軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9話 エリーとメイと、

『ギョギョギョ!』

「切り裂きなさい! 風神乱れ切り!」

戦略級(ストラテジー・クラス) 攻撃魔術『風神乱舞』の下位互換、『風神乱れ切り』。

無数の風の刃が直線上の敵を切り刻む。

膝まで浸かる海水に足を着けながら、我先に『巨塔の魔女』エリーに向かって、醜い半漁型モンスターが群がってきた。

しかし、彼女の攻撃魔術によって一瞬でばらばらに刻まれる。

だが、敵はそれだけではない。

エリーを潰すためか、天井から巨大なナマコが落ちてくる。

彼女は咄嗟にその場から退避。

地響きと共に海水をシャワーのように巻き上げる。

当然、エリーは頭から被ってしまう。

大型ナマコ達の攻撃はそれだけでは終わらない。

口から複数の触手をエリー目がけて吐き出す。

彼女は海水をたっぷりと浴びつつ、着地後すぐに攻撃魔術を使用する。

「気持ち悪い攻撃をしないでくださいまし! 大地の万槍(アース・ランサー) !」

戦略級攻撃魔術、 大地の万槍(アース・ランサー) ――文字通り地面から万の槍が突き出て敵を殺害する攻撃魔術だ。

大地から複数の槍が大量に作り出され、巨大ナマコ達を触手ごと切り裂き、貫き、絶命させた。

しかし、エリーの攻撃は終わらない。

背後からイソギンチャクを背負った巨大蟹達が迫って来ていた。

巨大蟹達の殻は並の鎧以上で生半可な攻撃では傷一つ付かない。

その巨大な鋭い爪は鋭利で、簡単に鋼鉄の鎧を切断してしまう。

極めつけは背負っている巨大イソギンチャクだ。注射針のような触手を複数持ち、そこから毒を飛ばしてくる。

毒を浴びて、激痛にのたうち回っている間に巨大蟹が爪で切断するのが必勝パターンだった。

エリーは振り返ると苛立った表情で魔術を唱える。

「 時空の猟犬(ヘル・ハウンド) ! あの蟹達を全部始末してくださいまし!」

『ガウ!』

戦略級攻撃魔術、 時空の猟犬(ヘル・ハウンド) ――5匹の大型猟犬が敵へと襲いかかる。一度この猟犬に捕捉されると、たとえ地の果てに逃げても全匹倒さない限り、時空を越えて辿り着き殺そうとする。唯一助かる方法は倒すことだけだ。

時空の猟犬(ヘル・ハウンド) ×5匹は、命令通り、蟹達を巨大なイソギンチャクごと噛み千切り始末していく。

これで背後の敵は全滅するだろう。

エリーはようやく転移してから一息つくことができた。

お陰でようやく愚痴を漏らすことができる。

「強制的に転移されたのは理解しますわ。この場にわたくしだけが転移したのもまぁいいですの。ですが……わざわざこんな気持ち悪いモンスターが多い場所に転移させますの!? しかも海水が中途半端にあるせいで服がずぶ濡れになりますし!」

エリーが転移すると、まず膝まである海水に着地。

中途半端に衣服が濡れた。

その後、気持ち悪いモンスターの戦闘で海水を浴びて、頭からつま先まで万遍なくずぶ濡れになった。

衣服を乾かそうにもモンスターが絶え間なく攻めてきたのでそんな余裕はなく、海水でべたべたした状態でずっと戦っていたのだ。

エリーは一通り文句を付けると、空中へと飛行。

飛行後、魔術で体、衣服を綺麗にする。

(ほぼ間違いなく、強制転移させられたのはわたくしだけではありませんわ。ライト神様達もこのダンジョンのどこかに居るはずですの。まずは皆様、とくにライト神様との合流を急ぎませんと)

エリーはライト達と連絡を取るため念話、転移、千里眼などを使用したが不発に終わった。

恐らく地上に取り残されたアイスヒート達に連絡を取ることもできない。

だが彼女は落ち込むことなく、すぐに次の行動を決定した。

ライト達との合流を優先することを選択したエリーだったが……。

彼女は不安そうに髪の毛をいじる。

(魔術で衣服、体を乾かすのは便利ですが、海水で髪が傷んだままですの。ライト神様と合流する前にできればお風呂に入って髪の毛のケアをしたいですわ……)

