軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12. 散策、あるいは採取、あるいは

食事をすべて平らげたハルの姿に満足げに頷いたユフィは、一晩中膿が滲んでいた包帯を解き、体の状態をチェックした。最初は「自分でできる」と猛烈に拒んでいたハルだったが、一週間前からは素直に身を委ねてくれるようになり、治療はずっとスムーズに進んでいた。

遅まきながらも確実に快方に向かっている患者の状態を見ると、自然と気分が良くなる。小さく鼻歌を口ずさみながら、彼の体に薬を丁寧に塗り込んでいると、ハルが慎重に尋ねてきた。

「あの、ユフィ様。一つお伺いしてもよろしいでしょうか」

「はい。何でも聞いてください。あ、その前に。名前は呼び捨てで構いませんよ? 言葉も崩していただいて」

「えっ? お世話になっている方に、そのような滅相もない……」

「私が落ち着かないんです。他人から敬語を使われるのはあまり好きではなくて」

「……不快に思われませんか?」

「全く。むしろ敬語で接されると距離を感じてしまって、苦手なのですよ」

ユフィにとって、魔女の家に留まる患者は確かな信頼を置くべき庇護対象だ. 心を通わせるほど親しくなる必要はないが、線を引いて接していては信頼は築けない。

親しげに名前を呼んでほしいというユフィの答えに、ハルは戸惑いながらも、恐る恐る言葉を崩した。

「ならば……ユフィ」

「はい。何でしょう」

「もし良ければ……村を見て回りたいのだ」

「村をですか? ふむ」

そういえば、彼がこの村をまともに見たのは、村に転がり込んできたあの雨の日の一度きりだった。状態が悪化していたせいで満足に歩けなかった彼は、半月以上の間、魔女の家どころか部屋の外に出ることさえできなかったのだ。

(確かに……そろそろ退屈してくる頃よね)

元来、活動的な人だった。バンデオンほどではなくとも、体を動かしたくなるだろう。

(薬の効果はいいわ。少しずつだけど、部屋の中を歩く程度ならできる。ただ……)

まともな食事も摂れず半月近く寝たきりだった彼を、一人で村へ出すわけにはいかない。本来ならユフィが保護者として付き添うべきだが、今日はやるべきことが多すぎる。

新薬を作るために消耗した薬草に加え、薬膳料理を作るためにまた大量の在庫を使い果たしてしまったからだ。

そろそろ薬草を摘みに行かなければ、いざという時に使う分が足りなくなってしまう。

(彼に肩を貸して一緒に回るには、時間のロスが大きすぎるわ。かといって、このまま家の中に閉じ込めておくのも精神的に良くないし)

せっかく彼の方から口を開いてくれたのではないか。患者に周囲を見渡す余裕が生まれたということは、それだけ容体が良くなった証でもある。また、「生きたい」という強い意志が芽生えたという意味でもある。その火を消すわけにはいかない。

(やはり私が……。でも時間が……)

ユフィが答えずに黙々と包帯を巻くだけなので、迷惑をかけたと思ったハルが慌てて言葉を継いだ。

「ユフィ、君の負担になることなら断ってくれて構わない。ただ、天気が良さそうに見えたから衝動的に口にしただけなのだ……」

「負担だなんて思っていませんよ。ただ……」

申し訳なさそうに身を縮めるハルの姿に、ユフィが答えようとした、その時だった。

「ユフィ、エレナの婆様が飯を一緒に食うって待ってるぞ。処置はいつ終わ……」

ノックもせずに扉を乱暴に開けて入ってきたバンデオンは、病室のベッドに座っているハルを凝視して目を見開いた。

「お前は……」

「……!」

ハルを知っているかのようなバンデオンの声に、ハルの顔からさっと血の気が引いた。敵としてまみえたことがあるのだろうか。互いに傷つけ合った仲なのかもしれない。言葉を失ったまま見つめ合う元軍人たちの姿に、ユフィが素早く二人の間に割って入った。

「バンデオン。ちょうどいいところに来ましたね。今日の体調はすこぶる良いでしょう?」

「え? ああ、うん。絶好調だ」

「やることもないですよね?」

「そうだな」

「いいわ。ちょうど師匠の患者であるハルが、村を見て回りたいと言っているの。バンデオン、私の代わりに彼を案内してくれないかしら?」

「はあ? 何だって? 俺が? なんでだよ」

「それはバンデオンが先輩患者だからですよ」

ユフィがにっこりと笑って言うと、バンデオンは何の理屈だと顔をしかめた。

「いいじゃないですか。バンデオンは暇で、ハルは散歩を望んでいる。お互い話したいこともあるでしょう? バン、私のお願い、聞いてくれますよね?」

ユフィが愛称を呼びながら頼み込むと、バンデオンは気乗りしない表情を見せながらも渋々頷いた。小さな魔女の村で平穏に過ごすためには、決してこの見習い魔女の機嫌を損ねてはならない。

「分かったよ。どこまで連れて行けばいい?」

「彼の体力が続くところまでよ」

「倒れたら担いで帰って来いってことか?」

「可能な限り優しく、体に無理のないようにね」

「努力はするさ」

「ふふ、ありがとう、バン。代わりに夕食はバンの好物を作ってあげますね」

「いいよ。患者優先だろ? こいつの好物にしてやってくれ。あと、愛称で呼ぶな」

「あら、可愛いから好きなのに」

「婆様が待ってるんだ。早く行って飯食ってこい」

バンデオンが背中をぐいぐいと押すと、ユフィはきゃらきゃらと笑いながら部屋を出た。ユフィを追い出したバンデオンは、ふうと大きなため息をついた。

愛称で呼びながら甘えてくる見習い魔女は恐ろしい。耳をガリガリと掻きながら露骨に不快感を示していたバンデオンが、ラハルトへと視線を向けて言葉を続けた。

「俺も好きでやってるんじゃねえ。お前も知っての通り、魔女の村では何人も紛争を起こしちゃならねえ。だから、そんな殺しそうな目で睨むんじゃねえよ。ラハルト」