軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第217話、明日のための準備

敵の中枢の一点を叩く。魔族の防衛線をスルーして行うこの作戦は、総数で明らかに劣るソウヤたちの取れる作戦と言えた。

「電撃作戦ってやつか?」

「ソウヤ、それは適切ではない。敵地の急所に降下して攻撃というなら、空挺作戦だろう」

ミリタリーに少々詳しいらしいジンに、そう指摘された。

兵員を輸送する飛行機ないしヘリコプターで敵地に侵入。重要目標に、載せてきた兵員を降下させる――なるほど、ミストドラゴンとソウヤのアイテムボックスが、兵員を載せる輸送機ということか。

明日、明け方に結界を突破、一挙に王都中枢の王城へ飛んで襲撃をかける。呪いの発生源を叩き、城にいる魔族を掃討する。

それまでの間に、皆、準備にかかる。特にオダシューら元カリュプスメンバーの装備をどうにかしないといけない。

そう話したら、カリュプスのアジトに、予備の武器なども含めてある程度、装備を調達できるはず、と提案があったので、それらの回収に向かった。

また、ソウヤは転送ボックスを使い、エンネア王国にも知らせることにした。諜報員であるカマルに、グレースランド王国を襲った災厄、リアハ姫の保護と、聖女レーラの復活。グレースランド王国奪回作戦を行う旨を手紙に書いて転送した。

返事が来たが、『報告が遅い!』とお叱りの言葉が書かれていた。

『報告をありがとう』とお礼の言葉に続き、リアハ姫を保護した時点で知らせてくれていれば、こちらも支援の準備にかかれた、と書かれていた。

要約すると『急過ぎて、援軍も支援も間に合わない』ということだ。

これを見たカーシュは、『これはカマルが正しい』と言い、ジンも『親に参観日の話を前日にするようなものだ』と皮肉られた。……参観日前日は、お母さんに滅茶苦茶怒られるやつである。

「まあ、初めから、あてにしてなかったんだけどな」

そもそも、エンネア王国が隣国のグレースランド王国に兵を送るなんて、外交上の問題にならないだろうか? グレースランド側に無断で軍を送ったら、侵略と取られる可能性が高い。いわゆる軍事介入。

「だが、グレースランド王国の王が政治を行えない事態であるなら、その権限はリアハ姫に移る。やりようによっては、エンネア王国に貸しを作って、軍を送ってもらえたかもしれない。……とはいえ」

ジンは苦笑した。

「それでエンネア王国の王族が即救助を決断するという保証はないし、その場合、リアハ姫はエンネア王国と交渉する必要があっただろう。そんな時間はなかっただろうな」

「だろ?」

「だが、報告が遅れた理由にはならないと思うがね」

「くっ、報連相ってやつだな……」

ソウヤは歯がみした。目先のことに集中し過ぎて失念していた。ジンが慰める。

「完璧な人間なんていないよ。私はむしろ、味があっていいと思うね」

次は気をつけましょう。

「だが、おかげで、ひとつやらなきゃいけないことがわかったぞ。オレらはエンネア王国軍じゃないが、一応、リアハに国境越えと王都での戦闘のお伺いを立てておかないといけない」

入国審査が息をしていないが、不法入国の上で魔族相手にドンパチするつもりだから、王族でもあるリアハに、許可をもらっておいたほうが後々、文句を言われても免罪符となるだろう。

ソウヤはカーシュとジンと共に、リアハとレーラのもとを訪れた。アイテムボックスハウスに新規で作ったVIP用の屋敷に滞在中のお姫様と聖女様である。

「最高なのは、グレースランド王国から冒険者、白銀の翼に依頼してくれることだが……」

「わかりました。今回の件は、グレースランド王国からの依頼とさせていただきます」

リアハは快く認めてくれた。

そこでソウヤは疑問に思っていたことを口にした。

「王国奪回が、正式の軍ではなく、オレたちだけで行うことに不安はないのか?」

「ソウヤ様は、魔王を討伐されたお方。魔族相手ならば百戦錬磨」

リアハは淀みなく言った。

「姉さんから、『ソウヤ様がやれると言ったことは必ず果たされる』と聞いています。もちろん、私も王国奪回に全力を尽くす所存です」

妹の言葉に、レーラも頷いた。

「私も魔王との戦いを最後までお供できなかった分、働かせていただきます」

「……あー、あまり無理はしないように。リアハはお姫様なんだし、レーラも王国の人間にかけられた呪いを解く仕事があるんだからな」

「「はい!」」

二人は同時に答えた。妹が十年で姉に追いついたので、格好や髪型を除けば、双子みたいによく似ている。

僧侶の服装なのが姉。騎士の格好をしているのが妹だ。

髪の色は同じ。ストレートなのが姉。同じく伸ばしているが後ろで縛っているのが妹。

瞳の色が青いのが姉。緑なのが妹。

と、姉妹の見分けについては、ここまでにして、他の者たちを見に行くことにする。

・ ・ ・

「ソウヤ様」

待機所に行くと、オダシューが頭を下げた。カリュプスメンバーたちは、アジトから回収した装備をそれぞれ調整している。

「準備は順調か?」

「はい。戦いは明日ですが、組織を滅茶苦茶にした悪党にお返しができるとあれば、皆、意気軒昂であります」

見たところ、黒や紺の装備が多い。マントや革の軽鎧、補強された小手などの防具。ナイフやショートソードといった武器……。

丸っこいニェーボなどは、鉄のボールを指に挟んで、何やらイメージトレーニングをしている。小さいが鉄のボールが高速で当たれば、当たり所によっては人を殺せるだろう。投石だって立派な凶器になるのだから、鉄の塊となれば言わずもがな。

「ソウヤ様には、感謝してもしきれません」

オダシューが、ソウヤの隣に立った。

「行き場のないオレらを受け入れてくださったばかりか、衣食住まで……」

「うちで面倒を見ると言ったからな」

アイテムボックスハウスに、新たに屋敷をひとつ作った。アイテムボックスにちなんだ大きなボックスを部屋に見立て、とあるゲーム風にいえば豆腐のような形の建物ではあるが。

箱形であれば、普通に建物を作るより早く、手軽に作れるのがアイテムボックス・スキルである。細かなことを言えば、この屋敷もアイテムボックスの外箱の集合体に過ぎない。

「仇討ちの気持ちはわかるが、冷静さは失わないように頼む」

「もちろんです。我々暗殺者、戦場では決して感情に飲まれません」

オダシューは胸を張った。ソウヤは口元を笑みの形に歪めた。

「頼むぞ。誰ひとり死なずに、帰ってこい」

「……はいっ! オレらのような者に帰ってこいと言ってくれるのは、死んだボスとソウヤ様くらいです」

オダシューが言えば、何人かの元暗殺者が視線を向けて頷いた。

「それに、ここの料理は美味ですからな。ショーユダレで味付けした料理をまた食うためにも、死ねません」

「天国には、醤油はないだろうからな」

「地獄にもありませんぜ」

笑い声が待機所に響いた。決戦の時は迫っている。