作品タイトル不明
短編 『無限ガチャ』小説14巻発売記念SS 怪物とは何ぞや?
「ケケケケ! 常識的に考えれば互いに主張は正しい。けど、アタシ達には感情があってそれを割り切るのは難しいわけだ。だからこそ、素直に気持ちを吐露して、譲るべきところは譲るべきだろう?」
「はい……そうですね」
「まずは互いに話し合って歩み寄りたいと思います」
『奈落』最下層、喫茶店。
『奈落』最下層には購買や動物達(レベル9000もいる)と触れ合える喫茶店など店舗が多数存在していた。
その中でも現在、メラ、妖精メイド×2人がいる喫茶店は、隠れ家的店だった。
奥まった場所にあるため、人気は少なく、雰囲気も良い。
食堂など人気が多い場所ではし辛い話をするにはもってこいの場所だ。
メラは妖精メイド×二人から相談をもちかけられていた。
別に珍しい光景ではない。
メラを頼り、相談する妖精メイド達は多く、頼り悩みを解決してきた者達は大勢いる。
今回も妖精メイド×二人から相談を受け、メラが返答していた。
二人の妖精メイドは納得すると、
「ありがとうございます、メラ様」
「メラ様は『奈落』最下層の良心です。また何かありましたら、ご相談させてください」
「ケケケケ! 良心なんて大げさな。アタシはただ話を聞いて、思ったことを口にしているだけさ。また何かあれば話ぐらいは聞くから遠慮無く言うんだぞ」
「「ありがとうございます」」
妖精メイド×二人は、メラにお礼を告げると喫茶店を後にした。
残されたメラはぬるくなった紅茶のカップを取り、静かに口へと運ぶ。
再度カップを置いた後……頭を抱える。
(ケケケケケ……いや、『奈落』最下層の良心ってなんだよ? アタシはキメラで、むしろ心が分からない化け物枠じゃないのか?)
『UR、キメラ メラ レベル7777』――名前の通り彼女の体は多数の生物によって構築されている。体の部位、細胞ひとつひとつが独立した生物になっており、首や腕を切断されても再度、接続が可能。姿形を子供、四つ足にも変化させることができる。
『奈落』最下層ではモンスターなども多数居るが、その中でもメラは自分が『怪物より』だと自認していた。
にもかかわらず妖精メイド達の相談にのり、アドバイスをして、メンタルフォローなどをしている。
正直、『怪物より』の者がおこなう行為ではない。
(ケケケケ……別に頼られるのは嫌いじゃないし、仲間を助けたい気持ちもあるが……なんというか、アタシの立ち位置はもっとこう、『怪物!』、『化け物!』的ノリで、決して『奈落』最下層の良心枠ではないんだよな……)
自身のアイデンティティ――は言い過ぎだが、少々自分が考えている位置とはズレてしまっている。
故にメラは改めて自分を省みることにした。
……『怪物』は自分を省みるなどしないなんて、野暮なツッコミはなしだ。
(ケケケケ! 今後はもう少し、分かりやすく『怪物』っぽさを演出するか。食事は生肉を食べて、飲み物は生き血、姿も背中に翼をはやして異形感を前面に出すとか。あと、なにか問題が起きても自分からは首を突っ込まず仲裁もしない。これで少しは怪物らしさが出るだろう)
食事でより怪物っぽさが出る生き物の躍り食いにしないのは、周りに迷惑がかかるから。
生き血を飲む際も、カップを金属製、陶器など中身が見えないように配慮。
体中から触手、目玉を複数、獣首を生やすこともできるが、ライトの実妹ユメなどが目にして不快感を出させては不味い。なのでギリギリ許されそうな背中に翼で妥協した。
――こういう常識的に判断が下せる時点で『怪物』とは遠いのだが……本人は至って真剣なため気づかないふりをしてやって欲しい。
早速、メラはその日のうちから実行するようになった。
周囲の反応はというと……。
『イメチェンかな』と軽く思われただけで、特別怯えられることもなかった。
むしろ問題は他にあった。
メラが『奈落』最下層を移動中。
