作品タイトル不明
3話 前倒しの前倒し
「ふざけるな! どうして我々だけでアークに乗り込ませるんだ! 奴隷を連れて行かないと、移住後の星で誰を働かせるつもりだ! 我々、高貴な竜人種に ヒューマン(劣等種) のように土弄りをしろとでも言うのか!?」
「そうだ! そうだ! 第一、奴隷がいなければどうやって移動中、暇な時間を潰せばいい! 奴隷を嬲り、宇宙空間に放りだしたらどのように死ぬのか。初めて見る死に様を楽しみにしていたのだぞ!」
「アアァッ! 知るか、ボケ共がァ! いいからさっさとアークに乗り込め! それとも今すぐ俺様に殺されるか、ここに残って飢え死ぬか、目覚めた『C』に嬲り者にされるか。好きな死に様を選べやァ!」
プロジェクト・アークに乗り込める竜人種上位者達が、元魔人国側『マスター』の一人、ドレッドヘアーのゴウに食ってかかった。
ゴウは竜人種上位者達をルカンの 恩恵(ギフト) の力を借りて、アークが隠されている海中ダンジョンへと輸送していた。
ゴウだけではない。
竜人国『マスター』のヒソミ、セスタ、ヒロ、ルカンも手分けして、彼のようにアークに乗り込む人員、最終物資の積み込みを急ぐ。
カイザーと 黒(ヘイ) はアークの起動準備中である。
「だいたいよ、奴隷すら乗せずドタバタ乗り込むことになったのは、オマエらが抗議派の動きをしっかり監視していなかったせいだろうがァ。自業自得って言葉を知っているか? 知っているなら黙って乗れェッ」
ただでさえ前倒しで進められていた『P・A』が、さらに急ぐことになったのは、安泰派(宇宙船『アーク』に乗れる者達)が、監視対象である抗議派(ギリギリ足りなかったり、足切りをされて宇宙船『アーク』に乗れなかった者達)に出し抜かれ、『巨塔の魔女』にちょっかいをかけさせたせいだ。
それだけならまだしも、重要書類などを抱えた抗議派関係者に書類ごと『巨塔街』に亡命されてしまう。
結果、『巨塔の魔女』に『P・A』のほぼ全ての情報が渡っている可能性が高い。
『巨塔の魔女』が大人しくアーク出発を待ってくれるとは思えない。だから、これだけ急いでいるのだ。
「くっ……ッ」
「チッ!」
竜人種上位者達は、アークを前に奴隷を連れ込めず、自分達だけ乗ることに抗議をするが、ゴウの反論を聞かされた上に、暴力をちらつかされ大人しく指示に従う。
ゴウは面白くなさそうに舌打ちしていると、ヒソミがアークに乗り込む竜人種上位者を連れてきた。
まだ距離はあるが、竜人種上位者達は先程の彼らと似た文句をヒソミに告げているようだ。
彼は怒らず、適当に受け流している。
ヒソミが連れてきた竜人種上位者達が渋々、アークに乗り込む姿を見送りつつ、ゴウが文句を漏らす。
「いちいち海中ダンジョンまでアホ共を連れてくるのは面倒すぎるぞォッ。おい、転移アイテムは持っていないのかァッ?」
「あったら使っていますよ。ゴウ君も転移アイテムが貴重なのは知っているでしょ? それともアークにあるのを使いますか?」
「馬鹿いえ! アレは切り札中の切り札じゃねぇか! 自分の首を絞めるどころか、切り落とすようなマネができるかァッ!」
ヒソミの言葉にゴウが激怒した。
彼は怒声を浴びても怯えることなく肩をすくめる。
「つまり、大人しく足を動かすしかないということですよ。ほら、もう少しで終わりますから頑張りましょうよ」
「チッ! ぁぁあ……いっそ、もう残りの奴らを殺しちまった方が早くねぇかァ?」
