軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『無限ガチャ』小説10巻発売記念短編 ユメとナズナが喧嘩!?

「ユメとナズナが喧嘩!?」

『奈落』最下層、執務室。

僕は溜まった書類を処理するため、執務室の机にかじりついていた。

そんな僕に、執務室に顔を出したメイが『ユメとナズナが喧嘩をしてしまった』と報告しに来たのだ。

メイはユメとナズナの面倒を見る妖精メイドから報告を受け、自分には手に余ると判断し僕に助けを求めるため報告してきた。

その報告を聞いて驚いて声を上げてしまったのだ。

僕は机にペンを置きつつ、未だ信じられないと言いたげに答える。

「あの姉妹のように仲が良い2人が、喧嘩するとは……。本当に珍しいね」

「軽い言い争いならありましたが、今回のように2人が正面から争う形は初めてでして……。私の方で対処できれば良かったのですが……。申し訳ありません、力が至らず……」

メイは心底申し訳なさそうに頭を下げた。

僕は微苦笑を漏らしつつ、軽く手を振る。

「2人が喧嘩したのはメイの責任じゃないし、ナズナはともかく、もう片方は僕の妹だからね。なかなか口を出し辛いのは理解できるから。気にしなくてもいいよ」

「ありがとうございます」

「それで2人はどういう理由で喧嘩をしているの? お菓子の取り合いとか?」

「それが――」

メイの口から喧嘩の原因を聞く。

お菓子の取り合いなどの単純な問題ならともかく、少々面倒な喧嘩の理由に僕も頭を押さえる。

確かにこれは妖精メイドとメイ自身も安易に口を出せる問題ではなかった。

とりあえず、放置する訳にもいかず、僕はメイに頼み絶賛喧嘩中の2人を執務室に呼んでもらうことにしたのだった。

☆ ☆ ☆

「むす~」

「ぷい~」

メイに頼みユメ、ナズナを執務室を呼び出す。

いつも目にすると仲が良さそうにしている2人だったが、今回は違う。

互いに背を向け、腕を組み、頬を膨らませていた。

いかにも『わたし達、ただいま喧嘩中です』と表現しているようだった。

僕は執務室の椅子から立ち上がり、背中を向け合う2人の前へと移動。

2人の前に立つと改めて声をかける。

「2人とも喧嘩していると聞いたけど、本当なんだね。こほん、それでメイから喧嘩の原因を聞いたんだけど……。喧嘩の原因が『自分の方が相手より大好きだと思っている』って本当なの?」

「絶対、ユメの方が、ナズナちゃんがユメを好きより大好きだもん!」

「そんなことないぞ! 妹様があたいを好きな気持ちより、絶対にあたいの方が妹様をだい好きな気持ちの方が大きいぞ!」

2人は互いに背を向けたまま僕の問いに答えてくれた。

初め、メイから喧嘩の原因を聞いた際、頭上に『?』と浮かんだ。

改めて説明を聞くと、ユメはナズナが大好き、ナズナはユメのことが大好き。

だが、ユメ曰く『ユメの方がナズナちゃんがユメを好きって思っているより、大好きだもん!』と主張。

この主張に対してナズナは『あたいの方が、妹様があたいを好きって思うより絶対に大好きだぞ!』と主張。

互いに『相手が自分を好きと思う気持ちより、自分が相手を思う気持ちの方が上』と譲らず、喧嘩に発展したらしい。

(なんか面倒なカップルの痴話喧嘩に巻き込まれたような気分だな……)