『UR 魔術師ラミア アーミラ レベル5000』――下半身が蛇で上半身が女性型のモンスターである。
肩に触れるぐらいのセミロングで、眼力は強いが顔立ちは非常に整った美少女だ。しかし、服装センスは『奈落』最下層でも尖っている。
胸をサラシで巻き、彼女にはサイズの大きい上着を着て、背中には『奈落』最下層に居たダンジョン守護モンスター『レベル5000 ヒドラ』と手に『UR ウラガン』を持ったライトが戦うシーンを描かれていた。
左腕の袖に『奈落』最下層特攻隊長 亜ー魅羅(アーミラ) 、右腕には絶対無敵一生涯忠誠上等 羅威頭(ライト) 様命と刺繍してある。
そんな彼女が『UR アサシンブレイド ネムム レベル5000』に喧嘩を売る。
「いつまでも調子に乗っているなよ、ネムム。いつかオマエの席は自分が奪い取って見せるから、マジ覚悟しておけ!」
「……? 貴女、誰? ごめんなさい、ライト様と地上任務で冒険者をしないといけないから、下品で、ガラの悪い輩まで覚えていられないの」
アーミラ、ネムムはまだ『奈落』最下層が、転移禁止で自由に行き来できない頃、パーティーを組んで逆進行するメンバーだった。
しかも、この二人は相性があまり良くない。
『奈落』最下層の者達は大抵仲が良いネムムが、あからさまに嫌みを飛ばす。
喧嘩っ早いアーミラは、ライト絡みの嫌味ということもあり、アイテムボックスから木刀型の魔術杖を取り出し叫ぶ。
「ザッケンナーテメェーコラ! そのすました顔をぼこぼこにしてやるよ! 爆豪火炎!」
「こんな廊下で攻撃呪文とか! やっぱり馬鹿は一度殺しておくべきね!」
『爆豪火炎』―― 戦術級(タクティックス・クラス) の中でも上位に入る攻撃魔術。爆発と火炎の合わせ技で大抵のモンスターに有効な攻撃魔術。
アーミラは廊下でそんな戦術級攻撃魔術を使用したのだ。
ネムムはこの攻撃を防ぐと、ナイフを抜き戦闘態勢のアーミラへと向き直る。
「…………」
いつもなら止めに入るメラは、気づかないふりをして廊下を移動した。
進んだ先に、アオユキに絡むナズナがいた。
「アオユキ! 見ろ! さっきアイスを買ったんだ! それを食べたら棒に『当たり』って書いてあってさ! もう一本もらったんだよ! これがその当たりでもらったアイスだ! 凄いだろ!」
「にゃー……」
「今、あたい、めっちゃくちゃ運が良いから、たぶんこれも当たりのアイスだぞ。あっ! もしかしてこのまま当たりのアイスを食べ続けたら一生アイスにこまらないじゃん! あたい天才過ぎだぞ!」
「んにゃ」
アオユキはナズナの相手が面倒で適当な返事をしていた。
彼女は通路にある手すりに座り、何が楽しいのか足をぶらぶらさせる。
ナズナは生返事のアオユキの態度を気にせず、話を続ける。
「そういえばアオユキの首輪って、長い部分がマジで尻尾みたいだな。これ、よくできているよな!」
「ぐにゃっ!?」
完全に油断していたアオユキは、首輪から伸びている部分をナズナに引っ張られた。
結果、首輪が片方に極端に引っ張られ、首を締め付けられて、手すりから落ちそうになってしまう。
これにはさすがのアオユキも、怒り、首輪を引っ張るナズナの手のひらをひっかく。
「ふにゃ!」
「痛! と、突然、何をするんだよ!」
「ふしゃぁぁぁぁぁッ!」
「ああぁあぁ! アオユキが何もしていないのにあたいを引っ掻いたぁぁぁッ!」
ナズナ的には突然、アオユキから理不尽な暴力を受けたと勘違い。
引っ掻かれて赤くなった手を押さえて、大声をあげて泣き出す。
メラは見なかったことにして、方角を変えて食堂へと移動する。
食堂の扉をくぐると……モヒカン達に、アイスヒートが絡んでいた。
「頼む! その『幸運の壺』を買ってきてくれ! 金なら払う!」
「アイスヒート様、顔をあげてください!」
「そもそも『幸運の壺』云々なんて地上でよくある詐欺商品なんですって」
「俺達は馬鹿話として笑い合っていただけで、絶対効果はありませんよ」
