軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第218話、やがて日は昇る

グレースランド王国王都ディスディナは、小山に築かれた町である。山に沿ってらせん状に道路が走り、建物が立ち並ぶ。

そして中心には、王城であるグロース・ディスディナ城が、これまた高層ビルのように高くそびえている。

平地近くの王都の門から、王城へと向かおうものなら、かなりの距離を歩かされることになる。またずっと傾斜を上り下りするので、住民たちの足腰は自然と鍛えられた。

そんなグレースランド王国王都だが、今や魔族の占領下にあった。

グロース・ディスディナ城では、魔法増幅器なる大型魔道具の力で、国中に結界と、魔獣化魔法を拡散していた。

「何とも退屈なものね」

魔王軍残党の魔術師、ブルハはその妖艶な容姿を玉座に預けていた。

息を呑む美女である。紫の長い髪、魅力的な曲線を描く体つきは、世の男を惹きつけてやまない。それもそのはず、彼女は誘惑の夢魔サキュバスのクィーンだった。

「人間どもは、いまだ結界に手も足も出ない……」

「油断は禁物ぞ、ブルハよ」

「カルドゥーン」

聞こえたしわがれ声に、ブルハは気怠げに返した。

骸骨が魔術師の格好をしているような老人――カルドゥーンは、魔王軍残党の幹部である。同軍の中では、ブルハと同格の四天王ポジションである。

「この国の騎士姫を国外へ取り逃がしておる。時期的にみて、早ければエンネア王国あたりが動いておるだろう」

「はん、エンネア王国の連中が何だというのかしら」

玉座に行儀悪く横に座り、伸びをする。彼女の豊かなバストが天に向く。

「こんな早く部隊を送ってこれるものですか」

「飛空艇があるぞ」

「結界を破ることができずに立ち往生でしょうよ」

ブルハは笑った。

「仮に数隻を集めたところで、その程度で、どうにかできて? この王都に配した兵を制圧できるものですか」

「勇者ソウヤが復活した、という噂もある」

カルドゥーンの言葉に、ブルハは扇子を取り出して、口元を隠す。

「あら、不死者の王ともあろうあなたが、人間ごときを恐れるのかしら?」

リッチキング――カルドゥーンはしかし平然と告げた。

「人間は魔王様を倒した。その事実は揺るがぬ」

「……」

サキュバスクィーン、リッチキング――それぞれ王の立場にある二人。しかしさらに上位の存在として君臨した魔王は、勇者によって倒された。

「前の魔王のことはいいわ……」

ブルハは天井に向けて手を伸ばす。ここにはない何かを掴もうとしているように。

「ワタシは、ドゥラーク様が新たな魔王となればいいと思っている……」

「……その魔王の息子は、亡き父殿を蘇えらせようとしているのだがな」

皮肉げに、カルドゥーンは肩をすくめた。

「我に言えば、蘇らせることもできたというのにな」

「それはダメよ、カルドゥーン」

ブルハは、冷気さえ感じさせる冷めた表情で、不死者の王を見つめた。

「アンタが蘇らせた『死体』は、アンタの言いなりでしょうが。魔王軍を自分のモノにするつもりかしら?」

「魔王の位に興味はない」

頭蓋骨の空洞の目には、当然ながら感情など読み取れない。

「好き勝手させてもらえる今の立場が、我には心地よい」

「悪趣味よね、アンタ」

「人を意のままに操り、貪る女に言われたくないな」

「アンタからは、何も絞りとれないわね。もっと肉をつけたほうがいいわよ?」

「生憎と、我は女は処女しか信用しない」

きっぱりとカルドゥーンは言った。

「かく言う我は童貞でな」

立ち去るカルドゥーンに、ブルハは言葉を投げつける。

「本当に、まともな体を作りなさいな。ワタシが優しくしてあげるから」

払うように手を振って、リッチキングは去る。

ブルハは再び、天井を見上げた。

「間もなく、グレースランドの魔獣化も終わる……」

人間同士を争わせることで、魔王軍残党の戦力を温存しつつ、人間勢力の力を弱らせる。それはわかる。わかるのだが――

「ドゥラーク様は、お父上を蘇らせる気があるのかしら……?」

たとえば、魔王を蘇らせるのに、圧倒的多数の魂が必要だとされている。あの世から、この世に、偉大なる魂を呼び寄せるには、それだけの対価がいるのだ。

「このグレースランドの人間を贄とすれば、それで蘇らせることができたのではないの……?」

順序が逆ではないか、と思わなくもない。まず魔王を復活させ、そこから人間どもを滅ぼす――

「蘇らせられない理由でもあるというの……?」

まさか、とも思う。

「ドゥラーク様にはドゥラーク様の考えがある」

そう呟いたところで、ブルハは玉座に座り直した。妖艶な美女は、しかし引き締まった冷静な顔を覗かせる。

「まあ、ドゥラーク様のしたいようにすればいいわ。……ワタシは、ただそれに従うだけ」

間もなく夜が明ける。

・ ・ ・

グレースランド王国国境。

ソウヤとミスト、リアハの三人は、結界の前にいた。

地平線から昇る太陽。うっすらと虹色に輝く透明な壁のような結界は、侵入者を阻み、また中から外へ出ることもできない。

街道から、かなり離れた場所に三人はいる。魔族の見張りを警戒してのことだ。

「敵は、ワタシの識別範囲にはいないわね」

ミストが太鼓判を押した。では、この結界を破ろう。

「リアハ」

「はい!」

騎士姫は、魔断剣『ソラス・ナ・ガリー』を抜いた。

白銀の鎧をまとう女騎士。お姫様と知らなければ、誰もが彼女を騎士と疑わないだろう。ファッションではなく、本物の戦う騎士だ。

すっと、呼吸。リアハは剣を振った。結界に切れ込みが入る。すると素早く魔断剣が、人が入れるくらいの穴を作った。

惚れ惚れするくらいの手際のよさ。

「大したもんだ」

「お褒めに与り、恐縮です、ソウヤ様」

リアハは笑みを浮かべ、剣を鞘に戻した。

「では、お願いします」

「じゃ、また後で」

ソウヤはアイテムボックスにリアハを収納。ミストに頷く。

「行くぞ! 王城へ!」