作品タイトル不明
51話 思考停止(双葉視点)
私は昼休みが始まるとともに、2年の中島先輩のクラスへと足を運んでいた。
昨日のメールで私の命を受けた彼やその他の手駒は、誠也に対して精神的嫌がらせを慣行する気でいる。だが昨日の北條の電話が忘れられず、しばらくは大人しく様子を見るように新たな指示を出さなければならない。
このまま放置しておけば、あのスポーツしか取り柄のない猿たちは誠也へ何をしでかすか分からない。このタイミングで誠也を追い込むのは悪手でしかない。
お目当てのクラスへとやって来て、教室内を見回し中島先輩の姿を探す。
あれ、教室に居ないじゃない?
一刻も早く指示を出したいが、肝心の中島先輩は不在だった。
いや、彼だけではない。他の誠也への嫌がらせに協力していた先輩の姿も見当たらなかった。
どういう事よ? もう食堂に向かったってことかしら……。
午前の授業が終わった直後に食堂にでも駆けたのだろうか?
とにかくこの場に見当たらない以上、留まっている理由はない。
「あら、どうかしたの?」
教室の次に可能性が高い食堂に出向こうとした時だった。このクラスの女子が私の存在に気付き声を掛けてきた。
ちっ、めんど。こっちは急いでいるってのに……。
まぁ2年のクラスを1年が覗いていれば気にもなるか。
正直かなり面倒だけど、私は中島先輩を相手にする時と同じく猫を被る。
「あ、ごめんなさい。実は中島先輩を探していて……」
「ええ? もしかして中島君の彼女さん?」
瞳をキラキラと輝かせながら的外れなことを言われた。
鳥肌の立つような冗談に反吐が出そうだった。
私にとってあんな奴、ただ使い勝手のいい小道具に過ぎない。それを言うに事を欠いて彼女? はんっ、冗談も休み休み言ってほしい。
「いえ、交流はありますけどそういう関係では……」
今にも不快感を表に出しそうな表情筋に活を入れ、的外れな事をほざくバカ女の相手を何とか務める。
「へぇ~……でもわざわざクラスに来るくらいだから案外いい感じじゃないの?」
この時、咄嗟に手を出さなかった自分を褒めてあげたい気分だった。
いい加減にしなさいよコイツ。私にとって異性は誠也ただ一人だけなのよ。ちょっとニコニコしただけで尻尾を振る犬なんか手元に置く趣味はないのよ!
激情をぶちまけたいが堪え、一刻もこの場を消え去ろうとする。
だが立ち去る直前、何も知らないこの女がこんな事を漏らしていた。
「そう言えば中島君といえば、今朝先生に呼び出されてたけど何だったんだろ?」
それは私へと向けたものでなく、完全な独り言だったのだろう。
だが彼女の零したその独り言を私は無視する事が出来なかった。
「あの、今の話って……?」
「ん? ああ、大した事じゃないんだけどね。ウチのクラスの中島君、それに他のサッカー部の男子が一限目の自習中に呼び出し受けてたのよ。何でも担任が大事な話があるとかなんとか」
「そ、それで?」
「自習が終わるころには戻って来たんだけどね、なんだかめちゃくちゃ青ざめていてさ、そんな反応されたら流石に気になるじゃん? それとなく私や他の娘も何を言われたか興味心で聞いたんだけど……」
だけど、だけど何よ? 一体何を言っていたのよ?
その続きを促す事が怖かった。
いっそ聞かなかったことにして、この場から消えればよかったのだ。
でも私の意志とは裏腹に、口が勝手に動いてしまっていた。
「中島先輩は……何を……言っていたんですか?」
「それがね、ずーっと机に突っ伏して『俺たちはもう終わりだ』って繰り返すわけ。いやーあれは軽いホラーだったね」
ケラケラと笑いながら話しをする彼女に何も言えなかった。
終わり? えっ、それってどういう意味?
真っ白になりかける頭の中では、北條の言葉が反響し続けた。
――『中島先輩がもう自白したよ。誠也君へのいやがらせ、全てあなたが裏で企てていたって……』
うそ、なんで、そんな……あり得ない。
先輩が私を売った? それとも私が考えすぎているだけ? 誠也のことは一切関係ないの?
足元がくらくらして、今にも倒れそうになっていた時だった。
「おい……」
「え?」
咄嗟に反応して声の方に振り向くと、そこには中島先輩がいた。
彼は今の私に負けず劣らず、その顔は絶望に染まっていた。だが私の顔を見るなり、彼の瞳は一気に黒く燃え上がる。
「どうして、どうしてくれるんだお前はッ!?」
中島先輩は怒声を張り上げながら、私の胸倉を掴み上げる。
「ちょっ、何してるの?」
「うるせぇ! 関係ねぇヤツは黙ってろ! おい三日月、お前は、お前は分かってるのか? お前のせいで俺たちはぁぁぁ!!」
呂律も上手く回っていないが、彼の瞳に宿る怨嗟の炎で全てを察してしまった。
私が誠也に働いた悪事は全てバレてしまい、その責任をこれから自分は取らされるんだという事実を。
先輩のクラスメイト達が彼を止めに入り、会話をしていた女子が介抱してくれるが、この時には私の思考は半ば停止しかけていた。