軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4・2 退勤後のお勉強

「まあ、よかったじゃない!」

満面の笑みのルシールが、顔の前で両手をパンッと合わせた。

「ええ。あなたに指導してもらったおかげよ。シルヴァン様のお役に立てて嬉しいわ」

「うん、場所を提供している私も嬉しいよ」

アロイスが執務机から声をかけてくる。

なぜならここは、彼専用の個室だから。退勤後、ルシールに教えを請うための場所として提供してもらっている。

ルシールはヒラの魔術師だから、個室を持っていないのよね。彼女とふたりで、どうしようかと立ち話をしているところにアロイスが通りかかり、こうなった。

敵に借りを作るのは 癪(しゃく) だけど、逆に敵情視察をしていると思えばいいのだもの。

恐らく彼も、同じ目的なのだろうし。

ただ問題は、アロイスは本当に裏表がなく良い人っぽいこと。シルヴァン様に屈折した思いを抱いているようには、まったく見えない。

もっともシルヴァン様は裏の顔を完璧に隠せている。アロイスも同じタイプなのかもしれない。

「シルヴァンはすべてを自分でやりたい性質だからね」と、アロイスが話を続けた。

「それではいつか、手が回り切らなくなる。というか、今もそうだろ? 残業に休日出勤。いずれ倒れる。だから」と、彼は私に微笑んだ。「今回のことは、ものすごい快挙なんだ。ありがとう、ロクサーヌ」

「丁寧に教授してくれるルシールのおかげですわ」

ルシールが首を横に振る。

「シルヴァン筆頭魔術師様って、物腰は柔らかいけど仕事に関しては頑迷なのよ。よほどロクサーヌを信用したのだと思う」

「そうかしら」

シルヴァン様が今日は初めて笑ってくれた(たぶんね)けれど、それ以外は塩対応だもの。

でも、ルシールとアロイスのふたりが口をそろえるなら、期待をしてもいいのかも。

「ま、筆頭魔術師になると、細かい仕事は少なくなる。薬づくりなんかは王族のものしか受けないはずだ。違うかな?」

アロイスがそう言って私を見る。

ほら、こうやってシルヴァン様の仕事内容を探ってくる。残念でした。その手には乗らないわ!

「私がお答えしていいことか分かりませんわ」

「ん、そうだな。失敬」

アロイスは苦笑して頭をかいた。

ほんと、この人には気をつけないといけないわね。

「なるほど、そうなると作業補助より書類についてお教えしたほうがいいのかしら」

ルシールが困ったような表情で首をかしげた。

「恐らく陛下もそのような意図じゃないかな」と、アロイスが決めつける。

意図なんてないのにね。だけど誤解してくれているのは助かるわ。

「ルシール、作業のほうがいいわ。シルヴァン様はきっと教えてくれることはないもの」

「わかったわ。じゃあ予定通り、魔力が必要ない調合ね」

「よろしくお願いします、先生」

「もう、それはやめてってば」と、ルシールが笑う。

それから真顔になった、

「ロクサーヌはいつまで、魔法省にいるの?」と、尋ねた。

「わからないわ。決まっていないの」

「そう。できたら、ずっといてほしいわ。ここに勤め始めてから、今が一番楽しいの。いつも肩身の狭い思いをしてきたから」

やや悲し気な表情のルシールを見ながら、

「ええ。私も同じ気持ちよ」と正直な思いを伝えた。

オラスから離れ、彼に仕事を押し付けられることもなく、好きな人のそばにいられる。

それだけじゃなくて、退勤後は(オマケがいるけど)同年代の令嬢とふたりで楽しく過ごせる。

前世の記憶がよみがえる前の私は、こんな日々を送ることができるなんて微塵も考えていなかった。

だからこの幸せは、絶対に死守するの。

そのためにはオラスからの婚約破棄は必須!

どうしてもこちらからの申し出は、陛下に受け付けてもらえない。国内に王太子の妃に相応しい身分の令嬢が私のほかにいないのよね。

今はより一層、オラスに嫌われるようにがんばっているところ。

といっても、結構簡単。

彼が押し付けてくる仕事を完全無視しているだけで、加速度的に嫌われていっているのよね。

手間がかからなくて助かるわ。

私はシルヴァン様を愛でるので忙しいのだから!