軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1話 最後の復讐相手

「そうか……僕の故郷を滅ぼしたのは、やはり『ますたー』だったか……。竜人帝国側『ますたー』のリーダーを務める『ヒロ』という奴が、僕のとーちゃん、かーちゃん、村の皆、故郷を滅ぼしたのか……ッ!」

竜人帝国から亡命してきた者達が、機密書類を持ち込んできた。

その書類の中には、竜人帝国側『ますたー』達の悪行も記させれており、僕の両親、村人を殺害し、故郷を完膚なきまでに破壊しつくした者が誰なのか記されていたのだ。

にーちゃんを奴隷墜ちさせ、怪物化に追い込み、妹ユメに苦労をかけさせた者の名前を――。

その者は『ヒロ』というらしい。

『ッゥ!』

姿形も見たことがないヒロに対して、僕はドロドロとした殺意を体中から発散した。

結果、『執務室』にいるメイ、エリー、今日僕の担当メイドである妖精メイドが息を呑む。

自分達に向けられていないと分かっていながら、僕から湧き出る殺意に怯えているのだ。

彼女達を怯えさせ、負担をかけても意味がないため、僕は怒りを理性で内部に押し止め話を進める。

「……ドラゴ達をけしかけ失敗したと分かったら、亡命してくるのは業腹だが、値千金の情報を持ち込んできたのは事実だ。エリー、亡命者の記憶を読み罪を犯していなければ、受け入れ、犯していれば相応の罰を与えろ」

「か、畏まりましたわ」

未だ僕の体から溢れ出た殺意の怯えが消えず、エリーはうわずった声で返答。

亡命希望の竜人種達への対処を指示した後、本命の『ますたー』達について動く。

僕はメイ、エリー、妖精メイドをうながす。

「エリーのドラゴ達の記憶調査と、メイが持ってきてくれた書類から、『P・A』――『プロジェクト・アーク』が前倒しでおこなわれているのは確実だろう。竜人帝国側『ますたー』達が、この星から脱出する前に彼らの身柄を取り押さえる。絶対に逃がしはしない……ッ! 自分達の犯した罪をその体、精神、魂をもって全身全霊で償わせてやる!」

だが、このまま感情に任せて竜人帝国側に乗り込み、『ますたー』達を取り押さえようとするのは下策だ。

『プロジェクト・アーク』は、かなり前倒しで進められているが、それでも明日、明後日に終わる話ではない。

にもかかわらず焦って突撃し、取り逃がすならまだマシで、返り討ちにあい僕だけではなく参加メンバー達が死亡するなどあってはならない。

やるからに確実に竜人帝国側『ますたー』を捕らえるための策、情報収集が必須だ。

「まずは情報収集だ。メイ、エリーは『奈落』最下層、地下牢に行って彼女の尋問準備を頼む。準備ができしだい連絡をよこしてくれ」

「畏まりました」

「お任せくださいですわ」

メイ、エリーが一礼しつつ、返事をした。

彼女達はすぐさま執務室を退出すると尋問準備をするため、急ぎ『奈落』最下層、地下牢へと向かう。

僕はそんな彼女達の背中を見送り、未だドロドロと溶岩のように溢れ出る怒り、復讐心をどうにか押さえつけるため背もたれに体を預け、堅く目を閉ざすのだった。

☆ ☆ ☆

『奈落』最下層、訓練場。

メイ、エリーの力を借りて地下牢に捕らわれている元魔人国側『ますたー』のミキが『SSSR 呪いの首輪』、 戦略級(ストラテジー・クラス) 、 茨の束縛(ドルン・フェッセルン) によって拘束された状態で椅子に座っていた。

いくら『SSSR 呪いの首輪』で弱体化しているとはいえ、『ますたー』だ。

レベル9999が最低でも一人立ち会い、ガチガチに拘束しなければ尋問などできない。

彼女はいつもの『情報交換の対価にスズちゃんにアレコレできる! やったー!』という態度、表情ではなく、居心地悪そうにしている。

「…………」

ミキは珍しく女性達にセクハラ発言もせず、そわそわと彼女達に落ち着きのない視線を送っていた。

どうやらメイ、エリー、準備を手伝った妖精メイド達の態度から『ただ事ではない』と察したらしい。

(なんだかんだいって、こういう空気を読む力に長けているから彼女は未だに生きているんだろうな……)

