出るかわからないから面白い、と老魔術師は言った。

「行きたい世界を選べたりは?」

「一度行った世界ならば、ちょっと試行錯誤が必要だが、行けなくはない。だが大抵は、どこに出るかまったくわからない。知らない世界に行くのだから、それで構わないからね」

「ひょっとして、日本にも?」

「いや、行っていない」

ジンは言った。

「異世界に飽きたら戻ってみよう、と思うことがあるかもしれない。そういう気分になるまでは、戻るつもりはない」

「ひとつ、聞いてもいいかしら?」

「なんだね、ミスト嬢」

ジンが促すと、ミストは腕を組んだ。

「不老不死で、あなたは老いることはない。そしてさっき、老いたように顔や姿を変えても、って言っていたけれど……ひょっとして素顔はもっと若い?」

「あぁ、この姿か」

老魔術師は顎髭をいじった。

「いかにも。姿だけでなく、老人のそれになるよう魔力で覆っている。派手に能力を使い過ぎたり、老人に不釣り合いな動きを連続ですると、限界がきて、魔力の外装が解けてしまうがね」

君たちの前でも一度、老人肉体の外装が限界で解けそうになったことがある、と彼は笑った。