作品タイトル不明
52話 俺たちはもう終わりだ……(中島視点)
北條星良によって自白を抜き取られたその翌日、俺は憂鬱な気分で学校に訪れた。
本当なら家に引きこもりたいぐらいだったが、まだ大道や北條に頭を下げれば許されるかもしれない、そんな淡い希望も捨てきれなかったのだ。
くそ……まさか学園3大アイドルの北條がヤクザの娘だったなんて。
大道の恋人が裏の住人の娘、まして組長の娘なんて完全に計算外だった。
この事実を知っていたら、どう間違っても大道に手なんて出さなかった。それこそ三日月双葉の言う事でも拒否していたに決まっている。
ぐっ、まだ肩が痛ぇな……。
夕べの夜に1回外された肩がまだズキズキした。
はめ直した南条とやらが言うには、後遺症も残らないと言っていた。その際に病院に行きたいとごねたら、何度も外してはめた経験があるから後遺症も残らないと、笑顔で二度も言われ怖ろしすぎ、反論なんてできる訳もなかった。
あれだけの恐怖を植え付けられ、俺には、と言うより大道をイジメた全員が歯向かう気力も完全に削がれた。
とにかく今の俺たちにできること、それは誠心誠意、大道と北條に頭を下げるしかなかった。
幸い今日のサッカー部は朝練がない。学校に着くと自分のクラスでなく、大道のクラスへと急いで直行した。
驚いたことに大道のクラス前の廊下には、俺以外にもいじめに関与した同級生がちらほら居た。いや、昨日の件の事を考えれば当たり前だろう。
教室近くまで行くと、仲間の1人が俺に声を掛けてきた。
「よお中島、お前ここに来る途中で大道か北條さんを見かけたか?」
「見てねぇけど。え、教室に居ないのか?」
俺がそう訊き返すと、集まっていた皆が頷いた。
一刻も早く謝罪したいというのに、二人が不在である事に危機感を覚える。
もしかして、もう学校側に全部話し終わっているんじゃ……。
この考えはこの場の全員が共通のものだったらしく、誰も彼もが沈んだ顔を浮かべていた。
その後もしばらく二人の帰りを待つが、戻って来る気配はなかった。それに用もなく1年のクラス前をうろつけば、周囲からは奇怪に思われ始める。
「なぁ、もう教室行こうぜ。昼休みにもう一度顔を出してみるしかねぇって」
誰かが言ったその一言が解散の合図となった。
本当ならもう少し粘りたい気持ちはあったが、いつまでもここに残留する訳にもいかず、泣く泣く俺たちは2年のクラスへと向かった。
だがもう何もかもが遅すぎたのだと、僅か先の未来で俺たちは知らされる。
自分のクラスに戻りその数分後、担任がやって来て朝のホームルームが始まった。
今日の1限目は数学の授業だったのだが、急遽自習時間に変更した。突然の自習にクラス内は困惑気味な空気が漂うが、次の担任の言葉に俺は凍り付く。
「ああそれから、中島、それに高野、木下の3人は隣の空き教室に来てくれ」
俺を含めた3人の人間が担任からの呼び出しを喰らう。
このメンバーをピンポイントで呼び出す、それだけで要件なんてもう分かりきっていた。
「他のみんなは自習だ。それじゃあ、3人は来てくれ」
有無を言わせぬ教師の圧力に、俺たちは無言で後に続くことしかできなかった。
「え、なになに?」
「サッカー部で何かあったのかな?」
背後から何も知らないクラスの連中が何やら言っていたが、耳になど入ってこなかった。
そして空き教室に入り、俺は更に絶望を突き付けられる。
「中島達も来たな。これで全員集合したか……」
空き教室には俺たち3人以外の、大道に嫌がらせを行った他の2年が集合していた。しかもそれだけでなく、それぞれのクラスの担任、更にはサッカー部の顧問までいる。
崩れ落ちそうな俺を担任は強引に空いている椅子に座らせ、そして強制的に話し合いは始まってしまった。
「さて、まず最初にお前たちに訊こう。どうして自分たちが呼び出されたのか分かっているか?」
「「「…………」」」
誰も、何も言えずに無言で俯く事しかできなかった。
当然揃ってこんな態度を取っている時点で、口にしてないが分かっていると言ってるも同義だ。それでも現実を受け入れたくなく、自分たちからは何も言えなかった。無駄な足搔きだと理解しつつも。
しかしそんな甘えを大人達は許してはくれなかった。
「お前たちを呼び出した理由は昨日の昼の出来事だ。1年生の大道誠也へ働いた暴行について、心当たりはあるな?」
顧問の教師が厳しい目付きと共に現実を叩きつけてくる。
そこからの話は進めば進むほどに気が狂いそうだった。
「まさか俺の部の生徒が集団でいじめとはな。俺もショックで仕方ないよ」
「ち、違うんです」
「違う? こうして明確な証拠もあるのにか?」
下手な言い訳をしようとしても、昨日の夜に北條に自白した証拠が提示され黙殺される。
それぞれの担任、そして顧問に囲まれ、言い逃れできる材料も手札にはない。もう……逃げ場など、俺たちにはどこにもないのだ。
どうして……どうしてこうなった?
担任は親御さんにも報告すると言っている。
顧問は俺たちを、サッカー部から退部処分を下さざるを得ないと言っている。
全部……全部ぜんぶぜんぶ三日月双葉のせいだ。
俺たちがこんな目に遭っているのは、あのクソ女が俺たちにいじめをそそのかしたからだ。
こうなった以上、あのクソ女も道連れにしてやる……。