「何、言っているんですか。ほら、もう一踏ん張りしましょう」
面倒になって未だ地上に残る竜人種上位者達を皆殺しにしようと考えるゴウにツッコミを入れつつ、ヒソミはなだめすかしながら彼の背中を押して歩かせる。
ヒソミの言葉通り、あと少しでアークの出発準備が整うのだった。
☆ ☆ ☆
『ビュー』と上空の風を切り裂く音が僕の耳に響く。
飛行中のドラゴンの編隊。
『巨塔の魔女』エリーが乗るドラゴンを先頭に、僕達は眼下に広がる竜人帝国首都を通り過ぎた。
竜人帝国首都に用はない。
ここに竜人帝国側『ますたー』達は恐らくもういないからだ。
僕達は竜人帝国亡命者の書類に記された海中ダンジョンへと向かっている最中である。
空を飛ぶドラゴンの数は約100。
その海中ダンジョンに、『P・A』の根幹たる『アーク』という船が存在するらしい。
海中ダンジョンの大凡の位置も書類に載っている。
しかしあくまで大凡だ。
(まずはメラに海中ダンジョンの大凡の位置を把握。その後、『無限ガチャ』カードやエリー、アイスヒートの力で海中ダンジョンまでの道をこじ開ける!)
位置を特定したら海水を操作するか、凍らせて海中ダンジョンまでの道を作り出す予定だ。
既にメラには話を通し済みのため、探査用の魚を体内で組み上げ済み。
後は書類に載っている水中ダンジョンがあると思われる海上までドラゴンで移動し、探査魚を投入するだけである。
(もう少し……もう少しでとーちゃん、かーちゃん、村の皆を殺し、故郷を滅ぼした奴に復讐をすることができる!)
そう考えるだけで、脳漿が怒りで沸騰するほど増悪が燃え上がった。
僕を乗せているドラゴンが怯えて体を揺らす。
自分に向けられている怒気ではないにも関わらず、ドラゴンが怯えてしまったのだ。
慌てて怒りを押し込むと、ドラゴンは怯えつつも体勢を立て直す。
(復讐相手がいるダンジョンに到着するより早く、ドラゴンの背から墜ちて辿り着けないなんて間抜けなことをする訳にはいかないからな……)
もちろん、ドラゴンから墜ちても『SR 飛行』があるため移動に問題はない。
しかし、建前上『巨塔の魔女』の一団のためドラゴンの移動を徹底したかった。
ドラゴンが竜人帝国を抜けて海上に出る。
船ならともかく、飛行ならもう海中ダンジョンがあるという海上はもう目と鼻の先だ。
(もうすぐ! もうすぐ! もうすぐだ!)
はやる気持ちを抑えていると――。
僕の気持ちに答えるように目標地点の海上ポイントが噴火したように海水が飛び散る。
「!? 全体、一時停止ですの!」
エリー……『巨塔の魔女』が異常を察して、一時停止を呼びかけた。
ドラゴン達は彼女の指示に従い一時飛行を中止して、その場に滞空する。
ポイントの海上が、ぼこぼこと沸騰するように吹き出し続けた。
(海中火山でも爆発したのか?)
僕が訝しんでいると……海中火山より圧倒的に珍しい物が姿を現す。
『!?』
その場にいる全員が驚きで声を失った。
海中から全長約1km。
中心に尖った尖塔がある巨大な城があり、補修されているのか所々修理した痕が残っていた。巨大な円で、その中には畑のような物、果樹園、家畜を飼うスペースすらある。
まるで空を飛び動く、籠城可能な巨大な城塞だ。
そんな巨大な城塞が、海水を半透明な円の結界のようなもので弾きながら姿を見せる。
「あれがアークなのか……」
星々を渡ることができる超規格外マジックアイテム、アーク!
僕は一瞬だけ復讐心を忘れて、非現実的な光景に見入ってしまうのだった。