軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20. 忘れて、蓋をして、消し去ること。

ユフィネルの視線がラハルトへと届いた。

最初に彼がこの村へとやって来た時から、前兆はあった。何でもないと言いながらも彼の体調が気にかかった。目が先に彼を追っても、ただの医療行為に過ぎないと何度も言い聞かせた。

彼と一緒にいると、古い記憶が呼び覚まされた。だから、悪夢を見る彼が平穏であるよう願った。彼の体が健康になるよう願った。

誰かを心配し、思い悩む……実に「人間らしかったユフィネル」。

ラハルトがユフィネルの傍にいればいるほど、蘇る感情は確かにあった。ユフィネルの視線を、ラハルトは決して逸らさなかった。

ユフィネルがゆっくりと口を開いた。

「ラハルト様。あの日、あなたが私に言った言葉を覚えていますか?」

「……!」

「なぜ、あなたは私を信じてくださらなかったのですか? 私があの家で孤立していることを、あなたも知っていながら」

「……」

悄然としたユフィネルの声に、ラハルトの顔が歪んだ。

痛みに耐えかねて声も出せないかのように、彼の腕がかすかに震えた。謝罪すらまともに口にできない彼の姿を、ユフィネルは静かに見つめた。

実に滑稽なことであった。

目を背けられ、捨てられたのは自分なのに、なぜ彼の方がより痛々しい表情を浮かべるのだろう。当のユフィネルは、あの日の感情を思い出すことすらできないというのに。

(そう、そうなのね。所詮、この程度に過ぎないのだわ)

彼が刺激するユフィネルの人間性が、せいぜいこの程度だというなら構わない。蓋をしてしまえばいい。薄く息を吐き出したユフィネルが、彼の掌から自分の手を引き抜いた。固く握られていた手が、あまりにも呆気なくすり抜けていく。

「ラハルト様。あなたが私のことで心を痛めたり、苦しんだりする必要はありません。それはすでに過ぎ去ったことですし、私はあなたを恨んでなどいませんから」

恨みも、憎しみもしない。石ころでなくても構わない。ユフィにとって、彼は重要な存在ではない。それでいいのだ。

席から立ち上がった「ユフィ」が、「ハル」へと手を差し伸べながら言った。

「心配してくれてありがとう、ハル。私は大丈夫だから、あなたは自分の体を最優先にして」

「本当に……大丈夫なのか?」

「もちろんです。患者に心配をかけるほどではありません。さあ、支えますから。病室へ戻りましょう」

口角を持ち上げた微笑みは乾燥している。ハルは血がにじむほど強く握りしめていた拳を開き、ユフィの手を握った。

「すまない。世話をかけてばかりだな」

「とんでもありません。私の仕事ですから」

ハルを彼の病室へと送り届けたユフィは、自分の部屋へと戻り、天が破れたかのように降り注ぐ雨脚を見つめた。彼女が窓辺へと近づいて窓を開けると、近づいてきたシフがユフィを優しく包み込んだ。

「ありがとう。心配してくれているのね。けれど、私は何ともないわ。そして、あなたも大丈夫。私が必ず守ってあげるから」

シフの赤い瞳が、心配そうにユフィへと向けられた。その視線が、先ほどまで一緒にいた誰かを思い出させた。

(いいえ、違うわ。別よ)

似たような色彩を帯びているだけ。二人は全く異なる。シフはユフィの伴侶だ。永遠を共にする片割れ。彼とは違う。

シフに寄りかかったユフィが、彼の体に頬をすり寄せた。

(本当に大丈夫?)

降りしきる雨の向こうに立つ少女が、ユフィに尋ねた。思わず視線を向けると、降り注ぐ雨をまともに浴びている少女の姿が見えた。長い赤い髪を一つに結び落とした少女は、瑞々しい青い瞳いっぱいに虚無を湛えたまま問い返した。

(本当に、それでいいの?)

「ええ、これでいいのよ。あなたも彼も、過去の片鱗に過ぎない。現実に触れることはできないのだから」

すべては過ぎ去った記憶だ。思い出し、囚われる必要はない。それが世界の論理なのだから。忘れて、蓋をして、消し去ること。

(そう。あなたがそう言うなら、そうなのだろうね)

窓辺で弾けた雨粒が彼女の白い頬に飛び跳ね、透明な軌跡を描いた。それと同時に、雨の街角に立っていた少女が消え去った。

少女が消えた場所に視線を据えていたユフィは、やがて窓を閉めてベッドへと向かった。

今日は疲れる一日だった。早く休みたい。

***

霧雨の降る朝。いつもと同じ時間に目を覚ましたユフィは、窓を開けて外を眺めた。しっとりと濡れた地面と湿った空気を見るに、今日も天気が優れないようだった。

(地面がぬかるみすぎていなければいいのだけれど)

夜の間に雨が激しく降りすぎたせいで心配だった。雨水によって調教師の痕跡が洗い流されてしまってはいないだろうか。

早く彼らを見つけ出して解決しなければ、このざわめく心も静まりはしないだろうに。

「ユフィ。相変わらず早起きだな」

霧の向こうを見つめながら思索に耽っているユフィの耳元に、聞き慣れた声が届いた。ゆっくりと視線を巡らせると、ヴァンデオンが窓辺へと近づいてくるのが見えた。

「ヴァンデオン。こんな時間からどちらへ行かれていたのですか?」

「リベンに頼まれたことがあってな」

「師匠が? ですが、ヴァンデオンはまだ……」

ヴァンデオンは日常生活に支障がない程度には回復したものの、劇毒と被曝による傷はそう簡単に癒えるものではない。そんな患者に、リベリカが何かを頼むはずがないというのに。

妙だと思うユフィの視線に、ヴァンデオンは不敵に笑って彼女の髪をくしゃくしゃとかき乱すと、言葉を継いだ。

「それだけリベンも腹を立てているということさ。俺もそろそろ動きたかったしな」

「それ、わざわざ髪をかき乱しながら言わなければならない言葉ですか?」

「お前の頭の中が複雑そうに見えたからな。俺が代わりに乱してやったんだ」

一体どんな論理なのか分からない。ユフィがふっと吹き出すように笑うと、ヴァンデオンは窓枠に腰掛けながら尋ねた。

「ユフィ。お前に聞きたいことがあるんだが、尋ねてもいいか?」

「ええ。ちょうど私も、お聞きしたいことがありましたから」