作品タイトル不明
第284話、放浪者とクレイマン
「――話を戻そう。異世界を跳躍することで私は放浪者となった。新しい世界を見て、触れて、たくさんの友を作ったし、同じくらい別れも経験した」
ジンはそう言った。
「一期一会。旅先で会う人とは一度しか機会がないと思えば、そう悲しいと思うことはなかった。そんなある時、私はこの世界にやってきた」
風任せの気ままな旅だった。
「新しい世界に着くと、私は自分の名前を決めるんだ。ジンというのは変わらないが、ファミリーネームを考える」
「名字を?」
ソウヤは首を傾げる。
「違う世界でも、異世界から来たなんて誰も知らないんだから、別に変えなくてもいいんじゃないか?」
「まあ、そうなんだがね。複数の世界を跳躍するとなると、その世界が『何番目』にきた世界かわかりにくくなると思わないか?」
「?」
「たとえば、違う世界と思っても、私を知っている人間に会えた時、名字を世界ごとに変えれば、以前来たことがある世界だとわかるだろう」
同じ名前だったら、どこの世界の誰々、と思い出す必要があるが、名前が違えば、その名前と世界を関連づけて思い出しやすくなるというわけだ。
「ちなみに、この世界は以前にきたことがあってね。クレイマンの遺跡なんて、大層な名前がついていた。さらに言えば、ここは八番目にきた世界だとわかる」
「八番目……!?」
「『く』で始まる名前だからね。あいうえお順なんだよ。あいうえお、かきくけこ、で『く』は八番目だろう?」
「ああっ! なるほど!」
ソウヤは納得した。なるほど、名前で、その世界が何番目かもわかるようにしていたのか。
しかし、あいうえお順とか日本のそれだから、異世界のドラゴンであるミストにはさっぱりだった。
ジンは続ける。
「何せ数十年、数百年その世界で過ごすことがあるからね。ひとつの世界にいる期間が結構、長いんだよ」
「ちなみに、あなたは今、何歳なの?」
ミストが問えば、ジンは肩をすくめた。
「わからない。というより、寿命を超越してしまったから数える意味がなくなってしまった」
ごもっとも――ソウヤは苦笑した。
――そりゃ、年取らない人間に年齢を数える必要なんてないわな。顔や姿も変えられるっていうし。
「それで、クレイマン――王様と呼んだほうがいいか?」
「いまさらだね。ジンでも爺さんでもいいよ」
かつて王様だった老魔術師は、さらりとそう言った。
「――爺さんは、この世界にきて、王になった。天空人の国を作って、世界中の富を集めたっていう」
「別に集めたわけじゃない」
ジンは、違う違うと手を振った。
「ただ、あんまりにも世界が混沌としていたというか、悪逆非道な王がいたのでね。助けを求める人々のために戦っていたら、いつの間にか王様になっていた」
「……なんだそりゃ」
「浮遊島を拠点に、この世界の技術レベルを凌駕した武器を使っていたから、天空に住む人、天空人なんて言われて恐れられた」
「じゃあ、遺跡にあった金銀財宝は?」
「あれは集めたのではなく、作ったんだ。魔法だよ。地上の人々と交渉する際に、金があるのを見せると、割とごり押しが効くんだよ。その結果、想定以上に財を持っていると噂が広がったというわけだ」
ジンは悪戯っ子のように目を細めた。
「あれだよ、マルコ・ポーロが聞いた黄金の国ジパングの話みたいなもので、噂と実際は違うということだな」
「へぇ……」
――でも実際に、金銀財宝はあったぜ?
しかし、多数の飛空艇や機械人形などを保有していた部分を考えても、あながち間違ってはいないだろう。
「そういえば、この島にあるものは……あんたが作ったのか?」
振り返れば、銀の翼商会にいる時も、飛空艇の修理やゴーレムの製造、開発などをやっていた。
クレイマンがいた頃から5500年ほど経っているというが、この世界の技術レベルをぶっちぎるチート武器を使っていたというから、その頃から製作していたのだろうか。
「まあね。色々な世界を巡った経験を活かしたんだ」
ジンは認めた。
「物作りが趣味なのは認めるよ」
「そうか。……それで、その悪い奴はやっつけたのか?」
「もちろん」
老魔術師は笑ったが、そこでさみしげな顔になる。
「だが、少々目立ち過ぎたからね。戦時は英雄を求めても、平時には不要な存在だ。まだゆっくりこの世界を楽しみたかったが、世界が私を放っておかなくなった。私は、浮遊島を隠して、次の世界へ向かった」
かくて、消えたクレイマン王の莫大な遺産を求めて、人々は現代まで浮遊島だったり、遺跡を探した、と。
そして機械人形のメイドいわく、5500年ぶりにこの世界に戻ってきた。
「それにしても、あなたも意地が悪いわね」
ミストが嫌みな笑みを浮かべた。
「自分がクレイマンなのに、ワタシたちには黙っているなんて」
「昔の話だからね。わざわざ明かす意味がないし、明かしてどうなるというものでもない。とくに私の遺跡を探している状況ではね」
「見つけられたくなかった?」
「うーん、まあ、人によるかな」
ジンは考え深げになった。
「遺跡と言ったところで、使おうと思えば使えるわけで、それを世界を征服するとか、そういったものに使われたくはないというのは本音。仮にソウヤ、君がそういう類いの人間だったなら、露骨に場所を隠そうとしたし、ここからの探索も手を引かせただろうね」
「つまり、オレはあんたに一応信用されているわけだ」
皮肉るソウヤに、ジンは真面目な顔で言った。
「君たちの場合は、なるようになれ、と言ったところか。探しているのは知っていたが、まあ、見つかったら見つかった程度で私は済ませただろうね」
「ここのものを使って、世界征服とかはしないなぁ」
ソウヤは口元をゆるめた。
「世界征服って面倒そうだし」
「ああ、実に面倒だよ。色々な人間、種族、さまざまな問題と向き合うことになるからね。面倒だからと力で潰そうとすれば、たちまち暴君だ」
ジンは目を細める。
「力は人をまどわす」
「でもそれなら、隠さずに処分してしまえばよかったんじゃない?」
ミストがそう指摘した。確かに残さなければ、利用されることもない。
「自分の作ったものを壊す、というがもったいなかった、というのが第一。第二の理由として、非道なる存在が世界を滅ぼそうとした時に、対抗できる手段を残しておきたかったというのがある」
世の中、何が起こるかわからないから。