軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

65話 俺が必ず幸せにします

「少しでも真希子や星良を裏の世界から遠ざけるため、ワシは二人だけの住まいを提供し、そして毎月余るほどの生活費や養育費なども渡していた。そして最低でも月に一度は必ず、真希子と星良へと会いに行っていた」

触れ合える時間こそ少なかったが、星良たち3人の家族としての絆は繋がっていた。だが歯車が狂い出したのは、真希子と星良の引っ越しからだった。

「真希子は表の職に就いていた。そして会社の都合上、別の街の支社へと転勤が決まってな。そうなれば必然的にこの街から引っ越さざるを得なかった」

当時の俺は彼女の家庭事情を何も知らなかった。

あの頃はてっきり父親と一緒に生活していると思っており、家族全員でこの街から引っ越したと思い込んでいた。

だが源五郎さんの立場を考えれば北條組を離れる訳にもいかないはず。つまり星良と真希子さんは二人だけで別の街に移り住んだ事になる。

父親の住んでいる町から離れる。その時の星良は何を思ったのだろう?

ただでさえ父親と一緒の時間が少ないというのに、その上で別の街に移り住む。

いつも俺や双葉と外を駆け回り、天真爛漫に振舞っていた星良だが、俺が気付かないだけでその顔の下はどんな表情を浮かべていたのだろう?

記憶の中で笑顔を浮かべていた星良を思い浮かべていると、源五郎さんは話の続きを語る。

「会社の都合で真希子が転勤する際、あいつはワシに相談してきたんだ」

「相談ですか?」

「ああ、真希子は今の会社を辞めて、北條組で星良と一緒に暮らすべきではないかと持ち掛けたのだ。星良にも父親と触れ合う時間はもっと必要だと言ってな。だが、ワシは悩んだ末にそれを拒んでしまった」

「どうして……でしょうか?」

間違いなく源五郎さんも多くの葛藤があった筈だ。その末に出した結論に今更俺が口出ししても仕方がないとは理解している。それでも、やはり奥さんや娘と同じ屋根の下で暮らす事を拒んだ事に胸がざわついた。

俺の疑問に対して源五郎さん目をつぶりながら答えてくれた。

「最初にも言ったが、当時の北條家には敵が多すぎた。ワシの組で生活となれば、必然的に真希子と星良の素性も拡散されてしまう。無論護衛もつける気ではいるが、それでも万一を考え、ワシはその提案を拒んでしまった」

それは間違いなく苦渋の決断だったのだろう。

愛する妻と娘を遠ざける。だが決して二人を嫌っている訳でなく、その愛情の深さゆえに拒むという矛盾。

「ただワシも仕事を辞める事には同意した。こう言ってはなんだが、真希子や星良が暮らしていけるだけの金を用意するのは造作もなかったからな。仕事を辞め、この街で暮らし続ける事も進めたよ」

「でも、星良は転校を……」

「ああ、真希子も考えてはくれが仕事を辞める事はなかったんだ。日中は星良も学校がある。きっと寂しさを紛らわせたかったのかもしれない。本来であるなら夫であるワシの仕事だと言うのに……」

そう言いながら源五郎さんは膝の上で拳を握り震わせる。

「だがワシは間違っていた! 真希子は離れた地で事故に遭い命を落としてしまった。全て……全てワシが判断を誤った結果だ!!」

自らのやるせなさを隠し切れず、悔し気に後悔の念を吐き出す。

この人に、俺はどんな言葉を掛ければ良いか分からなかった。

源五郎さんは自分の過ちだと思っているが、これは悲しいすれ違いだ。

どちらも互いに愛を持ち、その末に悩んで出した結論。だからこそ、俺にはこの人の選択を肯定も批判もしなければ、軽々しくああすればよかったとか、こうすればよかったなんて口にする資格もない。

だからこそ俺がここで彼にかける言葉は決まっていた。

「どうか安心してください源五郎さん。俺は必ずあなたの娘さんを幸せにします」

「大道君……」

「あなたと真希子さんが残したくれた愛の結晶を、決して砕くような不幸な未来にはさせません。この命を懸けてでも、星良を幸せにして見せます。だから……そうやってご自身を責めないでください。星良の幸せの為にどうか笑ってください」

俺が源五郎さんに取るべき行動は、どんな障害があっても星良を幸せにする覚悟を示す事だった。

もう彼の家族が悲しみを背わぬよう、その誓いを打ち立てる事が今の俺ができる最大であり、絶対だった。

「ああ、本当に良かったと思える。星良を選んでくれた男が君の様な人間で」

そう言いながら源五郎さんはその場で頭を下げて俺に託してくれた。

「星良のことを頼むよ。大ど…いや、誠也君」

「はい。こちらこそ、信じてくれてありがとうございます。必ず娘さんを幸せにして見せます」

「ありがとう。もしも何か困りごとがあれば遠慮なく言ってくれ。ワシは、この北條組は全面的に君の味方となる事を約束する」

愛する娘の幸せにする役目を、父親である彼は俺に託してくれた。

この日、源五郎さんは俺を〝家族〟として迎えてくれたのだ。