軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14. 深い山脈、異変

二人を見送った後、ユフィは予定通り薬草採取のために森へ出る支度を始めた。ユフィが道具を揃えていると、朝食の後片付けをしていたエレナが尋ねた。

「ユフィ、今日はどこまで行くんだい?」

「必要な薬草が結構多くて。大迷宮の近くまで行くと思います」

「国境地帯までかい? 一人で行くには危険すぎるんじゃないかね」

「一人じゃありませんよ」

エレナの心配そうな問いにユフィが微笑みながら窓辺を指さすと、いつからそこにいたのか、シフがその赤い目でユフィとエレナをじっと見つめていた。

「あらまあ……そうかい。シフがいるなら安心だね。確かに、シフなしじゃ国境地帯まで行くのは難しいものね」

「そうでしょう?」

大迷宮。ロンカエトとカランの国境である黒い山脈の近隣に位置する未知の空間。数千年前、貪食の魔女と呼ばれた大魔女が創り出した特殊な迷宮は、現在も完全に攻略されることなく二国の間に居座り、その威容を誇っていた。

冒険者を夢見る者なら一度は耳にする真理の宝庫。大迷宮は、小さな石ころ一つ拾い上げてきても一獲千金を狙えるほど、迷宮内に自生するあらゆるものに魔女の魔法が宿っているという。

魔女の魔法は歳月が流れるほど強大になり、周囲にまで影響を及ぼすが、そのおかげで大迷宮の近くには、通常の薬草よりも遥かに効能の優れた薬草が自生していた。

もちろん、迷宮から這い出てくる怪物たちや、迷宮に永遠に閉じ込められた変異体を相手にしなければならないという、多少の煩わしさは存在するが、あまり深く入り込みさえしなければ大きな問題はない。

ユフィの微笑みに頷きながらも、エレナは大迷宮の存在する山脈を眺めながら言葉を続けた。

「年寄りの小言にすぎないだろうけれど……絶対に無事で帰ってくるんだよ。分かったね?」

「エレナも大袈裟ね、心配性なんだから。大迷宮からどんな奇想天外なものが現れようと、ユフィとシフに何かが起きるわけがないでしょう?」

「でも、リベリカ。ユフィはまだ見習い魔女様なんだよ?」

「見習いであっても魔女よ。そうでしょう? ユフィ」

顔を上げたリベリカが意味深な笑みを浮かべて問いかけると、その微笑みに応えるようにユフィも口角を上げて答えた。

「ええ。見習いとはいえ、私は魔女ですから」

食堂の一角に座って書類を執筆していたリベリカが笑って答えた。リベリカの言う通り、大迷宮から何が現れようと、ユフィにどんな問題も起こるはずがなかった。

「それでも、あまり遅くならないうちに帰っておいで。夕方には雨が降るわ」

「またですか?」

「ええ。季節外れの雨期が、一体何を暗示しているのか」

リベリカの視線がユフィを通り過ぎ、真っ青な空へと向けられた。雨期のないロンカエトで、このように立て続けに雨が降ることは稀だ。本当に何かを暗示しているのだろうか。

それとも、早くに訪れた暑さのせいで不安定になった大気が雨を降らせているだけなのだろうか。

何にせよ、遅くならないうちに帰ることにしよう。支度を終えたユフィは、元気に魔女の家を出発した。

シフの背に飛び乗り、瞬く間に山脈を駆け登った。暑さの残る村とは違い、大迷宮の近くまで登ってくると、山々の間を吹き抜ける風がうなじをひんやりと撫でていった。

風に混じる生臭い匂いから察するに、本当に雨が降りそうだ。本来なら大迷宮の近くまで来れば、良質な薬草が自生するポイントまでじっくり探索するべきなのだが、今日は必要な薬草だけを採取して下山した方が良さそうだ。

「シフ。まずは雨水岩の方へ行きましょう」

炎症を抑える軟膏に使う苔をむしり、解熱草や止血用の花を摘み取る。

野生に自生する植物は、いかなるものであっても必要以上に採取してはならない。過剰にならず、不足もさせず、個体数の維持に気を配りながら採取を続けてしばらく経った頃だろうか。

久しぶりの本格的な採取ということもあって、思いのほか楽しかった。鼻先をかすめる瑞々しい草の香り、流れる汗を拭ってくれる涼しい風。深い山脈が紡ぎ出す心地よい贈り物に、自然と心の一角が満たされていくようだった。

満足のいく採取を終えたユフィが、近くで採取を手伝おうと地面を掘り返しているシフを呼ぼうとした、その時だった。

ピー、ピーーーー

吹き抜ける風に混じって、聞こえるか聞こえないかほどの微かな笛の音が響いてきた。極めて微かであるにもかかわらず、神経の端を逆なでするその音は、自然界からは決して生じることのない、人工的な音だった。

(何の音かしら?)

目を細めたユフィが、音の聞こえてきた、白く輝く岩山へと近づこうとした瞬間だった。

「きゃあ!?」

ユフィのうなじを咥え上げたシフが、彼女を荒々しく背中に乗せた。反射的にシフの毛並みを強く掴むと、シフは弾かれたように村へ向かって猛然と駆け出した。

どれほどの速度で駆け抜けているのか、目すらまともに開けられないままシフの背で揺られていたユフィは、自分を呼ぶバンデオンの声に顔を上げた。

視界いっぱいに広がる村の景色と、驚愕に染まったバンデオンの顔。そして、切迫した様子さえ見せるハルの姿があった。

「うわっ!? 何だ!?」

「ユフィネル!!!」

全速力で村に到着したシフは速度を殺しきれず、目の前に現れた二人の姿を見て急制動をかけた。

体が宙に浮くような浮遊感とともに、自分に向かって手を伸ばすハルの姿が見えた。状況を理解できないユフィネルは、反射的にハルへと手を伸ばした。

直後、逞しい腕が彼女を隙間なくきつく抱きしめた。