軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21.当たり前のこと

「話してみろ」と言わんばかりの視線を向けてくるヴァンデオンが、自分がくしゃくしゃにした髪を 梳いていると、彼はユフィを見つめながら尋ねた。

「お前。あいつとは、どういう関係なんだ?」

予想もしなかった問いに、思わず手が止まる。ユフィの露骨な反応に、ヴァンデオンは首をかしげた。

「なんだ? なぜそんなに驚く? 想定内の質問じゃなかったのか?」

「それは、配慮という言葉が辞書にないようなヴァンから、そんな質問をされれば驚くのも当然でしょう」

ユフィの答えに、ヴァンデオンが目を細めた。

「それだけお前の行動が分かりやすかったってことさ。お前、あいつにだけは、妙にきっぱりと線を引くだろう」

「そんなことは……」

ユフィは口ごもりながら言葉を続けようとしたが、ヴァンデオンが首を振って彼女の言葉を遮った。

「あるさ。それに、昨日あいつがお前を呼んだ名前と、最後の言葉」

あぁ、あれのことか。

(はぁ……)

本当に、この上なく余計なことをしてくれたものだ。

「それだけじゃない。リベンも妙にお前たちのことを気にかけているだろう? この家の空気そのものが、お前とあいつが知人同士だと教えてくれているようなレベルだ」

「なるほど」

冷静に第三者の視点から状況を聞かされてみれば、奇妙に思われても仕方のないことだった。それでも、他の誰でもないヴァンデオンが二人のことを詮索してくるのは意外だった。

「ヴァンデオン。あなたは他人に興味を持つような性格ではないでしょう? そんなあなたが、なぜ私に彼との関係を尋ねるのですか?」

「あいつもお前も、他人じゃないからな。それに、何があったのかは知らんが、俺はお前たちが和解してほしいと思っているんだ」

「なぜですか?」

「その方が、リベンがお前たちにかける気が減るだろう?」

あぁ、そういうことか。リベリカがユフィを気にかけるから嫉妬したのだろうか。実にヴァンデオンらしい理由に、思わず笑いが込み上げてきた。ユフィが薄く笑みを漏らしながら頷くと、ヴァンデオンが言葉を継いだ。

「それに、あいつ。心底お前のことだけを考えているのが丸分かりだからな。俺は、あいつがろくでなしだとは思わん」

「あなたとは敵同士だったというのに?」

「戦争なんてそんなものさ。俺たちが対立したのは国籍が違ったからであって、お互いに怨恨があるわけじゃない」

論理としては十分に理解できる。しかし、いかなる理由があろうとも、仲間を、自分を傷つけた人間を許し、その幸せを願うというのは、あまりにも困難なことではないだろうか。

ヴァンデオンは、なぜ彼を許せるのだろう。傷つき、痛み、苦しかったはずなのに。

「どうして……許せるのですか?」

「ん?」

「ヴァンデオンと彼は敵同士だったのでしょう。あなたはどうやって彼を許したのですか?」

ユフィネルは彼を許すことができなかった。だからこそ、彼に関するすべてを消し去り、蓋をして、捨て去ることで、何も残らないようにしたのだ。そうしなければ耐えられなかったから。過去の澱みがへばりついていては、前へ進めないから。

ユフィの問いに、ヴァンデオンがユフィへと手を伸ばした。首をかしげた彼女がその手を握ると、ヴァンデオンは彼女の頭に自分の頭をぶつけた。

「痛いっ!!」

「痛くしたんだよ」

「何をするんですか?! 怒られますよ?」

眉をひそめてユフィが声を荒らげると、ヴァンデオンは快活な笑い声を響かせながら言葉を続けた。

「許したわけじゃない。過去を忘れたわけでもないさ。だが、これからも生きていく時間は長いのに、過去の残像にしがみついて現実から目を背けるのは、馬鹿げたことだろう」

「現実から目を背ける、ですか?」

「そうだ。今のあいつの行動、あいつの言葉、これからあいつが見せるすべてのものに、過去の記憶をなすりつける必要はないってことさ」

「そんなの、当たり前のこと……」

「その当たり前のことができていないだろう、お前は」

「……」

ヴァンデオンの答えに、ユフィの視線が揺らいだ。自分なりにうまくやっているつもりだったが、本当はできていなかったのだろうか。

ユフィが何も言わずにうつむくと、ヴァンデオンは再び彼女の髪をくしゃくしゃとかき乱した。

「今すぐ心を開けって言っているんじゃない。少しずつでもいいから、お互いに心を見せ合えってことさ」

「……こんなお説教をヴァンから受けるなんて、屈辱的ですね」

「ワハハ! 違いない。天下のユフィに説教を垂れることができるなんて、なかなか気分がいいな」

「それでは、ご気分のよろしいヴァンに一言差し上げましょう。師匠の使いがてら森へ行き、こっそり修練をしてきたと、師匠に言いつけておきます」

「なっ……ちょっと待て。どうして分かった?!」

どれほど驚いたのか、尻尾をピンと立てたヴァンデオンが、見開いた目をパチクリさせながら叫んだ。

「呼吸、体温、そして泥の跳ね返った方向。こんなにじっとりとした日に、いささか大胆に動きすぎたのではないですか?」

「それは……その、ユフィ」

「ご心配なく。ヴァンデオンがそれだけ元気になったようだから、もう追い出してもよさそうだとお伝えするだけですから……」

「そうだ! リベンがあいつを起こして食堂へ連れてこいって言ってたんだ。さっき言われたことだから、早くあいつを起こしに行ったらどうだ?」

ほう? そうやって時間を稼ごうというわけね? ユフィが目を細めてヴァンデオンを見つめたが、彼はすでに窓枠から身を翻して食堂へと歩き去っており、ユフィの視線に気づくことはなかった。

無言でヴァンデオンの後ろ姿を見送っていたユフィが、ふっと吹き出すように笑った。そして、服を着替えて部屋を出た。

一階の突き当たり、ハルの部屋に到着したユフィが静かに扉を開けると、ほのかな香りに混じって、生臭い血の匂いが漂ってきた。いつも彼から感じられる、嗅ぎ慣れた香り。窓を開けて、ベッドへと近づく。

体を丸めて眠るハルの顔が視界に映った。固く閉じられたまぶたが濡れていた。彼のベッドの端に腰掛けたユフィが、そっと目元に浮かんだ涙を拭ってやった。包帯の巻かれた頬を優しく包み込むと、温もりを感じ取ったハルが、ゆっくりと目を開けた。

ルビーとアメジストを溶かして固めたかのような、透明な瞳が、ユフィの青天色の瞳を捉えた。

「起きられましたか? ハル」