作品タイトル不明
13話 深海ダンジョン最下層
『どりゃぁ!』
ナズナ達が対『C』用『ダンジョンコア爆弾(仮称)』の攻撃を警戒し、罠を破壊しながらダンジョン奥地へと降りて行く。
対『C』用『ダンジョンコア爆弾(仮称)』以降の通路に設置されている罠も、基本的には極悪な物だ。
並のレベルの者なら即死。
高レベルでも、一歩間違えば重傷、命を落としかねない。
しかし、突き進むのはナズナだ。
『摂理をねじ曲げて傷を癒せ! プロメテウス!』
レベル9999に傷を負わせるほどの極悪な罠攻撃であっても、プロメテウスの力で傷を癒やし、突き進む。
たとえ、大半のナズナが死亡しても、彼女が1人でも生き残っていればプロメテウスの力で全員が復活、傷もなかったことになる。
罠を仕掛けた側からすれば悪夢以外の何物でもない。
唯一、救いがあるとしたら……。
「うがぁ!? また罠にはまったぞ!」
「なぁなぁ、もしかしてあたい達、設置されている罠に全部ひっかかっていないか?」
「これだけ人数が居れば、引っかかるのは当然だろ。少し考えれば分かることじゃないか、馬鹿だな!」
「なにおぅ! 馬鹿って言った奴が、馬鹿なんだぞ! 馬鹿!」
「あぁ! 今、馬鹿って言った! だったら、オマエも馬鹿じゃないか!」
小さな罠から、大きな罠までナズナは設置されている罠全てに引っかかっていた。
罠を仕掛けた相手が見たら、ある意味で達成感のある光景ではないだろうか?
……逆に罠を無駄に消費されて落ち込む光景かもしれないが。
ナズナ達は口喧嘩をしつつ、通路を抜ける。
彼女達が向ける先に大きな観音開きの扉の前に到着。
その大きさは巨人が出入りに使用できるほどだ。
「おおお、大きな扉だな!」
「よっしゃ! 先に進むぞ!」
『おおぉ!』
ナズナ達は無警戒に扉へと近づく。
1人が代表して扉を押すが……開かない。
「? 開かないぞ?」
「鍵がかかっているんじゃないか?」
「でも、途中にあった扉には鍵はかかっていないかったぞ? 押す力が足りないんじゃないか?」
「なるほど! 力が足りないのか。なら、もっと力を込めて押せばいいんだな!」
ナズナはより力を込めて、押す。
扉がギシギシと歪み、蝶番部分が異音を鳴らし出した。
「まだ開かないのか?」
「早く開けろよ!」
「代わりにあたいがやってやろうか?」
「あたいもやってみたい!」
見物している他ナズナ達がまたされて暇になり、声を上げ出す。
一部、楽しそうに見えたナズナが扉を押すのに参加し出した。
扉は巨人が出入りできるほど大きい。金属製というのもあり、非常に重かった。
しかし、複数人のナズナ達が押し出すせいで、耐えきれず蝶番部分ごと破壊。金属扉をへこませて、地面へと倒れ込んでしまう。
金属扉が地面に倒れて、音を鳴らし、振動が響く。
『…………』
ナズナ達は『やば!? 壊しちゃったぞ!』と、表情を一瞬、固めてしまうが、『考えてみたら、ここは敵のダンジョンだから、壊しても大丈夫だったな!』と、すぐに自己解決した。
一連の様子をエリーが見ていたら、
「いくら敵のダンジョンの扉だからといって、乱暴に壊して入るなど淑女としてどうかと思いますわよ?」
小言の一つも言われていただろうが。
扉を壊した先、ダンスパーティーが開催できるほど広く天井が高い大部屋の中心に、1人の男性が立っていた。
竜人帝国側マスターの1人、まとめ役、リーダー役を務めていたヒロだ。
ヒロは、 人種(ヒューマン) でこれから舞台で王子役でもやるかのように、華美な衣装を身に纏っていた。一般的な 人種(ヒューマン) がそんな衣装に袖を通したら衣装負けするが、彼は負けるどころかあつらえたように似合っている。
顔立ちも整い女性と間違ってしまうほどの美形で、背も高く、衣服の上からでも分かるほど無駄な脂肪が無いスラリとした体型をしている。
