作品タイトル不明
10話 ライトvsルカン1
「貴方はいったい何者なんですかね?」
「……それはこっちの台詞だけど」
強制的に転移させられると、僕は天井、床、壁、全てがごつごつとした洞窟のような場所へと移動していた。
暫く周囲を観察していると、通路から一人こちらに向かっているの者が居ることに気づく。
そちらに視線を向けると、身長は170センチ後半だろうか。
禿頭に眉毛まで剃っている長身の男性が、のっそりとした動作で足を踏み入れた。
その動きはまるで最初から僕がこの広場に居ることを分かっているような動きだった。
彼が姿を現すと、先程の台詞を告げてきたのだ。
(ミキから教えてもらった外見的特徴から考えると、彼がルカンで間違いないだろうな)
『奈落』最下層、そのさらに下、地下牢に捕らえている元魔人国側『ますたー』の一人であるミキから、知っている限りの情報を提供してもらった。
その中に外見的特徴が一致する名前、予想されるレベルや能力を思い出す。
もちろん、ミキからの情報を鵜呑みにせず、こっそり『SR 鑑定』を解放。
『レベル80?? ??歳、人種、男性、恩恵『水中特化師』 ルカン』
一部、レベル等がレジストされたが、大凡のデータを鑑定することができた。
やはり彼がルカンで間違いない。
(恩恵が『水中特化師』? 意味はなんとなく分かるけど、ちょっと意味が分からない恩恵だな……)
『水中特化』という名なら、なんとなく意味が把握できた。
しかし『師』が最後についているせいで、途端に『?』状態になる。
僕が相手の恩恵を考察していると、ルカンが僕の返答も気にせず一方に語りかける。
「立場上、 物語(シナリオ) は全て把握しています。緊急で 物語(シナリオ) が追加されたなんて話も聞いていません」
「…………」
「いえ、貴方だけではない。ヒロ君達、アーク、『巨塔の魔女』など……私が把握していないものが多すぎますよ。いくら 物語(シナリオ) に冗長性を持たせているからといって、逸脱にもほどがあるんですよね」
( 物語(シナリオ) ? 冗長性? こいつは本当に何を言っているんだ?)
「『C』様の復活までにはまだ数年あるのに、 物語(シナリオ) が始まる前に、『白の騎士団』が倒され、ドワーフ王国にある過去文明遺跡の人造 神話級(ミトロジー・クラス) 兵器の破壊。ここまではまだ容認できるのですが……魔人国、そのマスター達を全滅。棺の相手まで倒すとは……。さらに『巨塔の魔女』のせいでヒロ君達が追い詰められてアーク開発が加速し、この星から飛び立つ計画まで進むなんて……。本来なら絶対にありえない事態なんですよ?」
(『しー』様!? こいつドワーフ王国が長年隠していた過去文明遺跡があることを知っているだけじゃなくて、そのほぼ最下層にいた人造 神話級(ミトロジー・クラス) 兵器――蛇擬きのことも知っている!?)
ルカンの『しー』様、『ドワーフ王国にある過去文明遺跡の人造 神話級(ミトロジー・クラス) 兵器の破壊』、『魔人国の棺』は恐らく暴走していたレベル9999のことだろう。そんな彼の台詞を聞いて、僕は驚愕と同時に困惑してしまう。
(ミキの話では、竜人帝国側『ますたー』達は、『しー』という存在と敵対する者達の集まりだったんじゃないのか? にもかかわらず、ルカンは『しー』様と口にしている……)
わざわざ『様』をつける理由など、ひとつしかない。
(ルカンは『しー』の仲間で、竜人帝国側『ますたー』達を内部から監視、報告などをするスパイだったのか)
しかも彼の口ぶりから、『しー』と親しい、信頼を寄せられている忠実な部下のようだった。
心臓が無意識に加速し、臓腑が冷たい手で撫でられているように震え出す。
(こいつ……ルカンは今まで出会って来たなかで最も『この世界の真実』を知る人物だ!)
『しー』という存在は、ミキの話を信じるなら、『神』のような存在だ。
彼女曰く『C様にミキィの理想のハーレムや理想の相手を作ってもらうお願いをしたい』云々ということを口にしていた。
つまり、そんな馬鹿げた願いでも叶えられる力を持つ存在だということだ。
魔人国側『ますたー』達はミキのように大なり小なり、『しー』に願いを叶えてもらうためその存在を崇拝していた。
対して竜人帝国側『ますたー』達など、『しー』を嫌いその存在から逃れるため、宇宙に出て新しい星に移住を考えるほどだ。
そんな神的存在である『しー』にルカンは最も近い存在だ。
『この世界の真実』を誰よりも知っていてもおかしくない。
またそれ故、恐らくルカンにとって竜人帝国側『ますたー』達もただのコマにしか過ぎないのだろう。
声の調子からありありと伝わってくる。
そんな彼が異物を見るような視線を僕へと向けて問う。
「もう一度、聞きます。貴方はいったい何者なんですか? 最初、私は今回の 物語(シナリオ) 破綻の原因は『巨塔の魔女』が原因だと考えていました。しかし、新たなアークを生みだし、私達の乗っていたアークにぶつけて落とすなんてマネをした貴方を見て、その考えが間違いだと確信しましたよ。本来、『C』様のお乗りになる予定のアークを新たに生みだし、さらには撃墜させるようなマネは、 物語(シナリオ) 破綻の原因となっている異物的存在にしか絶対に不可能だと」
「……僕こそ、もう一度、聞く。『それはこっちの台詞だ』」
ルカンに対して睨み返し、杖を手に構えた。
両親、村人達を皆殺し、故郷を破壊し尽くしたヒロへの復讐心は忘れていない。だが、同じぐらい、僕はこの世界の『真実』を知りたいと考えている。
故にここで捕らえて、エリーに記憶を読んでもらう必要がある。
「殺しはしない。捕らえて知っている情報を全て吐いてもらうぞ!」
「こちらの台詞なんですよね……。そのためにわざわざアークのコアを破壊してまでこの私達お手製のトラップダンジョンに強制転移させたんですから。結果、他の皆さんも巻き込んでしまったんですが……。まぁ許容範囲ですよ」
ルカンは台詞を告げると、指を鳴らした。
彼の指音に反応して扉が閉まる。
次に左右の壁から大量の海水が吐き出されていく。
『コアを破壊して』、扉がしまり海水注水など気になる台詞、変化に浮き足立つ。
一方、ルカンは余裕の態度で、宣言してくる。
「まず貴方を捕まえて情報を吐き出させて始末。そして、なるべく正規 物語(シナリオ) に戻すように努力しましょうか」