作品タイトル不明
66話 話し合いの後
正式に交際許可をもらったその後、源五郎さんに別室へと案内された。
促されて入った部屋では、星良と南条さんの二人が待機していた。
「大丈夫だった誠也君。もしかしてお父さんに何か変な事でも言われた?」
俺が部屋に入るなり、鬼気迫る勢いで何があったのか星良に問われた。
最初は不安そうな顔つきで俺と源五郎さんを交互に見ていた彼女だったが、正式に交際許可を貰えた報告をすると満面の笑みとなった。
「やったぁ! これで堂々とお父さんの前でもいちゃいちゃできるね!」
自身の発育の良い体を無遠慮に押し付けながら、彼女は俺に全力で甘えてくる。
普段であれば迷うことなくその愛情を受け入れるのだが、流石に父親の前では気まずくなってしまう。
そんな俺の様子を見かねたのか、源五郎さんが星良を宥める。
「こら星良、あまり誠也君を困らせるでない。我々の目がある場所では彼だって恥ずかしいだろうに」
「だって不安だったんだもん。急にお父さんが誠也君を呼び出すんだから。実際に誠也君を試すような真似だってしていたそうじゃない」
「うぐっ、すまん…」
自分抜きで勝手に話を進められた事を星良が咎めると、あれだけ勇ましかった源五郎さんはすっかりしおれていた。
その姿はとても極道一家を纏める長でなく、どこの家庭でも見られる一般の父親の姿だった。
そう言えば星良のお弁当もこの人が作っていたんだっけ……。
俺がずれたことを考えている間も、星良は更に追撃を加えていく。
「私がどれだけ不安だったか分かる? いきなり組長と一対一の話し合いの場に彼氏が連れていかれたんだよ。もう何度、南条を振り切って乱入しようとしたか」
「そうだな。お前の言う通りだ。本当にすまない」
「お父さんが先に謝るべき相手は私じゃなくて誠也君だと思うけど?」
「おい星良もういいって。源五郎さんだってな、お前が変な男に引っ掛からないか不安だったんだよ」
「むぅ、それって私が人を見る力が乏しいってことかな?」
「いやそうじゃなくてだな……」
いつの間にか源五郎さんだけでなく、俺までも星良の前で正座していた。
完全に父親と彼氏が揃って身を縮めていると、部屋の隅から小さな笑い声が聴こえてきた。
「お、お嬢。もうそこまでにしたらどうです?」
部屋の隅で成り行きを見守っていた南条さんがフォローを入れてくれた。
ただ気になるのは、彼の表情は明らかに笑いをこらえているように見えるのだが……。
「んんっ……親父も愛娘のお嬢を想っての行動です。それにお二人が語り合った事で、親父は正式に大道さんを認められましたし、二人きりで話した甲斐もあったと取れますし……」
「む~…それはそうだけど……」
まだ納得がいかないと渋面を浮かべる星良だったが、全て良い方向で収束した事でひとまず怒りを抑えてくれた。
「本当はまだ言い足りないけど南条の言う事も一理あるわ。だからもうこれ以上はグチグチ言わない。けどお父さん、今後は誠也君を困らせる事はしたらダメだからね」
「それはもちろんだ。むしろ北條組は総力を上げて誠也君の味方になる覚悟だ」
「だからそれが重たいの! ウチの組の人間達にベタベタされても困るだけでしょ」
「そういうわけにもいかん。誠也君はウチの大事な家族の一員だ。任侠集団として、万が一にも家族に害の及ぶ可能性は看過できんからな」
「だーかーらー」
張本人の俺を置き去りに、北條親子は言い合いを続ける。
それを見かねたのか、南条さんが二人の会話に割って入る。
「申し訳ありませんが親父、お嬢。もうそろそろ大道さんをお見送りした方がよろしいかと。もう時間も遅く、彼のご家族の方も今頃心配している可能性もあるので」
言われて今更ながらに俺も時間を思い出す。
この部屋に飾られている時計を見ると、もうすっかり夜の19時を超えている。
慌ててスマホを付ければ、母さんから数回の着信履歴もあった。源五郎さんとの会話中はミュートモードにしていたので気付けなかった。
時刻を確認して俺だけでなく、星良も大慌てで帰宅を促す。
「大変、雪子おばさんも心配してるかも!」
「それはいかん。おい南条、誠也君を自宅まで送り届けてあげなさい」
「はい。では大道さん、送迎の準備を整えるので門前で先にお待ちを」
「あ、大丈夫ですよ。このまま歩いて帰り……」
「「そうはいかないよ(いかん)!」」
俺が気を使わなくても大丈夫だと言い切る前に、北條親子から却下されてしまった。
「ワシの我儘で君を付き合わせてしまったんだ。せめて送り届けぐらいはさせてもらいたい」
「そうだよ。もしも帰りの道中で何かあったらどうするの」
「……はい」
あまりの圧力に俺は小さな声で了承するしかできなかった。
それから源五郎さんに見送られ、星良の付き添いで外に出て門前で待っていると、いかにも高級なベンツがやって来る。
うおっ、何気にベンツに乗るヤクザってドラマでしか見たことないかも……。
くだらない事を考えていると、黒塗りのベンツの運転席から南条さんが顔を出す。
「では後ろの席にどうぞ大道さん」
「は、はい。失礼します」
促されるまま後ろの席に乗り込む。
やはり高級車なだけあり、座り心地も快適なのだが、それが逆に気を張ってしまう。
俺が乗り込んだ事を確認すると、そのまま南条さんは車を出して走り出す。
「じゃあね誠也君。また明日!」
笑顔で見送ってくれる恋人に手を振りながら、俺は北條組を後にするのだった。