人種(ヒューマン) 王国のリアル王子であるクローと彼が並び、『どちらが 人種(ヒューマン) 王国の王子か?』と質問したら、100人中100人ががヒロを『 人種(ヒューマン) 王国の王子だ』と断言しただろう。
それだけヒロから輝くような王子様的オーラが醸し出されているのだ。
仲間を殺害し、浴びた返り血が衣服に付き、ナズナが来るまで、追い込まれた小動物のように思い詰めた表情をしていた
しかし、彼女が無理矢理、扉を破壊、入ってきたことに呆れた表情で思わずツッコミを入れてしまう。
「……その扉は押すのではなく、引けば普通に開きましたよ」
「開いたんだから、どっちでも同じだろう!」
「そうだ! そうだ!」
「だいたいオマエ、誰だよ! 敵か!?」
「…………」
ナズナの態度に若干呆れつつ、軽く溜息をついてから口を開く。
「マジックアイテム越しの言動、ゴウさんやセスタくんから聞いていた通り、強さはともかく性格は聞き分けの無い子供そのものですね……」
ヒロは返り血がついた顔を片手で押さえ、独り言を漏らす。
「とりあえず、見た感じ貴女さえ殺せれば、あとはなんとかなりそうですね。貴女さえなんとかすれば、今のボクなら、残りの者達を倒すのは難しくありませんから。たとえ皆を殺してもボクだけは絶対に生き延びて見せる……ッ。ボクが死ぬなどあってはならないんだ……ッ!」
「うん? オマエ、あたいに勝つつもりか?」
病的な表情で自分に言い聞かせるように漏らしていた呟きを聞いたナズナが、疑問を抱き尋ねた。
ヒロは目の焦点をナズナに合わせて、凄惨に笑う。
「ヒソミさん、カイザーさんの献身のお陰でボクはレベル9999に到達しました! レベルはカンスト! 新しい力も手に入れた! 今のボクに敵う者は『C』しかいません! 唯一、驚異なのは貴女だけ! 貴女さえ倒すことができれば、ボクはここから抜けだし、生きることができるんだ!」
「いや、無理だろ。だってオマエ、弱いし」
「は?」
ヒロの叫びを聞いて、ナズナは怯えも、怒りも、悲しみもせず、ただただつまらないクイズに返答するように告げた。
この指摘にヒロが狂気的な笑みを浮かべた表情のまま固まった。
そんな彼を気にせずナズナ達が感想を言い合う。
「レベル9999っぽくて、そこそこ強そうだけど、全然、怖くないんだよな」
「だな。レベルは高いけど、薄っぺらい? って感じだな」
「そうそう! なんかこいつの強さって薄っぺらいぞ!」
「メイやエリー、アオユキもあたいより弱いけど、本気で戦いになったら絶対に油断できない迫力? ふいいんき? があるもんな!」
「ご主人様なんて、そういう迫力どころか、底知れない穴を覗き見るような恐怖すら感じるぞ。それに比べるとこいつは強いは強いけど、浅い感じがするんだよな」
『奈落』最下層、最強のナズナ達の感想に、仲間だったカイザー、ヒソミをその手にかけてまで『生』にしがみつき瞳の焦点をズレていたヒロの目が正常に彼女を捉えた。
その瞳には仲間を殺害し到達したレベル9999の自分を馬鹿にする言葉を耳にし、怒りを宿す。
「こ、このメスガキめ……ッ。分かったような口を利いて……! なら、その身でボクの実力を味わわせてやりますよ!」
「う~ん……オマエと戦ってもつまんなそうだけど、ご主人様やメイ達に手を出すっていうし……。とりあえずぶっ飛ばすか!」
殺意を滾らせたヒロを前に、ナズナは最初こそ面倒そうな態度をとった。
しかし、彼が大好きな ライト(ご主人様) 、大切な仲間達に手を出すと宣言。
なので面倒でも、自分が倒そうとナズナ達が大剣プロメテウスを構え出す。
ヒロがライトの最後の復讐相手だということをすっかり忘れ、彼女は本気で彼を倒そうとしていた。
「ナズナ! ストップ!」
『!? ご、ご主人様! め、メイ!』
ナズナ達が破壊した観音扉の向こう側から、ライト、メイがギリギリ彼女に追いつき声をあげた。
お陰でナズナが、ライトの最後の復讐相手ヒロを倒す前にどうにか追いつくことができたのだった。