スズに一目惚れしたからということで僕達の側に亡命したが、仮にあそこで無駄に頑張って戦っていたら、今の待遇は得られなかっただろう。

そういう意味で、めざといと言うか、機を見るに敏な人物である。

僕は拘束されているミキへと歩み寄り止まり、彼女に尋ねる。

「竜人帝国側『ますたー』達、特にヒロという人物について詳しい情報が必要になった。いつも通り対価を払うから――チッ」

台詞途中で僕は軽く舌打ちしてしまった。

この舌打ちにミキだけではなく、メイ、エリー、妖精メイド達も怯えから一瞬肩を震わせる。

別に彼女達に対して思うことがある訳ではない。

むしろ自分に対しての舌打ちだ。

ただミキと交渉する際、大抵スズに『何々して欲しい』と要求してくる。

この場にスズが居ないため、勝手に内容を決める訳にはいかない。

(いつもならそれぐらい頭が回って、スズに『念話』で連絡を取って来てもらうのに……。冷静さを取り戻したつもりだけど、まだ頭が茹だっているようだな……)

自分の段取りの悪さに再度、舌打ちしそうになるが止めた。

下手に舌打ちしてメイ達を怖がらせたくなかったからだ。

僕が『SR 念話』でスズを呼び出すより先にミキが切り出す。

「あ、あのさ、竜人帝国側『マスター』とヒロについての情報が欲しいの? なら対価なんだ……」

「――今、スズに連絡を付けて来てもらうから。段取りが悪くて申し訳ないけど、もう少しだけ待ってもらってもいいかな?」

「いつもならスズちゃんにお願いするけど、今回は別の要求をしてもいいかなぁ?」

「別の要求?」

珍しい申し出にこの時だけはヒロ達に対する怒りも忘れて、小首を傾げた。

ミキはこちらを伺うような、媚びるような態度で要求を告げる。

「知っている限りの竜人帝国側『マスター』とヒロについて話をするから、終わった後、ミキを拷問したり、殺害したりしないって約束して欲しいのよぉ。もちろん待遇は今まで通りでいいから……駄目かなぁ?」

「…………」

まるで追い詰められた小動物のような目でミキは要求してきた。

彼女の第六感が何かを感じ取ったらしい。

僕は目を細めミキを見つめる。

(……ここで拒絶して、他の要求を求めたら『後ほど拷問、殺害する』って断言するようなもの。竜人帝国側『マスター』とヒロの情報を口にしない可能性もあるな)

もちろん、亡命してきた竜人種達が持ち込んだ書類の中には竜人帝国側『ますたー』達の情報や彼らがアークを隠している大凡の場所など色々情報はある。

だからと言ってミキが知っている情報を軽視するかは別問題だ。

彼女の要求を蹴って、情報無しで竜人帝国側『マスター』とヒロに挑むことも可能だが……。

彼らを取り逃がす可能性は当然高くなる。

両親、故郷壊滅などの復讐を確実にこなすため、彼らの情報はあればあるだけ欲しい。

ミキは媚びるように笑いながら、

「ど、どうかな? もし何だったらライトちゃん、ミキのことを好きにしてもいいよ? ライトちゃんは結構ミキの好みだし、Sも、Mもどっちもこなせる自信が――ッゥ!」

『…………』

ミキの軽率な発言に、メイ、エリー、妖精メイドが彼女に向けて純粋な殺意を向けた。

彼女は自分が失言をしたことに遅ればせながら気づき、ダラダラと汗を流す。

感情的にミキに手を出され、『 誓約蜂(オウス・ビー) 』のルールに抵触して死亡。情報が得られなくなるのを避けるため、軽く手を上げる。

僕が軽く手を上げると、殺気は最初からなかったように消えた。

ミキは安堵の溜息を漏らす。

そんな彼女に僕は返事をする。

「分かった。竜人帝国側『ますたー』、ヒロについて知っている限りの情報を――いや、もうこの際、知っている情報を全て話せば拷問、殺害もしない。待遇も緩める。僕、ライトの名に懸けて約束するよ」

「あ、ありがとう、ライトちゃん! ミキ、知っていること全部話をするわねぇ! でも、そうなったら、スズちゃんに色々要求できなくなっちゃう――ううん! 生きていればアタックし続けていつか心を開いて、ミキを受け入れてくれるはずだものねぇ!」

『…………』

ミキはようやく同意した。

また最後、『いつかスズに自分を受け入れてもらえる』と前向きな言葉を口にしていたが、僕を含めてメイ達も『その可能性はゼロだろうな』とつい考えてしまう。

スズがミキを心底嫌っているのは『奈落』最下層では常識だ。

彼女がいくら頑張っても覆ることがないレベルで。

だがそれを口にして折角、全ての情報をあかすと言うミキの機嫌を損ねても意味はない。

(『沈黙は金、雄弁は銀』って本当なんだな……)

僕は胸中でそんなことを考えつつ、ミキが話し出した情報に耳を傾けたのだった。