愛しい人には常に最高の自分を見て欲しい。

故にエリー的には海水で痛んだ髪状態でライトとは顔を合わせ辛かった。

とはいえ、そんなことを言っている暇は無いことも理解しているが。

『キシャァアァァァッ!』

空中で髪を弄りながら、エリーはつい『髪トリートメント魔術』の構築を考えてしまった。

そんな彼女を襲うため、再びモンスターが姿を現す。

今度は目、鼻はなく、巨大なミミズのような細長い巨体に、口にはびっしりと細かい歯がついたワーム型モンスターが複数体、姿を現した。

エリーは再び現れた気色悪いモンスターにげんなりした表情を作る。

「どうしてこうも気色が悪いモンスターしか襲ってきませんの? どうせならもっと可愛らしいとか、ふわふわ、もこもこなモンスターが襲ってくればいいですのに」

だが、実際、可愛らしいモンスターが襲ってきたら、倒すのにためらいが生まれるかもしれない。

なら、気持ち悪いモンスターのままの方がいいかもとエリーは余計なことを考えながら攻撃魔術を放つのだった。

☆ ☆ ☆

「…………」

「…………」

ダンジョン大広間。

『SUR 探求者メイドのメイ レベル9999』のメイは、頭からつま先まで黒い男性と向かい合っていた。

相手は竜人帝国側『マスター』の一人、 黒(ヘイ) だ。

黒髪で、顔は黒い目隠しで覆っている。

腰から刀を差し、現在は抜いて黒い刃をメイへと向けていた。

アーク落下現場で一瞬とはいえ互いに顔を合わせている。

どちらも相手が自分達の敵だと理解していた。

ちなみにメイは『巨塔の魔女』の使者として動いた経験があるため、顔を隠してはいなかった。

「――――」

メイが動く!

『 魔力糸(マジック・ストリング) 』で 黒(ヘイ) を拘束するため、素早く攻撃。

並の者なら何をされたか分からないまま、拘束されてお終いだが――。

黒(ヘイ) は構わず自分に向けられる『 魔力糸(マジック・ストリング) 』へ頭から突撃する。

柄、刃まで黒い刀を動かし、『 魔力糸(マジック・ストリング) 』を切断。

そのままメイへと襲いかかる!

「くっ!」

彼女はさらに『 魔力糸(マジック・ストリング) 』で壁を作り出し、目隠し。

黒(ヘイ) は黒刀であっさりと壁を切断するが、メイは既にその場におらず、また狙いは防御ではない。

彼女は切断された『 魔力糸(マジック・ストリング) 』を囮に、本命の糸を紛れ込ませて襲う。

「!?」

しかし、その本命の『 魔力糸(マジック・ストリング) 』すら 黒(ヘイ) は黒刀で切って捨てた。

目隠しをしているにもかかわらず、その動きには一切の迷いがない。

メイは軽く溜息を漏らす。

(私の天敵ですね。相性が悪いです)

メイはレベル9999とレベルは高いが、あまり戦闘は得意ではない。

さらに相手の黒刀はあっさり『 魔力糸(マジック・ストリング) 』を切断してくる。

本来、早々簡単に切断できるものではないのだが。

(さて、どういたしましょうか。早くライト様達と合流したいのですが……)

恐らく自分と同じように強制転移させられたライト達と合流したいが、まずは目の前の敵、 黒(ヘイ) を倒さなければそれもできない。

(同じ部屋に転移したのがライト様だったら、ありがたかったのですが……)

メイはそんな益体の無いことと一緒に、目の前の敵、 黒(ヘイ) を倒すためのプランを高速で思考するのだった。

ナズナ、アオユキ、エリー、メイがそれぞれの状況に置かれている頃、ライトはというと――。

☆ ☆ ☆

「貴方はいったい何者なんですかね?」

「……それはこっちの台詞だけど」

メイ達と同じように強制転移させられたライト。

彼は最初、自分しかいないと考えていたら、先にある通路から一人の男性が姿を現した。

禿頭に眉毛まで剃っている長身の男性が、のっそりとした動作で足を踏み入れた。

その動きはまるで最初からライトがこの広場に居ることを分かっているような動きだった。

そして、先程のような台詞を問いかけてきたのだ。

ライトは彼の言動を一つも見落とさないように目を細め最大限警戒するのだった。