とはいえユメとナズナは共に真剣で、2人の言い分を茶化す雰囲気ではない。

僕は軽く咳払いをしてから無難な答えに着地するよう促す。

「僕達からするとユメもナズナも、お互いに大好きだって気持ちが伝わってくるほど仲が良く見えるけど、それじゃ駄目なのかな?」

「駄目! ユメの方がナズナちゃんが大好きじゃないといけないの!」

「駄目だぞ! あたいの方が妹様が大好きなのに! 小さくされるなんて許せないぞ!」

落とし所を提示したが、ユメ、ナズナはそれを拒否。

しまいには背を向けて頬を膨らませていたのに、互いに向き合い言い争いを始める。

「違うもん! ユメの方がナズナちゃんのこと大好きだもん!」

「いーや! あたいの方が妹様、大好きだ! だって、あたいはこれぐらい妹様が大好きだし!」

ナズナが限界まで両腕、指先まで伸ばし、左右に振ってユメに対する気持ちを表現した。

「ならユメ、ここから、ここまでナズナちゃんのことが好きだもん!」

それに対してユメは、執務室の端から端から端まで、移動して、ナズナに対する大好きな気持ちを表現。

ナズナはユメの行為を非難する。

「ずるいぞ、妹様! なら、あたいもここから、ここまで!」

「ナズナちゃん、マネするなんてずるい!」

2人が再び喧嘩を再開してしまう。

妖精メイドとメイも、2人の喧嘩再開におろおろしするかない。

僕自身、年下の2人を女の子の喧嘩を止める経験などなく、正直どうすればいいか分からなかった。

(レベル9999になっても解決できない問題はあるんだな……)

思わず、現実逃避してしまうほどだ。

とはいえ、このまま2人の喧嘩を放置する訳にはいかない。

なので彼を頼ることにする。

(彼なら2人の喧嘩を上手く仲裁してくれるだろう)

僕は早速、『SR 念話』で早急に執務室へ足を運んで欲しいとある人物にお願いした。

その人物とは……。

☆ ☆ ☆

「ユメ様、ナズナ様、お二人が相手を思う気持ちは非常に素晴らしく、尊いものです。故にそれをひけらかし、物理的な大きさを表現しあうものではないことはお二人ならご理解いただけるかと思います」

「はい、ユメもそう思います……」

「あたいも、そう思いますです……」

僕に念話で急遽呼び出された『レベル5000 雷鳴の統括者 ウルシュ』が、ユメ、ナズナの前に座り、こんこんと二人を諭していた。

ウルシュは見た目こそ天使の輪を持つ可愛らしい犬だが、雷系攻撃魔術を極めた魔術師犬である。

『禁忌の魔女』エリーですら、雷系攻撃魔術においては一目置く人物だ。

なおかつ『統括者』の名の通り、他者の管理、指示、動かす技能にも長けているため『奈落』ダンジョンの管理統括を任せていた。

僕が彼を呼び出し、喧嘩の理由を説明すると、ユメ、ナズナに対してこんこんと話をし始めたのだ。

可愛らしい天使の輪っか付き犬の姿にも関わらず、声は非常に渋く、思慮深い。

そんなウルシュの渋い声、真っ当で、真面目な意見を耳にした二人は、先程の興奮した様子が嘘のように気まずそうに彼の話を聞いていた。

ウルシュは声を荒げず、二人に優しく話しかける。

「別に二人を非難している訳ではありません。気持ちを表現することも本来なら悪いことではないとわたくしは考えています。では、何が問題か? お二人は分かりますか?」

(ウルシュにお願いして正解だったな。まさかこれほど早く二人が落ち着いて、話を聞くようになるなんて)

僕はウルシュの手腕を眺めながら、ユメとナズナが仲直りするのが二人の態度から時間の問題だと考えた。

メイ、妖精メイド達に視線を向けると、彼女達も同意見らしく胸をなで下ろしていた。

実際、この後すぐウルシュの説得が聞いて、二人は互いに謝罪。

無事に仲直りしたのだった。

☆ ☆ ☆

――ユメとナズナが無事に仲直りして数日後。

再び、メイが申し訳なさそうに『奈落』最下層、執務室に顔を出し報告をしてくる。

「ユメ様、ナズナが再び喧嘩を始めてしまって……。今回の喧嘩の理由は『どちらの方が可愛いかと』という内容でして……。ユメ様はナズナの方が可愛いと。ナズナはユメ様の方が自分より可愛いと言って譲らないのです」

「二人共可愛いじゃ、駄目なのかな……」

メイの報告を聞いて僕は再び頭を抱えた。

いつまでも頭を抱えている訳にもいかず、指示を出す。

僕に出来る事など一つしかない。

「ウルシュを呼び出して、ユメ、ナズナの仲裁をするよう指示を出してくれ」

「畏まりました」

メイは僕の指示に一礼すると、再度ウルシュにユメとナズナの喧嘩仲裁を依頼するため執務室を退出するのだった。