軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

37.実践

次の日からはダンカンを説得するためにオパールは奮闘した。

いくつか持ってきていた大鎌を見せて説明するが、ダンカンは黙って聞いていても首を縦には振らない。

それでは実践してみようということで、散策で見つけた茂みを護衛騎士の一人に苅ってもらってもダメだった。

ダンカンをクビにするということもできるが、それは最終手段である。

(ダンカンは厳しく堅実で、頑固だけど、領民からの人望は篤いみたいだものね……)

オパールは自室の窓から綺麗に整えられた庭を眺めながら、深くため息を吐いた。

どうすればダンカンに大鎌を使用する利点を納得させられるのだろう。

ダンカンを通さず直接領民に大鎌を使用するように命じることはできる。

しかしそれではダンカンからの信頼を得られない。

そうしてダンカン相手に四苦八苦しているオパールの様子を、コナリーはいつも満足そうに見ていた。

ナージャの情報では屋敷の使用人たちはコナリーに従順なのだが、ダンカンだけは一線を画しているらしい。

使用人たちの礼儀正しくても冷たい態度はオパールを嫌っているのではなく、コナリーを恐れての行動だということがここ何日か過ごしてわかっていた。

新しい公爵領にとってコナリーも問題であるのだが、彼もまたすぐに解雇するわけにはいかない。

行き詰まってしまったオパールは、再びため息を吐いて窓の外に意識を向けた。

そしてある人物を見つけて立ち上がる。

「ちょっと歩いてくるわ」

「奥様?」

「大丈夫。庭だから付き添いはいらないわ」

「それでは少しだけお待ちくださいませ」

ナージャはそう言うと一度衣装部屋に入り、すぐに戻ってきた。

腕に日傘を持ち、手袋を差し出してくれる。

「今日は少し陽射しが強いですから。帽子のほうがよかったですか?」

「いいえ、日傘でいいわ。ありがとう、ナージャ」

ナージャに手伝ってもらって手袋をはめたオパールは、日傘を受け取って部屋から出た。

階段を下りるとコナリーがやって来たが、庭を散歩するだけだと告げて外に出る。

幸い目当ての人物はまだ庭にいて、オパールは日傘を差したまま近づいて声をかけた。

「何をしているの、ジュリアン?」

「花がらを摘んでおります、奥様」

「あなたが? 庭師の仕事なのに?」

「今は特にする仕事もありませんから、私から手伝わせてほしいと申し出たのです」

「ジュリアンから?」

「はい」

オパールは意外な言葉を聞いて驚いたが、それ以上は何も言わなかった。

するとジュリアンは軽く頭を下げて作業に戻る。

その様子を黙って見ていたオパールはしばらくしてまたジュリアンに話しかけた。

「ジュリアンはどうやってみんなの輪の中に入ったの?」

「……相手を尊重し、笑顔と感謝を忘れず、自ら率先して動く。誰だって新しいものは怖いですから、排他的になってしまうのは仕方ありません」

「みんな一緒なのね……」

独り言のように答えたオパールは、日傘を傾けて空を見上げた。

北の地にあるこの公爵領地は秋の訪れも早い。

のんびりしている時間はないのだ。

「ありがとう、ジュリアン。お仕事の邪魔をして悪かったわね」

「いいえ。奥様のお役に立てることが私の喜びですから」

大げさに頭を下げるジュリアンに、オパールは片眉を上げたものの何も言わず屋敷へと戻った。

そのまま衣裳部屋に入る。

「奥様、何かお探しですか?」

「ねえ、ナージャ。農作業するのに動きやすい服はないかしら?」

「農作業ですか? 奥様が?」

「ええ。今までは人に命令してばかりだったでしょう? でもまず自分が動いてみれば、ダンカンも納得するんじゃないかしら?」

「……ダンカンさんの任を解かれたほうが早いんじゃないですか?」

「まあ、それも一つの手ではあるけれど、もう少しだけ様子を見てみようと思うの」

「わかりました。それでは、私の服をお召しになってください」

「あら、それは悪いわ。汚したり破れてしまったりするかもしれないもの」

以前変装してベスを訪ねた時とは状況が違うのだ。

了承しないオパールに、ナージャは笑った。

「奥様のドレスに比べれば大したことはありませんよ。ですが、農婦から一着服を買い取ってお召しになったなら、逆に反感を買われてしまうかもしれませんから。私の服くらいがちょうどいいんですよ」