「万が一という可能性もあるじゃないか! だからどうかアイスヒートの不幸体質を祓うため買ってきてくれ! もちろん手間賃も払う!」
「いやいや万が一もありませんから!」
「ちょ、ちょっと待ってください! 土下座までしようとしないでくださいよ!」
自身の不幸体質に悩むアイスヒートが、モヒカン達の馬鹿話を耳にして、地上で売られている定番詐欺商品『幸運の壺』を購入して欲しいと懇願しているようだ。
詐欺だとモヒカン達が説得しても、『万が一があるかも』と縋って意見を変えず、土下座までしそうになっている。
モヒカン達はアイスヒートに土下座をさせないように声を張り上げて止めていた。
そんなモヒカン達が、メラの存在に気づく。
「メラ様! 助けて下さい!」
「アイスヒート様が無茶苦茶言っているんですよ!」
「メラ様! ちょうどよかったです! アオユキ様がナズナ様を泣かせたらしくて!」
「メラ様! ネムム様、アーミラ様が喧嘩をしていて! 私達では止められません!」
「…………」
モヒカン達の声に近くを通りかかった妖精メイド達もメラの存在に気づき、アオユキ、ナズナ、ネムム、アーミラを止めて欲しいと声をかけてきた。
メラは皆の助けを求める声を聞いて、黙って天井を見上げたのだった……。
周囲から助けを求められ、無視する訳にもいかず、メラが対処に動く。
「ケケケケ! アーミラ、オマエが短気でネムムをライバル視しているのは理解している。しかし廊下で暴れるのはさすがにやり過ぎだ。他の者達が被害を受け、怪我をしたらどうするつもりだ。それとネムム。オマエが絡まれて嫌味の1つも言いたくなる気持ちは分かるぞ。けど、ライトさまの名前を出すのは駄目だろ。ただでさえ地上で一緒に冒険者をしていることを皆が羨ましく思っているんだ。にもかかわらずライトさまの名前を出したら、いくら嫌味だと分かっていても、アーミラが怒るのは当然だと思うぞ」
「ナズナさま、アオユキさまは理不尽に引っ掻いた訳ではありません。突然、首輪を引っ張り首を絞められたから怒っているのです。今回はナズナさまに非があると思いますよ。アオユキさまも、ナズナさまの相手が面倒だからと適当に『にゃ~』と鳴いて流すのは不味いと思いますよ。嫌なことは嫌だとしっかり説明するのが筋かと」
「アイスヒート。高レベルで、副メイド長のオマエがモヒカン達に土下座しようとするのは形を変えた脅迫と思われてもしかたないぞ? 立場を考えろ立場を。だいたい、モヒカン達がさっきから何度も言っているが『幸運の壺』は地上でよく使われている詐欺商品で効果は万が一にもないんだ。だいたい常識的に考えて、ご主人さまの『無限ガチャ』カードにもない『幸運の壺』なんて物が地上に存在するはずないだろう」
メラの常識的な発言に騒ぎを起こしていたアーミラ、ネムム、アオユキ、ナズナ、アイスヒートは頭を冷やされ落ち着く。
それぞれ謝罪の言葉を告げると、アーミラ&ネムムは『奈落』最下層の内政を担当するメイに連れられて説教を受けるはめに。
ナズナは事情を知ったエリーが首根っこを掴まえて、同じく説教を受けるため連行。
アイスヒートはモヒカン達に謝罪へ。
この謝罪をモヒカン達は受け入れ、一通りの騒動は落ち着きを取り戻したのだった。
☆ ☆ ☆
――後日、『奈落』最下層にある隠れ家的喫茶店、テーブルにメラは座っていた。
彼女はいつも通りの姿に戻り、湯気が昇る紅茶のカップを手に取り、口をへと運ぶ。
カップをソーサーに戻すと、彼女は頭を抱え、漏らす。
「ケケケケ……アタシ、化け物向いていないのかも……」
モヒカン達、妖精メイド達の助けを拒絶できず、メラは問題を無事に解決した。
結果、周りからさらに常識人、『奈落』最下層の良心、困ったらメラ様を頼れなどという風潮が強化されてしまった。
その事実に彼女は頭を抱えてしまったのだ。
暫くメラは一人、『自分は化け物に向いていないのかも』と悩み自問自答するのだった。