「ちょうどいい……」

確かにオパールがいきなり農婦の格好をすればかなり浮くだけでなく、馬鹿にしていると穿った見方をする者もいるだろう。

従僕として雇われたジュリアンとは違うのだ。

だからといっていくら動きやすくても上質の絹で仕立てられた衣服では本気度も伝わりにくい。

「わかったわ。では、私のドレスと一着交換しましょう」

「ありがとうございます!」

もう着なくなった服は今までにもナージャなどに譲っていたが、今回はナージャに選んでもらうのだ。

そうすればお互いちょっと得した気分になれる。

オパールはナージャが持ってきてくれた服を合わせ、騎士たちに明日の予定を伝えて準備を進めた。

――翌日。

長い間休耕地となっていた場所を来年に向けて整備すると聞いていたオパールは、騎士たちと大鎌を持って出向いた。

ナージャが用意してくれた麦わら帽子をかぶったオパールを見た騎士たちは、はじめかなり驚いていたが今のダンカンほどではなかった。

ダンカンはしげしげとオパールを見てからため息を吐く。

「今度は何をされるおつもりなのですか?」

「お手伝いしようと思って」

にっこり笑ってオパールは答えたが、ダンカンは眉を吊り上げただけ。

だが農夫たちは驚愕してざわついた。

そこでさらに続ける。

「一緒に作業すると私たちは邪魔になるでしょうけど、あちらの区画を担当すれば問題ないでしょう? 人手は多いほうがいいと思うわ」

「……それではよろしくお願いします」

ダンカンはしぶしぶ受け入れ、オパールは応えて頷いた。

相手を――ダンカンを尊重はしている。

笑顔と感謝も忘れていない。

だがオパールは雇用主であり、ダンカンは雇人なのだ。

大鎌を無理に使うように命令はしないが、これ以上の譲歩をするつもりもない。

オパールたちが一区画の草刈りを終わらせた時には、まだ農夫たちは半分ほどだった。――オパールはほとんど役立たずだったが。

その明らかな差を見て、ダンカンは顔をしかめた。

「次はあの区画の草を刈ればいいかしら?」

「――はい」

「じゃあ、さっそく取り掛かるわ。あ、でも……」

次の区画に向かいかけたオパールはそこで振り向いた。

ダンカンはじっとその場に立ったままで、農夫たちも見ている。

「刃がこぼれた時のために替えの大鎌を持ってきているの。だけどまだまだ大丈夫そうだから、よければあなたたちが使って? 数は足りるはずよ」

選択権はダンカンにある。

ここで大鎌を――オパールを受け入れるか、拒否するか。

その場合は解雇することになるが、農夫たちの前で大鎌の利便性をはっきり見せたことで、大鎌を拒否したダンカンを解雇してもそれほどの反発は起こらないだろう。

悪魔の道具などといった言い訳も通用しない。

農夫たちは畔に並べられた大鎌を羨ましげに見ている。

ダンカンはちらりと大鎌を見てからオパールに視線を戻し、降参とばかり両手を小さく挙げた。

「お言葉に甘えてもよろしいでしょうか? その際は、皆に使い方を教えてくださらなければなりませんが」

「ええ、もちろんよ。簡単だから私よりもすぐに扱いが上手くなるわ」

叫び出したいほど嬉しかったが、オパールが澄まして答えると、ダンカンは声を出して笑った。

それからは予想通り、農夫たちはあっという間に大鎌の使い方を覚え、オパールは完全に役立たずと化したのだった。